横浜デート(?)~その1

 今日、明日の2日間、僕は雪乃と毛利さんの奴隷になるということで、彼女たちの言うことを聞かないといけない。

 そして、今日は、あらかじめ僕がネットで調べたデート(?)コースに沿って出かけることになっていた。デートの後は、雪乃の家でお泊り会。

 そして、なぜか妹もついて来ることになっている。


 朝、遅めに起きると、早速着替えて準備をする。

 1階に降りてリビングルームに行くと、妹がソファに座って待っていた。

 妹は僕に気付くと挨拶をしてきた。

「お兄ちゃん、おはよう」


「おはよう」


「今日、どこ行くの?」


 どこに行くかは、まだ誰にも教えていない。

 雪乃と毛利さんとは地下鉄の列車中で待ち合せしている。そこで、全員が揃ったら伝えようと思っていた。

「あとで教える。そろそろ、出かけようか」


 妹は出かける準備ができているようので、早速、出発する。


 自宅から歩いて東京メトロの雑司ヶ谷駅。

 待ち合わせは、決めておいた時間の電車の一番後ろの車両の一番後ろ。

 僕と妹は乗り込む。毛利さんが座席に座っているのをすぐに見つけることが出来た。


 毛利さんが乗った小竹向原駅では列車内は空いていたので座れたようだ。雑司ヶ谷駅では、すでに座席は埋まっていて、僕と妹は毛利さんの前に立つ。

 僕は挨拶をする。


「毛利さん、おはよう」


「おはよう」

 毛利さんは顔を上げて微笑んだ。


「おはようございます」

 妹も挨拶をして、少し世間話をする。


 すぐに隣駅の西早稲田駅。

 ここで、雪乃が乗って来た。彼女は、すぐ僕らに気が付いた。

「おお! みんな、おはよう」

 今日も雪乃はテンション高めだ。


 全員、遅れずに電車に乗れて、よかった。


「で、今日はどこに行くの?」

 早速、雪乃が僕に尋ねた。


「今日は、横浜に行く」


「いいね!」

 雪乃は嬉しそうに言う。


「お兄ちゃんが、自分でそんな遠くに行くなんて、雪が降るね」


 妹が嫌味的なことを言ってきたので言い返す。


「冬だから、雪が降っても変じゃない」


 ここで、今日のデート(?)コースの詳細を公開する。


「まず、中華街で昼ご飯。からの、海の見える丘公園へ。そこにある“神奈川近代文学館”に行く。毛利さん、文学とか好きでしょ? そして、散歩しながら、山下公園に行って、最後は“よこはまコスモワールド”で遊ぶ」


「さすが純也、完璧なデートコースだね」

 雪乃は褒めてくれる。

 ネットで似たよう情報があったのでそれをパクっただけなのだが、ここは自分の手柄にしておこう。

「でしょ?」


「あと、考えてたんだけど」

 雪乃が言う。

「晩ごはんは、わたしんちで純也が作ってよ」


「え?」

 僕は突然の提案に驚いた。しかし、今日は奴隷の僕に拒否権はない。

「まあ、良いけど、料理のレパートリーが、ほとんどないからなあ」


 ぼやく僕に気を遣ったのか雪乃が提案してきた。

「カレーでいいよ。この前、毛利さんが純也のカレー食べたっていうから、私も食べてみたい」


 そうか、雪乃は僕のカレーを食べてなかったな。

 毛利さん、妹もそれでいいということで、晩ご飯はカレーに決定した。


 途中、席が空いたのでバラバラに座って約1時間、終点の横浜・中華街駅に到着。

 ここまでの行程は東京メトロ、東急東横線、横浜高速鉄道みなとみらい線と3社またいでいるが、乗り換えなしで来れるのは便利だ。

 乗り換えなしなので、ここを選んだのが第一の理由なのだ。


 横浜・中華街駅から地上に上がる。

 昨夜ネットで調べておいた中華料理店を目指す。

 中華街は観光客でごった返していた。

 僕らは、人ごみをかき分けながら進む。

 妹は、僕のコートの裾をつかんでついて来る。

「なあ、なんで掴んでるんだよ。歩きにくい」


「迷子にならないようにしてるんだよ」

 妹は、僕の言葉に不満そうに言う。


 そのやり取りを聞いて雪乃が割り込んできた。


「私も迷子にならないようにしようーっと」

 そうって、雪乃はニヤつきながら自分の腕を僕の腕に絡めて来た。


 その様子を見て、毛利さんもコートの妹と反対側の裾をつかんできた。

 なんだ、この状況は…。ともかく歩きにくい。


 それでも、なんとか目的の中華料理店まで。

 席に案内されると、それぞれ食べたいものを注文して食べる。

 折角、中華街まで来たので、点心を数種類注文してみんなで分けて食べた。


 お腹いっぱいになったので、腹ごなしに移動。

 次の目的地は、港の見える丘公園。

 中華街から港を見下ろせる展望台まで約15分。


 展望台は、ほかにも観光客がたくさん。

「うわー。いい景色だね!」

 雪乃が言った。

 毛利さんと妹も気に入ってくれたみたい。


「あれ! ロボットみたいなのが居るよ!」

 妹は驚いた様子で指をさした。


 港の方に、“ガンダム”が居た。

 ガンダムって、あそこにいるんだ。知らなかった。


「あれって、お台場にもいたよね?」

 雪乃が言った。

 そういえば、雪乃とのお台場デートの時もあったな。あれは、“ユニコーンガンダム”だっけ?

「いたけど、ちょっと種類が違う」


 しばらく景色を堪能して、さらに移動。

 港の見える丘公園内にある“神奈川近代文学館”へ向かう。

 その途中、“大佛次郎記念館”があった。


「“だいぶつじろう”?」

 妹が尋ねた。


「“おさらぎじろう”って言うのよ。いろんな小説とかノンフィクションを書いた人」

 毛利さんが答えた。


 僕も“だいぶつ”かと思った…。

 さすが毛利さん、文学のこととなれば、いろいろ知っている。


 予定外だったが、入場料200円だったし、毛利さんが見てみたいとのことで“大佛おさらぎ次郎記念館”入ることにした。

 大佛次郎に関連した収蔵品がたくさんある。

 ざっと小一時間ほど見学。


 お次は当初目的の“神奈川近代文学館”へ。

 ここは、横浜や神奈川にゆかりのある多くの小説家の資料が展示してある。

 入場料、500円。

 また、都度、企画展があり、夏目漱石の書斎の雰囲気を再現した“漱石山房書斎”が常設展示されている。


「夏目漱石って、雑司ヶ谷霊園にお墓なかったっけ?」

 妹が質問してきた。


「そうだっけ?」

 雑司ヶ谷霊園は、自宅から10分ほどの距離にある大きな霊園だが、漱石の墓については僕は知らない。


「あるわよ」

 毛利さんが答える

「私、お参りしたことがある」


 墓参りまでするとは、さすが、毛利さんだな。


 神奈川近代文学館では、太宰治や大岡昇平などの他の多数小説家の資料を小一時間ほど見学して神奈川近代文学館を後にした。

 毛利さんは大満足のようだ。

 連れてきて正解だったな。


 お次は、山下公園へ向かう。

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