初詣

 大晦日は、朝から1日中ごろごろして、夜には年越しそばを家族で食べる。

 そして、そろそろ、11時45分だ。

 歴史研のメンバーと雪乃と初詣に行くというので、雑司ヶ谷駅で待ち合わせをしてい るのだ。

 

 準備をして、家を出ようとしたところで、妹に声を掛けられた。

「あれ、お兄ちゃん、どこ行くの?」


「みんなで初詣に行く」


「みんなって、紗夜さんたち?」


「そう」


「じゃあ、私も行く!」


 来るなと言っても、来るだろうからな。

 仕方なく急ぐように言う。

「もう、出かけるから、早く準備しろよ」


 妹は自分の部屋に戻って服を外出着に着替えてやってきた。

 僕らは家を出る。そして、数分で雑司ヶ谷駅に到着。

 すでに雪乃が待っていた。


「やあ」


 僕は挨拶をする。

 雪乃も僕に気が付いて挨拶を返してきた。


「おお! 純也! と、妹さん、こんばんは」

 そして、僕のしているマフラーを見て、彼女は端っこをちょっと引っ張ってみせた。

「今日は、私のマフラーしてくれてるのね」


「うん。今日は雪乃のマフラーをしてる」


 そうなのだ、クリスマスプレゼントに雪乃と毛利さんの2人からマフラーをもらってしまい、どちらか一方のマフラーだけしていると、片方に肩入れをしていると思われるのは良くないと思い、交互にマフラーをしている。

 お城巡り中もマフラーを交互にしていたのだが、おかげで荷物が増えていたのだ。

 マフラー2本ぐらい大したことないけど。

 そして、今日は雪乃のマフラーの番。


「わたしも純也からもらった髪留めしてるよ」

 雪乃は首を振って髪留めを見せようとする。


「おう…、ありがとう」


 妹も雪乃と世間話をする。

 そうこうしているうちに歴史研のメンバーも三々五々やって来た。


「あれ、美咲ちゃんと織田さんも来たんだ?」

 上杉先輩はニヤつきながら話しかけて来た。

「キミと織田さん、よりが戻ったとか?」


「いえ…、戻ってません」

 僕は一応否定する。


「戻ってないですよー」

 雪乃は明るく否定する。


 そして、僕らは伊達先輩と毛利さんにも簡単にあいさつをする。


「じゃあ、行きましょう」

 伊達先輩の号令で、鬼子母神へと向かう。


 徒歩数分で鬼子母神に到着した。

 すでに人が結構並んでいた。

 僕らはその最後尾に並ぶ。


 順番が回ってくるまで、皆で世間話をする。

 例によって上杉先輩が絡んできた。

「鬼子母神って、なんのご利益があるか知ってる?」


 近所だけど、ほとんど来たことなかったし、何がご利益とか聞いたことないな。

「いえ…。何でしたっけ?」


「安産」


「えっ!? 僕には全く関係ないのでは?」


「何言ってるの? 将来、キミの相手が産むかもしれないじゃん? まあ、キミは一生ドーテーという可能性もあるけど」


「一生ドーテーは避けたいですよ…」

 しかし、女子たちも気の早い話だと思うが…。


 上杉先輩は続ける。

「そういえば、キミ、触っただけで妊娠させられる特殊能力があるじゃない? だから、よく拝んでおくのがいいんじゃない?」


「そんな能力ないですよ! あれは明智さんが勝手に言ってたことです!」


「そうだっけ?」


「そうですよ」


「まあ、そんな能力があったら迷惑だよね」


「ですね」


「強姦魔だよね」


「ですね…」


「今のうちに通報しとこうか?」


「何で、架空の犯罪で通報されないといけないんですか?」


「いや、通報しない代わりに奴隷を延長させようかなと」


「何言ってるんですか? そもそも架空の話で、冤罪じゃないですか?!」


「まあ、細かい事いわずに」


「全然、細かくないですよ!」


 まったく油断も隙も無い。

 などと、アホな会話をしていると、伊達先輩が割り込んできた。

「まあ、安産以外のご利益もあるみたいだから、思ったことをお願いして大丈夫じゃない?」

 言い終えると、時計を見ながら僕らに伝える。

「あと10秒で年が明けるわよ」


「おおっ!」

 上杉先輩、なぜか嬉しそう。そして、カウントを始める。

「…、5、4、3、2、1、ハッピーニューイヤー!」


「明けましておめでとうございます」

 僕らはそれぞれ新年の挨拶をする。


 そして、しばらくして順番が回って来たので、お賽銭を投げてお参りをする。

 みんなお参りが終わると、境内で少し立ち話をする。


「純也、何をお願いしたの?」

 雪乃が尋ねて来た。


「今年こそは、平穏で静かな日々を送れますようにと」


 上杉先輩が突っ込む。

「無理じゃない?」


「何でですか?! そういう、上杉先輩は何をお願いしたんですか?」


「イケメンの彼氏に決まってるじゃん」


 上杉先輩、これまでも同じお願いをするのを何度となく見て来たが、全然彼氏ができないところをみると、神様に見捨てられているな。

 きっと、僕を罠に嵌めたり、各種嫌がらせをしているから、天罰が下っているのだ。

 僕は、『ざまーみろ』と、心の中でつぶやいた。

 まあ、僕も平穏な日々が送れないから、神様に見捨てられてるようけど。

 善行しかしてないんだけどなぁ…。理不尽。


 僕は、気を取り直して雪乃に尋ねた。

「雪乃は何をお願いしたの?」


「演劇も勉強も恋愛も生徒会選挙も上手くいきますように、って」


 貪欲だなあ。

 まあ、去年は演劇以外は、さほど奮ってなかったようだが。

 しかし、僕は雪乃の貪欲さを少しは見習った方が良いのだろうか?

 

 次に、僕は妹に尋ねる。

「お前は何をお願いしたんだ?」


「今年は3年生になるから、もっと勉強がうまく行くようにお願いした」


「そうか」

 妹は高校受験だが、伊達先輩に家庭教師もしてもらっているし、成績もそれなりに良いみたいなので、雑司ヶ谷高校なら多分大丈夫だろう。


 毛利さんは何をお願いしたんだろうか? と思ったが、聞くのを止めた。

 彼女とは、クリスマスイブ以降、気まずいままだ。

 まあ、聞いても、以前みたいに『秘密』とか言いそうだしな。


 初詣も終了したので解散かなと思っていたら、上杉先輩が再び嬉しそうに声を上げた。

「じゃあ、次は、第2部室に移動しよう!」


 えっ…? 第2部室って、僕の部屋のことか!?

 女子たちは、ぼくが文句を言う隙を与えず、移動を開始した。

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