闘争心

 日曜日。

 今日もショートムービーの撮影である。

 3月初めから、平日は学校、土日は撮影で、今日まで10日間も休みがなく、さすがに疲れがたまって来た。

 雪乃をはじめ、他のみんなは大丈夫なのだろうか?

 そして、今月末まで撮影は続く。

 まだ先は長い…。


 撮影の前に、演劇部と発声練習とかも一緒にやらされている。

 アメンボがどうとか…。

 演技では、なかなか慣れない部分もあるが、それでも撮影は何とか順調である。

 途中で休憩を入れているし、僕の出演でない場面もまあまああるので、その時は休めている。


 午前中、校舎内の下駄箱付近で撮影をしていると、ゾロゾロと他校の生徒が入ってきたので、撮影は小休止。

 ほとんどが男子生徒が7~8名で、女子生徒は2名。

 制服は見たことがないが、どこの学校だろう?


 そんな他校の生徒たちを迎えに来たのは、将棋部の成田さんだった。

 彼らと挨拶をしたあと、少し何やら話をしてから校舎内に招き入れる。

 成田さんと彼らは撮影班の前を通る。


 成田さんが僕に気が付いて話しかけて来た。

「あら、純也くんが日曜に学校にいるなんて珍しいですね」


 皆から、もれなく、そんなこと言われている。


「や、やあ。ショートムービーの撮影で来てるんだよ」


「そうだったんですね」


「成田さんは?」


「今日は、黒鐘高校の将棋部と交流試合をやるんですよ」


「黒鐘高校?」

 はて? どこかで聞いたことがあるような。

 しかし、思い出せない。


「じゃあ、失礼します」

 成田さんは、黒鐘高校の将棋部を待たせては悪いので、僕との会話は少なめに去って行った。

 成田さんとのやり取りを見ていた雪乃が話しかけて来た。


「今の誰だっけ?」


「成田さんだよ。将棋部の」


「ああ、あの人が成田さん。ちょっと前に純也たちが話してたね。“美人女子高生棋士”とか言われてて、将棋界ではちょっと有名人だとか」


「そうそう。YouTubeに出てるんでしょ? 僕は見たことないけど」


「私も負けてられないなー」


 なんか闘争心が出て来たみたいだ。

 雪乃は女優として有名人になりたいみたいだし、負けず嫌いだからな。

 しかし、今は当然、全くの無名だ。

 僕はそういうのが無いから成田さんに対しては、なんとも思わないけど。


「それで」

 雪乃は僕の顔を覗き込むように近づいてきた。

「なんで、成田さん、純也のこと名前呼びなの? 親しかったっけ?」


「え? ああ、行きがかりで…。というか、雪乃たちの陽キャグループは男女構わず名前呼びじゃん?」


「そうだけど、純也のことを名前呼びするの、私と真帆ぐらいでしょ?」


「ま、まあ、そうだね」


「成田さんも、純也に気があるのかもよ」


「いやいや。そんなことはないでしょ?」


「わからないよー。純也はモテるから」


「ないない」


「そう言えば」

 雪乃は唐突に話題を変えた。

「真帆と言えば、最近、真帆と会ってる?」


「いや。今月は週末に、この撮影があるから、O.M.G.のライブの手伝いができないから全然会ってないよ」


 先月は毎週のようにあった平日放課後の呼び出しもないな。

 しかし、ホワイトデーでお返しをするために、近々会う約束をしないとなあ。

 後で、LINEしてみよう。

 雪乃との会話は適当に終了し、再度、撮影に戻る。


 そして、夕方になり撮影は無事終了。

 撮影班は解散となり、僕は帰宅した。

 僕は部屋着に着替えて、ベッドに横たわると、真帆にLINEする。


『久しぶり、ライブどう?』


 しばらくして返事が来た。


『純也がいないから、物販が大変だよー!! またファンが増えたから、売り上げが増えるのは嬉しいけど』


『4月になったらまた手伝えると思う。そう言えば、来週、14日放課後、空いてる?』


『空いてるよ』


『じゃあ、放課後、いつものマックに集合でお願いする』


『いいよー♡』


 14日に呼び出しって、ホワイトデーのお返し渡すのはバレバレだよな。

 それにしても、14日のうちにチョコのお返しを15人分もするのは大変だな…。

 別に14日に渡す必要はないのか?


 そして、肝心のお返しを買いに行かないとな。

 面倒だが、明日にでも行くことにする。

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