★亜熱帯夜話 Ⅱ (栱英)

※露骨な性描写が含まれます。十八歳未満の方の閲覧は禁止します。




 腐った果肉に指を沈めると熱い。同じ温度で栱梛の肉を食い締める英は、色白の胸元まで真っ赤にしてふうふうと息を吐いている。あかるい月光を遮るブラインドが、じっとりと湿った肉体に熱帯の椰子の葉のような陰を落としている。

 肉体関係を持つようになってどのくらい経つのか、一瞬ぼやけてしまう。今年の夏だったっけ、と思い、それから、三度、夏至の夜に肌を合わせた思い出が甦る。もう三年になるのか、と驚く。

「はやくしろよ……」

 我慢のきかない英のおねだりに、奴隷のように愚直に、栱梛は腰を進める。途端、英は悲鳴に近い声をあげて、ぎゅっと腹筋に力がこもった。初めてねじ込んだときに、裂けて破瓜のように血を流したことを忘れたのか。バカだなあと愛しく思う頭蓋のなかに鼓動が反響する。次第に抜き差しを速く、激しくしていけば、英は全身を強張らせて、悲鳴と嬌声を交互にあげている。後先構わないからこんなことになるんだ。じんと痺れて溶けるような結合部の熱が放散する尻と腿、腰と会陰、絡まりそうな二人分の陰毛は色が違って、擦れ合うそこで蒸れた汗や他の汁がぐちょぐちょと肉と肉の間で粘稠な飛沫を跳ばす。体を前に倒すと胸や腹も触れ合い、びりびりとあちこちで熱が生まれる。自分の吐息がうるさくて英の悲鳴が聞こえない。喉を締められた絶叫に近いと思うのだが。

 甘い、甘い、脳が腐って溶けたような甘い匂い。

 果肉の奥を抉ると、甘えた声をあげて、英が腰をがくがくと振りたくって、跳ねあがるペニスの先からとろとろと垂れ流すように射精した。どろりとねばっこい白が幹を伝っていくのを見ながら、無造作に掴んでしごいてやると、胸元まで紅潮していた色白の体がえび反りになり、腹の下の方まで紅く染まる。赤黒いほどに染まる頸筋くびすじで喉仏が痙攣する──体の奥から貫かれて喉からペニスを吐き出しそうだ、と滑稽なことを考えれば、そのチープな残酷さに腰が熱くなった。骨盤を掴み、押し込んでオナホールのようにぐちゃっぐちゃっと奥まで臓物を使ってしごくと、英の悲鳴が嘆願に変わった。たすけて、おくだめ、だめっ、しぬっての、やめろ、やめてっ、息も絶え絶えの声が、一瞬息を飲んだ空白のあと、突然でき損ないの断末魔のような引き攣った悲鳴に変わった。切れ切れの絶叫、それから十秒間ほど、英は声もなく白眼を剥いて全身を硬直させていた──その間、噛みちぎらんばかりに締めあげる穴にラストスパートとばかりに数度強く打ち込み、獣の唸りのような呻きをあげて沸点を迎える。その低い声を聞いたとたん、指先まで硬直していた英が突然激しく痙攣し、尿のようにぶしゃぶしゃと潮を漏らした。

 そんな様子も意に介さず、容赦なく奥まで割り拡げて押しつけて肉の締めつけを味わい──やっと栱梛が、歯を食いしばりながら腰を離した頃には、すっかり脱力した英は薄く瞼を開けたまま失神していた。金がかった睫毛が涙で濡れてくっついている。ぽたぽたと栱梛の汗が滴り落ちる肌はまだ真っ赤で、水をかぶったように濡れている。今にもベッドに沈んでしまいそうな体を奮い立たせて、枕元に用意してあったタオルとティッシュをとり、必要最低限の部分と、ある程度英の体も拭いてやって、シーツの上に敷いてあったぐちゃぐちゃのバスタオルを床に落とし(普段なら洗濯機に投げ込むが、今日は疲れすぎていた)、やっと少し湿ったベッドに沈み込んだ。隣の英は、いつのまにか落ち着いた深い寝息を立てている。

 こんな風に搾りとりあうようなセックスばかりしていると、終わったあとは墜落するように眠ってしまう。ベッドサイドに、飲まれない睡眠薬が溜まっていく。

 依存だ。

 薬でなく、存在への。

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