“出世神社”

 川越を後にして再び電車に乗る。


 次の目的地は鉢形城。最寄り駅は寄居駅なのだが、

「途中で行きたいところがあるから、行っても良いかしら?」

 伊達先輩が突然、言いだした。


 行程の途中とのことだし、僕らは反対する理由もなかったので、とりあえず伊達先輩の行きたいところに着いて行くことにした。


 その目的地は高麗川駅にあるという。JR川越駅から高麗川駅まで20分ほどで到着。寄居駅までの行程のちょうど乗り換え駅だった。


 駅からもさらに徒歩で20分かかるという。暑いので皆、水分補給しながら歩く。

 川越でも少し歩いて疲れていたので、暑さも相まって、いつもは騒がしい上杉先輩もおとなしめだ。

 それにしても、日焼け止め持ってくるべきだった。


 そうこうして、到着したのは“高麗こま神社”というところ。


「この高麗神社は“出世神社”とも言われるところで、参拝後に総理大臣になった人が6人いるのよ」

 伊達先輩が解説する。


「そうなんですね」

 僕はあまり出世とか興味ないけどな。責任ばかり増えるし。

 上杉先輩も毛利さんも出世とか興味なさそうだ。


 参拝後に総理大臣になる神社に来たということは…、

「伊達先輩は、まさか総理大臣になりたいとか?」

 一応、尋ねてみる。


「ええ、興味あるわね」


 ええっ?! そうなんだ?

 ということは、伊達先輩は政治家になりたいのか?

 さすが生徒会長になりたいというだけあるな。ただし、総理と生徒会長は格が違いすぎるが。

 ちょっと驚いたが、僕には関係のない事なので、さっさと忘れよう。


 ここでは、出世以外のお願いも聞いてくれるようなので、皆でお参りする。

 本殿でお賽銭を投げてお祈りする。


「ねえ、キミは何をお願いしたの?」

 上杉先輩が尋ねて来た。


「“成績が上がりますように”、と」


「面白みがないねえ」


 面白いことをお願いするつもりはない。

「そういう上杉先輩は何をお願いしたんですか?」


「“お金持ちになれますように”、だよ」


「そんなお願い、神様が聞いてくれるわけないですよ」


「そんなことないよ。だって、“出世”=“金持ち”じゃん」


「えっ?! 上杉先輩は出世したいんですか?」

 普段、彼女はそんなことに興味なさそうなので、僕は驚いた。


「何の苦労もなく、楽に出世したいよね」


「それは楽して金持ちになりたいということですか?」


「そんなの当たり前じゃん」


 驚いて損した。まあ、僕も楽して金持ちになりたいが。


 一応、毛利さんにも尋ねる。

「何をお願いしたの?」


「ひみつ」

 と、言って毛利さんは微笑んだ。相変わらずの秘密主義だ。


 その後、歴史研一行は、再び高麗川駅に戻り、鉢形城に向かうため寄居駅を目指す。

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