ゆべし
毛利さん家から帰宅し、自室でベッドに横になっている。
週末の旅の疲れと、先程、毛利さん家で毛利さんの両親と会って来た気疲れのせいで、かなりぐったりとしていた。
うとうとしていると妹が、いきなり部屋に乗り込んできた。
「お兄ちゃん!」
僕は驚いて飛び上がる。
「な、な、なんだよ! ノックしろよ!」
「それどころじゃあないよ! またエロいことして来たんでしょ!」
「ええっ!?」
なんで、妹が毛利さんの部屋での出来事を知ってるんだ?
とりあえず、否定しておく。
「何もしてないぞ!」
「じゃあ、これ何!」
妹はそう言って、スマホの画面を向けてきた。
そこには、僕と真帆の写真が。
週末、旅館の部屋で真帆が僕の布団に潜り込んできている写真だった。
いつの間に撮られてたんだ?!
よく見ると、僕は寝ているようだ。寝ている時に上杉先輩に撮られたのか?!
しかし、毛利さんの胸を触った件じゃあなかった。
僕は妹に答える。
「そっちのことか」
「そっちのこと? これ以外にも何かあるの?!」
しまった。
「ないよ! それより、その写真、どうしたんだよ!」
「紗夜さんから、もらった」
やっぱり上杉先輩の仕業か。
「その写真は真帆と上杉先輩のイタズラで、寝てる時に勝手に真帆が布団に入って来たんだよ!」
「お兄ちゃんが無理やり引き込んだんでしょ?」
「そんなことする訳ない」
「ヤったの?」
「ヤる訳ないだろ! 僕をなんだと思ってるんだ?!」
「スケコマシ」
「誤解もいいところだよ。僕がエロいことなんてする訳ない」
まあ、さっき、毛利さんの胸触ったりしてるので、エロいことを全くしないわけではない。
妹は続ける。
「それで、今、『そっちのことか』って言ったよね? 他にもあるんでしょ?」
「ないよ」
「さっき毛利さんの家に行ってたけど、ヤって来たんでしょ?」
「そんなことはしない。そもそも彼女の両親もいたんだぞ、何もできないよ」
「両親がいなかったら、エロいことしたでしょ?」
「しないって」
いや、してたな。実際にしたけど。
「ふーん…」
妹は、まだ疑いの眼差しで僕を見ている。
僕は話題を逸らす。
「そうだ、昨日買ってきた、お土産。渡すのを忘れてたよ」
僕は昨日、机の上に置いたままにして、渡し忘れていたお土産の箱を妹に手渡した。
妹はそれを受け取って尋ねた。
「これ何?」
「ゆべし」
「あべし?」
「それじゃあ、北斗神拳食らった人だよ。ゆべしだよ、福島のお菓子だ」
「ふーん…、ありがとう」
妹は、お土産で満足したのか僕の部屋を出て行った。
お土産でおとなしくなるとか…。
今度から、なんか言ってくるたびに、お菓子あげることにしよう。
妹の乱入で、目が少し覚めたので、風呂でも入ってこようかと思ったら、スマホが鳴った。
真帆からLINEだ。
『明日、放課後、時間ある?』
『あるよ』
『じゃあ、また、いつものところに来て♡』
いつものところ=サンシャインシティのマックのことだ。
『わかった』
また、ライブのことか何かの相談だろうか。
そんなこんなで、少し考え事をした後、風呂に入って、歯を磨いて、ぼちぼち寝ることにする。
ベッドに入ると、またスマホが鳴った。
今度は雪乃からのLINEだ。
『何してる?』
『寝ようと思ったところ』
『ゴメン。ところで、今日、歩美ん家行ったんでしょ?』
『何で知ってるの?』
『歩美に聞いたんだよ』
僕の情報は筒抜けだな。
続けて雪乃からメッセージ。
『Hした?』
『してないよ!』
『知ってる』
え、どういう事? 知ってるなら聞くなよ。
『今度は、また、私ん家にも来てよ』
『いいけど、雪乃が最近は撮影で忙しいじゃん?』
『2月頭に少し時間ができそうだから純也が出るムービーの練習しよう。純也のセリフ覚えるのを手伝ってあげる』
自分の撮影は3月って聞いてたから、まだ台本覚えてなかった。
そして、撮影する恋愛作品の相手役が雪乃だからな、練習にもちょうどいいだろう。
『わかった』
『具体的な日にちは、また今度決めよう』
『了解』
僕はメッセージを終えると、スマホを置いて眠りにつく。
なんか、いろいろ忙しい…。
真帆たちのアイドル活動の手伝いと、演劇部の出演依頼を引き受けたせいだが、年の初めは穏やかで、のんびりした生活を送ろうと思っていたのに、想定と違うことになっている。
まあ、真帆のほうはバイト代くれるからいいけど。
そして、イチャつける場所の再検討もしないといけないのに、時間がないなあ。
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