クエスト攻略

 夜、悠斗と時間を合わせて一緒にVRゲームをしている。


 初心者の僕は、悠斗に教えてもらいながら、一緒に弱キャラを倒していく。

 そして、1時間程進めた後、一番最初のエリアボス的なところをクリアしようということになった。

 僕らはチャットで会話する。


『じゃあ、2人以上でないとできないクエストやってみようか?』


『任せるよ』


『街の外に潜んでいる盗賊一味のアジトを襲撃するクエストをやろうか?』


『でも、僕でも倒せるかな? レベルがまだ低い』


『いけるっしょ。俺のレベルはだいぶ高いからね。いざという時はフォローするよ』

 悠斗のほうがゲームを始めたのが数日早いので、当然、レベルは僕より高い。

 そして、最初のステ振りで調子に乗って“素早さ”に極振りしたので、戦闘はちょっと不安だ。


 そんなわけで、クエスト開始。

 しばらく進めて、盗賊たちに出会うとバトルが始まった。

 悠斗がアドバイスをする。

『俺がボスの盗賊の頭目を倒すよ。周りの雑魚をよろしく』


『わかった』

 バトルでは僕が一番動きが早くて、結果、攻撃回数も多くなる。

 さすが素早さ極振り。

 実は、これはバトルが始まったら逃亡しようとしてそうしたのだが、クエストでは、ゲームシステム的に “逃亡”ってコマンドが無かった。無意味だった。


 僕が攻撃するも敵に与えるダメージが少ない…。さすが攻撃力最低。

 でも素早さは極振りなので、敵の攻撃はあまり当たらない。


 悠斗は楽勝で盗賊の頭目を倒していた。

 僕もなんとか雑魚キャラを一掃した。HP、もう少しで0になるところだったよ。


 僕はほっと一息ついた。

『なんとか倒せた』


『今後はヒーラーとかも仲間にしとかないとキツいかもしれない。戦闘中に回復できないからね。仲間とパーティを組んでやるクエストは、俺もやってなかったんだよ。俺はレベルはだいぶ上がっていたから、簡単に倒せたけど』


 そうか、だから悠斗は簡単にボスを倒せたのか。

 僕はまだまだレベルが低いので、雑魚キャラでもだいぶ苦戦したけど。

 そして、確かに2人とも剣士だし、パーティバランスは良くない。


『パーティクエストが始めてって、他にもこのゲームやっている知り合いは、いないの?』


『いないから、今度、一雄も誘おうと思ってる』


『一雄って誰だっけ?』


『ほら、合コンで一緒だった六角だよ』


 悠斗と同じサッカー部の六角一雄君か。

 以前、歴史研合コンに参加してくれたんだった。

 爽やか系のスポーツマンだが、自己紹介でゲームもやるって言ってたっけ。


『ああ、彼か。思い出した』


『まあ、もともとの知り合いでなくても、ゲーム内で友達を作って、パーティを組めるんだけど、まだそこまでできてない』


 陰キャでコミュ力低めの僕が、ゲーム内で新たに友達が作れるとは思えないけどな。

 まあ、そもそも自分から積極的に作ろうとも思わないが。

 仲間増やしは悠斗にお任せしよう。


『ところで』

 悠斗は話題を変えた。

『毛利さんとはどうなの?』


『どうって…、突然だな』

 ゲーム中にこんな話題が出るとは思わなかったぞ。

『毛利さんには、クリスマスイブに告白されたよ』


『おお! それで、どうなったの?』


『断った』


『えっ? なんで? もったいない』


『毛利さんのことが好きじゃなかったから』


『でも、なんか一時期良い雰囲気だったよね』


『確かに毛利さんを好きだった時期もあったけど、それ、だいぶ前だよ』


『織田さんも振ったんだろ? なんか余裕だね』


『余裕という訳じゃあないけど。でも、あの2人、それもでまだ迫って来るんだよね』


『1回振られてもへこたれないのか。織田さんなら、そんな感じするな。でも毛利さんは意外だな』


『なんか、雪乃の影響を受けてるみたいだよ』


『あの2人、仲良かったっけ?』


『うん、最近、仲良いみたい。よく情報交換してるらしいよ。それで、彼女たちが迫って来るから、僕も今後は開き直って、本能に従って色々やらせてもらおうかと』


『ははは、楽しそうで、いいんじゃない?』


『そう言ってもらえると心強いよ。でも、二股とか言われそうだな』


『でも、最近は色んな恋愛の形があるからいいんじゃない』


『“色んな恋愛の形”と言えば、女子同士で付き合っている先輩がいるな』

 これは松前先輩と蠣崎先輩のことだ。


『へー。それ、オープンにしているのかな?』


『どうだろ? でも、僕には教えてくれたよ』


『なるほどね』


 あんまり悠斗とはこういう恋愛話をすることは、ほとんどないよな。

 そう言えば、悠斗も以前、好きな人がいるみたいなこと言ってた。

 気になるから、ちょっと、聞いてみよう。

『ところで、悠斗ほうはどうなの?』


『俺のほうは進展はないなあ』


『そうか。それで誰が好きなの?』


『それは、別に良いじゃん』


『教えてくれよ』


『また今度な』


 はぐらかされた。

 イケメンの悠斗なら良く女子に囲まれてるし、その気になったら選り取り見取りのはずだが。本命となると、そうはいかないのか。

 悠斗でもうまく行かないとは、恋愛とは、なかなか難しいな。

 

 そんなこんなで、夜も遅くなってきたので、今日のところはゲームを終了することになった。

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