露天温泉

 何やら大きな音がするので、僕は目を覚ました。


 時計を見ると夜の8時。2時間半ばかり眠っていたようだ。


 僕が起きたことに気が付いて、伊達先輩が声を掛けて来た。


「おはよう。よく眠っていたので、起こさなかったけど、あなたもお風呂に入ってきたら? 露天の温泉が気持ち良かったわよ」


「あ、はい」


 僕は目をこすりながら、部屋の中を見回した。


 女子は3人とも浴衣姿だ。僕が眠っている間に風呂に入ったようだ。

 伊達先輩と毛利さんは、髪が少し湿って、しっとりしている。

 上杉先輩は椅子に座ってドライヤーで髪を乾かしている。

 僕の目が覚めた原因の音は、ドライヤーの音だった。


 上杉先輩はスッピンだった。風呂上がりだから当然だが、スッピンのほうがちょっと可愛いと思った。しかし、つけ上るので、口には出さない。


 それにしても浴衣女子3人、目のやり場に困るなあ。


「じゃあ、僕もお風呂行ってきます」


「混浴じゃあないからね」


 僕の背中から上杉先輩が声を投げかけてきた。


「わかってますよ」


 僕はそう言って逃げるように、浴衣を取って部屋を出た。


 すぐに館内の案内図が壁に貼ってあるのを見つけた。

 露天の温泉と大浴場があるのか。

 折角だから露天の温泉のほうに浸かってみるか。


 露店の温泉、無論、男湯の方へ入り、脱衣所で脱いで扉を開けた。


 おじさんたちが何人か入っているが気にせず、体を洗って湯船に入った。


 温泉とかいつぶりだろうか?

 僕が小学校の頃、家族で旅行に行ったが、ここ数年はそういう事もない。

 でもまあ、東京にも温泉はあるからな、その気になればいつでも入れるが。


 僕は深いため息をついて、上を見上げる。湯気の向こうに星空が見えた。


 そういえば、お腹が空いたな。寝てたから晩ごはんは、まだだった。

 頭、身体を洗って、再び湯につかってから温泉を上がり、浴衣を着て、部屋に戻った。


 部屋では、女子3人はテレビを見ていた。

 僕は構わず声を掛けた。

「皆さん、晩ごはん、どうしました?」


「実はまだ。だから、お腹が空いて」

 上杉先輩がテレビから目線を外さずに言った。

「コンビニでご飯を買ってこようかと思ったんだけど、ちょっと遠いんだよ」


「そうですか、じゃあ、僕が行って皆の分も買ってきますよ」


「おおっ! 頼もしいね。お願いするよ」


「じゃあ、みんな何が欲しいかメモに書きましょう」

 伊達先輩が小さなノートをカバンから取り出して1枚破いて、希望の物を書き込んでいく。続いて上杉先輩も書き込んだ。


 毛利さんに紙が回ってきたところで、彼女はそれを受け取って言った。

「私は、武田君と一緒に行ってきます」


「そう、じゃあ、お願いするわ」

 伊達先輩はそう言うと再びテレビのほうを向いた。

 何かのドラマを見ているようだ。


「じゃあ、行こうか」


 僕は毛利さんと連れ立って旅館から出た。

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