Deadly Triad

★"I Love You Silly" (波真波)

※直接的なR-18性描写、匂わせる程度の暴力描写があります

※普段は固定の二人が攻守交代する話

※この話では直接登場しませんが、近親相姦描写を含む三角関係が存在します


攻め(普段は受け)・伊良草 真紵

 不良青年。外国の血を引いており美形だが体が弱い。

受け(普段は攻め)・峯 波潤

 ナチュラル狂人。従弟の寅郎と度を越して仲が良い。真紵の顔と態度が大好き。




「今日、こっちにしようか」

 そう言って、いつも通り死体になったつもりでベッドに横たわった真紵まおを、波潤はじゅんはやたらに長い脚で跨いだ。

「こっちってどっちだよ。まー好きにすりゃいいんじゃねーの」

 どうせボロボロにされるのは変わらないんだし、とぐったりと力を抜いた──急に殴られたときのために気は抜いていないが。

 自分を跨ぐ男から視線を外すと、ベッド脇の壁には「時計仕掛けのオレンジ」と「ミステリートレイン」のポスター。いつもベッドの上からそれらを見るたび、真紵は「ベッドの周りにポスター貼る奴って、目合って気まずくならねーのかな」と不思議に思っているが、貼った当人は恐らく気にしないのだろう。ベッドの上に無造作に置かれた、ゲーセンのぬいぐるみを見てもそれは察せられた。

「今日さあ、、夜まで帰ってこないんだよね。友だちとバッティングセンター」

「アイツ、そんなマトモな遊び方するんだな」

「まおくん、家に連れてくよぉって言ったのに」

「…俺はついてくとは言いませんでしたがね」

 言っても無駄なのは重々承知で、真紵は吐き捨てる。

 伊良草いらくさ真紵が、この従兄弟たちのおもちゃにされるようになって、三ヶ月は経とうとしているだろうか。

 美しいが鋭い目鼻立ちに派手な色に染めた髪、常にどこかに負った傷。不良と名高かった真紵が、同じ高校のみね波潤と峯寅郎とらおという、非常に──あらゆる意味で──厄介な二人に喧嘩を売ってしまったのが運の尽きであった。

 今目の前で自分を組み敷こうとしている波潤はともかく、寅郎のほうは、ピンクに染めた髪といい、軟派そうな可愛らしい顔立ちといい、真紵なら勝てるはずだったのである。それが、度外れた体力とイカれた喧嘩ジャンキーっぷりを発揮し、あまつさえ彼と同類の従兄を真紵のところへ連れてきた。──テコンドーの有段者であり、寅郎に輪をかけて四、五本は頭のネジをなくしていそうなこの波潤という男を。

 それ以来、蜘蛛の巣にかかった蝶のように、もがけばもがくほど糸に絡め取られ、二人がかりでありとあらゆる暴行を加えられた。そのなかには勿論、性的なものも含まれる。さらに問題なのは、二人はそれを「お気に入りの真紵おもちゃと遊んでいる」と捉えているらしいというところなのだが。

 そんな波潤と寅郎は、家庭の事情により、まるで実際の兄と弟のようにひとつ屋根の下で暮らし、ひとつの部屋の真ん中をカーテンで仕切って使っている。その屋根の下に引っ張り込まれて弄ばれるのにもそろそろ慣れてきたが、こうしてベッドの上に横たわるとき、いつも半端に開いたカーテンの隙間が真紵は気になる。寅郎側のスペースには服やゲームのリモコン、ゲーセンのぬいぐるみなどが散らばっている。従兄弟とはいえ、部屋を共有なんて気色悪いと真紵は思うのだが──まあ従兄弟同士でセックスするくらい距離感が狂ってるこいつらなら別に何も問題ないんだろうな、と思考を止める。今は留守にしている寅郎は、波潤を「じゅん兄」と呼んで慕い──その感情は、真紵から見ても兄に対する思慕以上のものが含まれていると歴然なのだが、波潤の方はというと、スマブラをする感覚でセックスをしているとしか考えられない。本当に狂った「兄弟」だな、と憐れむことで、真紵は壊れずに済んでいるのかもしれなかった。

「まおくんって男抱いたことある?」

「は? そっちって、そっちかよ」

 やっと意図を理解し、思わず体を起こす。

 波潤にそれをさらりと無視して、両脚を抱えてずるずると引っ張られ、脚をベッドからおろされると、次に腕を掴んで上半身を起こされる。そうして波潤は、真紵をベッドの端に腰掛けさせて、脚の間にしゃがみ込んでから、おもむろに上目遣いで真紵の顔を見た。

「まおくんって俺でたつの」

「さあな。お前の頑張り次第だろ」

「え、やば。野郎でたつんだ」

「おいお前が訊いたんだろうが」

 しかもいつもバッキバキに野郎である俺で勃ってるお前が言うな。とリズミカルにデコピンをしながら真紵がぼやけば、波潤は首をかしげながら「だって俺はバイだしぃ」と語尾をたらんと伸ばす。

「まおくん男もいけんだね」

「いけないと思ってたのにこれまで突っ込んでたンかよ」

「んー、いれられるのといれるのって別だから」

 返事をするのも面倒になった。それに、もうベルトに手をかけられている。こいつの従弟くらい顔が可愛ければもうちょい勃ちやすいかな、と思いつつ、されるがままに受け入れる。どうせいつもだって、男がいけるかどうかなんて確認せずに突っ込んだりするんだし。

「濡れてる」

 陰毛を触って言う波潤に、「さっきシャワー浴びてきたからな」と適当に返すと「まおくん下も金なのに、濡れると色暗くなるよね」などと言い出す。変なとこ観察してんじゃねえ、と言い返すより先に、思いの外ためらいなく肉を舌の上に載せた。いくつもの舌ピアスの、生ぬるい金属が敏感な粘膜を擦る。

 絵面としてはエグい。滑稽というか、よく言って滑稽で、正直に言うとグロい。筋肉でシャツが丸みを帯びて隆起した背中、広い肩幅を丸めてペニスにしゃぶりつく男の姿は、女しか抱いたことのない目にはパンチが強すぎる。

 なのに、どうしてこんなに興奮するのだろう。

 ベッドに手をついて、前屈みの体を肘で支えて、首をすぼめて野郎の性器をしゃぶる唇が意外と厚いことに気づく。床についた膝に少しだけ埃がついているのを見て、膝が汚れるということは、英語でフェラチオの婉曲表現だということをぼんやり思い返す。相手に膝をつかせるという行為に伴うこの高揚が、これほど性欲に直結しているとは。

 眠そうな形の目が、伏せられた睫毛でよく見えない。頭を押さえつけてやろうか、と思ったが、急所を掴まれているのでやめた。センタータンのシルバーが、何度も先端の割れ目を往復する。奥まで咥え込むよりも、軽くしゃぶったり、器用に舐めたり、意外に武器の多いやつだな、とその肉厚の舌に身を任せていると、不意に波潤が口を離した。思いきりのよい仕草でばっとシャツを下着ごと脱ぎ捨て、ついでに真紵のシャツのボタンも乱暴に外しだす。

「自分で脱ぐっての」

 それを拒んで制服のシャツを脱ぐ間に、相手は下まで脱ぎ捨てた。床に投げられたズボンに、あー寅郎のほうもこんな風に…と散らかっていた衣服の理由がわかってしまい、げんなりする。

 裸になった波潤は、真紵の腰を勢いよく跨ぎ、ベッドが大きく軋んだ。やっぱこいつ、セックスのこと遊びかスポーツだと思ってるよなあ、と真紵は額に手を当てる。いつの間にか、ワセリンの缶とローションの袋を両方開けてベッドの脇に放り、中身を充分に指にまとわせて慣らしている。

「……あー、まおくんのっ、けっこー硬いね、おおきいのに」

 腰を浮かせた波潤は、先端を咥え込んで一度そう言って、ふうとつらそうに息を吐いた。目元に朱がさし、玉のような汗が額に浮かんでいる。こいつはよく汗をかく。代謝いいんだろうな、なんてどうでもいいことを考えて気を逸らしたくなるくらいには──具合が良かった。

「あー、はらたつ……」

「わ、わ、すご」

 歯を食いしばって小刻みに腰を上下させる。太い腿が張り、そこに汗が滴る。

「まおくんほんと、きれーな顔してる、ね」

 不意に波潤は、真紵の頭の横に両手を置いてぐっと覆いかぶさる。それでも腰は全て落とさず、中ほどまで性器を咥え込んだ尻が見えて、うわあ、エグ…と真紵は目を細めた。ケツの穴ってここまで広がるんだ。ほぼグロ画像だろこれ。そんな風に思うのに、自分のペニスはますます硬くなる。

「おい、ちんたらしてねーで萎える前に早くしろ」

「だってここ、いちばんきもちいい…あーやば…キく…」

 波潤は狙って同じところを擦っているようで、眉間にぎゅっと皺をよせていつも垂れ気味の眉を余計に困ったようにさせている。腰を上下させるたびに額から汗が吹き出て、胸元までなめらかな皮膚を伝う。真っ赤になった首筋や鼠蹊部に静脈が浮き出ているのを見て、絶頂が近いのを察する。

「全部いれろ」

「むりぃ……ここでいっぺんイキたい」

「お前の都合だけでセックスすんなや」

 ぺちん、と内腿を叩くと、ぎゃぅ、と小さいうめきをあげて体を丸めて震える。そのペニスの先端から、とろりと透明な液体が垂れた。

「…あのさぁ」

「叩かれんの好きなのは、まおくんも変わんないからね?」

 息を乱しながら先に言われた。ぐ、と真紵も詰まる。好きじゃない、好きなんかじゃない、と言ったらどうなるか、と考えるくらいには、波潤に抱かれている間の自分は苦痛で興奮している自覚はあった。

 亀頭の膨らみで前立腺をごりごりとこそぐように擦っている波潤は、ぎゅっと目を閉じて唇を引き結んで、甘ったるく声を漏らしている。それを冷めた目で眺めているつもりが、──明らかに自分の首筋がどくどくと脈打っているのがわかる。こめかみの血管が膨張して、皮膚の薄いところからじわりと汗が滲む。

 普段自分を組み敷いて、暴力でも性欲でも、好きに甚振っている男が、みっともなく雌になっているのを見るのが、こうも興奮するとは。

 膝頭を掴み、無理やり突き飛ばす。不意を突かれた波潤は、後ろ手をついてなんとか倒れないように支えたが、ペニスは抜けてしまい、率直に物足りないという顔つきをした。その表情にもまた腹の中のなにかが燻り、真紵は波潤の上に膝を置いて体重をかけた。

「……俺がしてやるよ」

 乱れた金の髪をかきあげると、波潤の瞳孔がどろりと開き、目を奪われたのがわかる。この男が自分の外見に夢中なのは今更だが、それでもそれをわかりやすく示されるときほど、真紵の歪んで壊れている自尊心が満たされるものはない。

「ほら、突っ込めねえだろ」

 冷笑と呼べる類いの表情をつくれば、波潤のとろりと開いた唇の隙間で舌が潤む。うつ伏せになろうとする腕をとり、そのまま腿を開いて持ち上げさせる。

 挿入のときは、女の膣よりも熱かった。飲み込まれる、と本能で感じる。腰をすすめると触れ合う肉体はしっかりと筋肉質な男のもので、それでも萎えないのが悔しかった。

 むっちりとした大胸筋がわずかながら揺れるほど腰を打ち付ければ、その勢いに少し怯えたように、波潤が真紵を見上げる。

「わ、まおくんが腰ふってる、わっ、すごい、めっちゃきれい、えっち」抱きたくなる、どうしよ、とうわ言のように声を漏らし、上ずらせて自分のペニスを扱きだす。

「あ、あ、きもちい、すご」

「うるさ、いんだよっ」

 ずる、と引き抜き、ぱしんと濡れた尻を引っ叩く。足開け、と命令するとき、女をモノのように扱って抱くときの感覚が思い起こされて、──それよりも数倍興奮している自分に気づく。

「裂けたらごめんな?」

 わざと耳元で囁くと、ぐっと勢いよく指を三本突き込んだ。もちろん、指先は少し丸めて、中指と薬指に後から人差し指を添わせるように──ここまで気遣ったのに、波潤は悲鳴に近い声をあげて体を丸めた。中は思ったより余裕があったので、小指もぬるりとねじ込む。締め上げられたが、強引に中で指を広げると、波潤はシーツを掴んで大きくのけぞった。さっきまで、自分でたっぷり好きなところに当ててほぐしていたから、耕されている場所を乱暴に揉み込んでやれば面白いように足がシーツを蹴った。

 手マンってクソ疲れんな、よくこいつ普段からこんなんしてんな、とぼんやり思う頭は既に熱に浮かされていて、舌なめずりしたことにも気づかない。

 仕返しも込めて、指を四本、根元近くまで、がしがしと乱暴に出し入れするたび、浮いた腰が、がくっ、がくっと断続的に痙攣し、ぶるぶると筋肉が震える太腿と下腹の上でみっともなくぱんぱんに充血したペニスが揺れてぺちぺちと情けない音を立てた。

「……っ、…っ……く、ぅ…っお………っ! イッ…でぅっ、イぐ、イ゛ッ…!」

「すげーよお前の格好、ビデオ撮ってやろうか」

 そんな余裕がこっちにないのは真紵自身わかっていたが、波潤はそもそも話を理解できているのかいないのか、歯を食いしばった口元の両端から涎を垂らし、涙なのか汗なのかわからないほど濡れた顔に鼻水の筋までつけながら押し殺した声を絞り出し続けている。

「顔から出るもん全部出てんじゃん、漏らしたら殺すからな」

「お゛っ、もう、もうでてるっ、ザーメンでるっ」

「バカ、ションベンとかだよ」

 力を込めた指を一気に、内壁を押し込みながら引き抜く。言葉通り、波潤のペニスから断続的に精液が噴き上がった。声にならない声をあげてぬいぐるみにしがみつく上半身を無視して、素直な下半身を見ると、異物にむしゃぶりついていたアナルがひくひくと口を開けて必死に次をねだっているので、今日は大人しく要求を飲んでやることにした。つまり、ゴムも付けずに一気に奥までブチ込む、という意味だ。

「俺って優しいよなぁ。な、波潤?」

「お゛っ………い゛……ぉ…」

 半ば白眼を剥き、なにか絶叫しているような表情ではあるのに声も出さず、感電したように硬直した全身が反り返った腰を中心に痙攣している。

「そんなにイイかよ」

 苦労して腰を進めながら問いかけても返事はない。腹筋が波うち、胸から上が叩かれたように真っ赤に染まっている。

「チンポとツラおんなじ色してんぞ、バーカ」

 顎を掴んで煽れば、「ぁって、だってっ」と息切れもいいところの返事がある。「死ぬっ、こんなのっ、こんなの死ぬ、しんじゃう、しぬっ」と白眼のまま繰り返す。面白くなって、体を前に倒して出し入れを速くする。自分も大概赤くなっているんだろうな、と、耳の中で鳴る鼓動の激しさに思う。ぱたり、と、自分の玉になった汗が相手の胸に落ちて混ざりあった。

「おまえトびすぎ、クスリでもキメてんのかよッ」

「ちが、これ、これはじめてぇっ、これはじめてのやつっ! 奥、奥して、もっと掘って、あっあっあっイぐ、いぐ、いぐーッ」

 喉の奥から迸る絶叫のあと、肉の穴がぎゅうつと奥まで収縮してきつく搾り上げた。思わずうめき声が出る。持っていかれそうになった。半狂乱で尻を振りたくる波潤の指が真紵の腰に食い込み、根元までずっぽりと飲み込まれる。

「まおくんのっ、まおくんのおちんちんきもぢイイ、ぎもぢいいよぉーッ奥っ、おぐ、おぐでイグっ、やだ、やだ、しぬうぅっ」

「じゃあ死ねよッ、この変態っ……はっ、いつも俺におんなじことしてるクセによ」

「うそ、なに、なにこれ、まおくんいつもこんななの? こんなきもちいいの? やだ、くそっ、ひっ、ひっ! ひいっ、ひっ、っぎぃ……」

「あーそうだよ、ほら、これもするだろ、お前。…これで追加で首でも絞められた日にはもうマジで天国見れるんだぜ、なあっ」

 波潤の濡れそぼった亀頭から裏筋にかけてぐっと摘まんでいじめると、爪先までぴんと突っ張ってぶるぶる震えている。自分が喘息の発作を起こしたときみたいに息が吐けずに、耳まで真っ赤になって、涙でぐしゃぐしゃになっている。中の締まり具合からして、何度も押し寄せて引かない絶頂の波にもう狂いそうなのだろう。

「乳首いじれよ、お前そこでイけるだろ」

 言われた波潤が、左の乳首をぐいと引っ張る。その手を掴んで、胸ごとつぶすように揉むと、「まおぉ」と泣き声で名前を呼ばれた。

「………あ゛ー、クソ」

 低い声が出た。一度体を起こし、深く息を吸う。額を合わせ、奥深くまで繋がったまま、耳元で一言だけ囁いた。





「すごかった………」

 ぽやーっとしている波潤は、まだぐしょぐしょのベッドからも起き上がらないで、開ききった尻の穴から精液とローションを垂らしている。その尻をぺしんと叩き、真紵は「シャワー行け、それとシーツ洗え」と掠れた声で言う。とっくに外は暮れて、電気もつけずに盛っていたので、部屋は暗い。

「まだなんかきもちいい……」

「おいコラ、ケツでオナってんじゃねえ。俺もう無理だからな」

「ねー、もういっかい……指でいいからさぁ」

「アホか、あれすげえ疲れんだよ」腕つりそう、と右手をぶらぶらさせながら、床に座り込んで勝手に冷蔵庫から取ってきたヤクルトを飲む。蓋に思いっきり「とら」と書いてあったが、無視して三本取ってきた。一本だけ「じゅん」と書いてあったので、それを開ける。

「…まおくんって、もしかしてめっちゃセックス上手い?」

「………いや、知らねーけど、そんなAV男優みてえなテクはねえよ」

「ほんとすごかった…死ぬかと思った……」

「そのまま死んでくれてもよかったんだぜ。お前みたいな色情狂には最高の死に方だろ、腹上死」

 もうしばらく動きたくない、とヤクルトの空いた容器を床にそのまま置く。その首筋に、するんとベッドの上から波潤の腕が巻きつく。

「なんかね。まおくんが俺で勃って腰振ってるんだって思ったら、マジでなんも考えられなくなるくらい興奮した」

「……あー、そうですか」

 少し前に抱いた、「大好きな相手ならどんな下手くそでも本気でイける」と言っていた地雷系の女を思い出した。濡れやすくはあったが、本気でイッてなさそうだったので、このクズメンヘラが、と思って捨てたのだった。

「また夜にセックスしよ、とら帰ってきたらさぁ」

「アホか。だから俺死ぬって」

「次は俺がやるからぁ」

「余計死ぬわ、ボケ」

 波潤はもぞもぞと起き上がり、いろいろ最悪な液体で湿ったぬいぐるみを投げてくる。思わず空中で叩き落としたが、「床、固くないの?」と怪訝そうに訊かれたので、これに座れという意味らしかった。

「…これも、それとベッドのマットも洗うか干すかしろよな。俺二度とそこ寝ねえぞ」

「あー……マットのこと考えてなかった……」

 いいや、今日はとらンとこで寝よ……と、ベッドからやっとおりて、真紵に抱きついてくる。だからシャワー行ってこいって言ってんだろ、と口では言いつつ、払い除ける気力もない。

「そんなにまたしたいなら、とらちゃんとしたらどうですかぁ」

 それを聞いた波潤は、えー、と不満そうな声をあげた。首筋に唇を寄せ、真紵の汗の滲んだ皮膚を舐めて軽く吸う。

「とらとしても、こんなにならないもん、なんかさ。ほんとにまおくんが初めてだったんだよ、なんでだろうね」

「………お前、本当にさあ」

 言いかけて、結局真紵は口をつぐんだ。

 互いに色に狂って頭が蕩けている最中に、自分が囁いた一言を、この男は聞いても覚えてもいないに違いない。そしてその言葉を、真紵自身、正気の沙汰で言えるわけがないのだ。







  ─ "I Love You Silly"

    「愛してる、馬鹿」

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