夫婦以上、変人未満。

 夕方頃、自宅に帰宅。

 カバンを置いて部屋着に着替える。


 ベッドに座って、さっき教えてもらった宇喜多姉のLINEにメッセージを送ろうと考える。

 なんて送ろうか?

 宇喜多姉と共通の話題がない。

 彼女の趣味は、茶道のはずなのだが、僕はそれの興味も知識もない。

 そして、彼女は東池女子高の生徒会長で、僕は雑司が谷高の副会長だが、僕は生徒会の仕事ほとんどしていないから、そういった内容の話はできないし。

 さて、どうしたものか。折角IDを教えてもらったのにな…。


 とりあえず、O.M.G.のプロデューサー就任の件を伝えてみるか。

『妹さんたちに頼まれて、OMGのプロデューサーになりました』

 と送ってみた。


 しばらくして返事が。

『私と違って活発な妹ですが、よろしくお願いします』


 会話終了。

 ちょっと話題作りをしないといけないなあ。

 宇喜多妹に、お姉さんの興味のあること聞いてみよう。

 妹とはID交換してなかったな…。

 しかし、宇喜多姉、メッセージでもなんか丁寧だな。気品を感じる。雑司が谷高校の女子たちとは大違いだ。


 気分を変えて、昼に買ったVRゴーグルの箱をカバンから取り出す。

 VRゴーグルを箱から取り出して、説明書を少し読む。

 そして、先日、悠斗に教えてもらったVR MMORPG “色彩の大陸” を立ち上げて、スマホをゴーグルに挟んで頭に装着してみる。


 おお、何度見ても感動する。

 綺麗でファンタジーの風景だが、まるでリアルのように立体的に広がっている。

 さすが、ヴァーチャル・リアリティー。

 首を左右に振ると、風景も左右に動く。

 これで当面は遊べそうだな。


 しばらく遊んでいると、誰かに肩を叩かれて驚いた。

 えっ?

 VRって感覚もリアルに再現できるの?

 などと思ったら、誰かが、いきなりVRゴーグルを外した。

 それは妹で、隣に立っているのに気が付いた。

 妹に肩を叩かれたのだ。


「おお! びっくりしたぞ。ノックして入って来いっていつも言ってるだろ」


「ノックしたけど、返事ないから」


 VRゴーグルをしてたから気が付かなかったんだな。

「返事がないなら入って来るなよ」


「死んでたらいけないと思って」


「生きてるぞ」


 妹は、VRゴーグルを手にしたまま話す。

「それで、これなに?」


「VRゴーグルだよ。これを付けるとヴァーチャルリアリティの世界に入れるんだよ」


「ふーん。なんか、こんなのかぶって変な踊りを踊っているから、お兄ちゃんじゃなくて、どこかの変人が居るのかと思って、びっくりしたよ」


「変人じゃないし、変な踊りじゃない。これはゲームをしてたんだ」


「あ、そう。そんなことより、紗夜さんが、お兄ちゃんがLINEで既読にならないから心配してたよ」


「え? えーと…、LINEの調子が悪いんだよ」

 ここは適当に嘘をついて誤魔化す。

「上杉先輩には、ちゃんと生きてるからって言っといて」


「わかった。ところで…」

 妹は鋭い目つきで話題を変えた。

「聞きたいことがあるんだけど」


「なに?」


「織田さんと結婚するの?」


「はぁ!? なんで!?」


「この前、あの人が『家族になるかも』とか言ってたじゃん?」


「あれは、雪乃が勝手に言ったことだよ。夫婦になることはない」


「絶対?」


「絶対」

 実のところ絶対かどうかは、未来のことだからわからないのだが。


 妹は引き続き質問をする。

「あの人と付き合ってないんだよね?」


「付き合ってないよ。前も言っただろ?」


「付き合ってないのに、夫婦みたいなHなことするの?」


「してないよ」


「あの人の家に泊まった時、あの人としてたじゃん?」


「何もしてないよ。お前の見間違いだよ」

 キスはしてたけど。

 それに、暗がりだったから、妹にはわからなかったのでは?


「昨日も、毛利さんとH なことしようとしてたじゃん。節操がないよ」


「Hなこと、してないだろ。お前が盗み聞きしてるから、やりようがないし。っていうか盗み聞きするな」


 僕の解答に、妹は不満そうにしている。


「まあいいや…」

 妹は、また話題を変えた。

「それで、このゴーグルってどうやって使うの?」


「ああ、それ、被ってみろよ」


 妹はVRゴーグルを被ると、すぐに歓声を上げた。

「おおお!」

「うおー!」

「すげー!」


 良い反応だ。

 妹はVRゴーグルを外した。

 僕は尋ねる。

「どうだ? 面白いだろ?」


「すごかった」


「これで、悠斗と一緒にゲームするんだ」


「ふーん」


「お前もやるか?」

 といっても、VRゴーグルは1つしかないから、妹も買ってくるしかないんだが。


「考えとく」

 妹はそう言うが、まあ、やらないだろうな。


 その後、夕食、入浴を終わらせた後、悠斗と連絡を取り合って少しだけ一緒にVRゲームをやる。

 音声入力だから、しゃべる声に反応して、ゲーム内のチャットの文章も打てるのだ。たまに誤字はあるが、コミュニケーションを取るのには、ほとんど支障がない。

 しかし、なかなか面白い、これは予想以上にハマりそうだ。

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