時々ボソッとロシア語でダレる隣のアンナさん
日曜日。
今日は、僕も撮影に参加したショートムービーが完成したというので、午後から学校の視聴覚室で上映会が開催される。
ショートムービーは、僕が参加した他にも2本あって、それも既に完成しているらしく、今日は3本同時上映となっている。
ショートムービーなので、それぞれの尺は30分程度の長さ。
なので、上映会は1時間半ぐらいで終わるという。
僕が視聴覚室に到着すると、ショートムービーに関わった映画研究部、演劇部、執筆部の面々がだいたい集まって来ていた。
僕が視聴覚室に入ったところで、雪乃が僕に気付いて話しかけて来た。
「純也!」
「や、やあ。雪乃」
「一緒に見ようよ」
そう言って、まだ誰も座っていない席の方へ、僕の腕を引っ張っていく。
僕らは、しばらく、ここ一週間の出来事を話したりして過ごす。
僕はお城巡りをしていたが、雪乃は演劇部の練習をしているそうだ。
演劇部で新入生を勧誘するための寸劇を練習中だという。
その内容は秘密だそうで、教えてくれなかった。
上映の始まる直前、僕を挟んで雪乃とは反対側の席に座ったのは、執筆部所属のペンネーム=アンナ・鶴ゲーネフこと森さん。
僕は挨拶をする。
「やあ」
「どうも」
森さんはちょっと気怠そうに挨拶を返してきた。そして、ボソッと独り言を言う。
「Я устал от того, что меня вызывают в школу в воскресенье.(日曜日に学校に呼び出されてダルい)」
よく聞き取れなかったので、尋ねた。
「え? 何?」
「なんでもない。独り言よ、ロシア語でね」
「あ、そう…」
なんでロシア語? と思ったが、そう言えば森さんはロシア語で語学研究部に所属しているんだっけ…。
ペンネームもロシアの文豪をモジったものらしいし。
そんなこんなで、窓のカーテンが閉められて電気が消され、正面のスクリーンへショートムービーの上映が始まった。
まず1作目。
映研が勧誘のために、新入生オリエンテーションの時に上映するため作った作品。
シナリオは執筆部の誰かが書いたらしい。
内容はナンセンスギャグ。雪乃も脇役で出てた。
ちょっと、面白かった。
次に2作目。
演劇部が勧誘のために、新入生オリエンテーションの時に上映するため作った作品。
シナリオは森さんが執筆。
内容はシリアスなミステリー。雪乃も脇役で出てた。
森さんのシナリオは、すごくいいと思う。
年末に見た演劇も森さんが脚本を書いたもので、とても面白かったな。今日も感心した。
才能があるんだなあ。
最後に、僕と雪乃が主演しているラブコメ。
シナリオは執筆部の堀君が執筆。
この作品は僕らのキスシーンもあるし、かなり気恥ずかしい。
そして、僕の演技は下手だ。
雪乃の演技が上手すぎるので、その対比として僕の下手さが目立って良くないな…。
今更だけど、本当に僕が主演をやってよかったんだろうか…?
上映中に、隣の席で森さんがボソッと言う。
「Не интересный фильм(ダルい作品)」
よく聞き取れなかったので、尋ねた。
「え? 何?」
「独り言」
「あ、そう…」
上映が終わり、電気が付けられた。
森さんがまたボソッと言う。
「Я устал(ダルい)」
また、独り言か。
僕は今度は聞こえないふりをした。
作品が無事完成したということで、皆で話し合って、今からここで打ち上げをしようということになった。仕方なくちょっと付き合うことにする。
ということで、だれかが事前に準備しいていたお菓子とかジュースが机の上に置かれ、乾杯の後に宴会が始まった。
ご存知のとおり僕は、大人数で騒ぐのは苦手なのだ。
それに、ここでは雪乃ぐらいしか話し相手が居ないからな。
色んな人に話しかけられても、あまり話題が無い。
結局、ほとんど雪乃と話をしていた。
2年になったら、雪乃が演劇部の部長をやることになったそうだ。
そして、改めて生徒会長選挙にも出ると彼女は言った。
『応援演説をよろしく』と言われた。
そう言えば、そんな話もあったっけ?
さらに、副会長をやってくれと頼まれる。
『今みたいな、“居るだけ副会長” なら良いけど』と返しておいた。
2時間ほど経って宴会は終了した。
後片付けをして、視聴覚室を後にした。
そして、いよいよ明日から新学年だ。
2年のクラス分けで、悠斗、雪乃や毛利さんと別のクラスでボッチになるかもしれないし、歴史研の部長をやらされるし、なのに上杉先輩と伊達先輩は引退しないし、忘れそうだが怪文書と “P”の正体もわからないまま…。
気苦労が絶えない。
今は、VRMMOPRGの中の異世界だけが安息の場所となってしまっている。
新学年。いろいろ期待と不安が交錯する(ほとんど不安だ)が、なんとかやっていくしかない。
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