押し倒す

 歴史研のメンバーと雪乃、妹は、雑司ヶ谷鬼子母神で初詣の後、途中、コンビニに立ち寄って買い物してから、僕の自宅へ向かう。

 僕は、女子たちの後を着いて行く。


 女子はたちは、家に到着し、僕の部屋にゾロゾロと上がると宴会を始めた。

 コンビニで買って来た食料、お菓子、飲料を食ったり飲んだりして談笑している。(もちろん、飲んでいるのはジュースとかウーロン茶)。

 しかし、この人たちは僕の部屋を何だと思っているんだろうか…?

 大晦日~新年ということもあって、両親はまだ起きてて、おせち料理を少しだけ出してくれた。

 僕は上杉先輩の命令で、みんなのお酌をさせられたりして、新年早々、こき使われている。


 宴会も2時間ほど経って、女子たちもそろそろ眠たくなってきたので、寝ようということになった。新年なので電車は終夜運転しているが、帰る気はないらしい。

 女子たちはパジャマなどを持参してなかったので、僕のジャージとかトレーナーを貸せと命令されて、渋々貸す。

 そして、妹の部屋と僕の部屋で数人ずつ別れて寝ると言う。そうすると、僕は寝る場所がなく、自分の部屋なのに追い出されてしまった。僕のベッドは、いつものように上杉先輩に占領されていた。

 仕方なく1階の居間のソファで寝ることにする。


 居間に行くと、父親がまだ起きていて、ソファに座って年末恒例のTV生討論番組を見ていた。

 僕は父親の隣に座る。


「部屋を占領されてしまったので、ここで寝るよ」


 父親はTVを消して答える。

「そうか。俺も、もう寝るけど。それにしても…、女の子ばっかりだな」


「成り行きで…」


「あの中に、彼女とか居るのか?」


「いやいやいやいや。あの人たちはクラスメイトか、部活の先輩というだけの関係だよ」


「そうか。まあ、いいけどな…。もう寝るぞ」

 父親は立ち上がって言う。

「避妊だけはしろよ」


「だから、そういう関係じゃないって!」


 父親は笑いながら、寝室の方へ去って行った。

 まったく、どういう目で僕のことを見ているのか…。


 僕もいい加減眠くなってきたので、電気を消してソファに横になった。


 そして、眠りに就いてどれぐらい経っただろうか、誰かの2階から降りて来る足音で目が覚めた。

 どうやらトイレに行った?

 そして、さらに少し経って居間に入って来る足音。

 僕は少し驚いて尋ねた。

「誰?」


「ゴメン、起こした?」

 この声は、毛利さんだった。


 僕は起き上がって照明のリモコンを操作して灯りを点けた。

 毛利さんはソファの傍らに立っていた。

 彼女は僕の学校ジャージを着ている。サイズは少々大きい様子で、“萌え袖”になっていた。


 僕は尋ねた。

「うん…。どうかした?」


「どうしてるかなって思って」


「どうしてるって…。寝てたよ」


 毛利さんはソファの僕の隣に座る。それにしても、何の用だろ…?

 クリスマスイブ以降、1週間ぐらい彼女とは話をしてなかった。

 僕は、未だに少し気まずさを感じているのだが。


 毛利さんが口を開いた。


「旅館で、雪乃ちゃんと寝てたね」


 その話題かよ…。

 僕は困惑しながら、答えた。


「あれは、雪乃が勝手に潜り込んできたんだよ」


「雪乃ちゃんばっかりズルい」


「えっ?! そんなこと言われても…」

 毛利さん、どういうつもりだ? 再び困惑。

「ひょっとして、僕と添い寝したいとか…?」


「うん」


「えええー…。でも、僕が部屋に戻るのは他の女子も居て、すぐばれるだろうから、まずいだろうし。このソファだと、狭すぎて並んで寝れないよ。ここの床はフローリングで、そのまま寝ると痛い。まあ、ソファに上下に重なって寝るなら何とかなりそうだけど…」


「それでいいよ」


「えっ…? 上下に重なる?」


「うん」


 マジか。


「いやいやいやいや。そもそも、僕らは付き合っている者同士じゃないから、そういうことは問題があるのでは?」


「雪乃ちゃんとも付き合ってないけど、一緒に寝てたよね?」


 そうだった。困ったな。

 しょうがない、ちょっとだけ添い寝して、さっさと部屋に戻ってもらおう。

「じゃあ、ちょっとだけだよ」


「うん、いいよ」


「どっちが下になる?」


「私が下になるよ」


 僕は、一旦立ち上がる。そして、毛利さんがソファに仰向けに寝転んだ。

 それで、僕が彼女の上に乗って覆いかぶさるのだが…。

 なんか押し倒してるみたいだな…。

 緊張する。


 僕が完全に体重を掛けずにいると、毛利さんが腕を僕の背中に回してグイと引き寄せた。

 しばらく黙って抱き合っている。


 沈黙がつらくなったので、僕は尋ねた。

「えーと…、重くない?」


「大丈夫」

 毛利さんは静かに答えた。


 数分間、この状態でいたが、やっぱり沈黙がつらいので、僕は再び話しかけた。

「えーと…、そろそろ、いいかな?」


「うん」


 毛利さんは腕を僕の背中から離すと、僕は立ち上がった。

 続いて毛利さんも立ち上がる。


「じゃあ、戻るね」


「うん。おやすみ」


 毛利さんは居間を出て階段を登り、僕の部屋に戻って行った。


 僕はため息をついてソファに座り込んだ。

 時計を見ると早朝の5時。


 それにしても、雪乃だけでなく、毛利さんまで、ぐいぐいくるようになったな。

 いや、以前から、あんな感じだったっけ…?

 彼女たちには、困ったもんだ。

 また、眠くなってきたので、これ以上は考えるのを止めて寝ることにする。

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