生徒会役員候補共

 水曜日。


 いよいよ、今日は午後に生徒会長選挙の応援演説をしなければいけない日となった。


 最後の打ち合わせということで、昼休みの時間に伊達先輩に歴史研究部の部室に呼び出された。お昼を食べながら話をしようという。

 そこには、伊達先輩以外にも、朝に伊達先輩と一緒に校舎前で立っている女子生徒2人。そして、他にも知らない女子生徒が2名いた。聞くと伊達先輩の友達で、今回の選挙運動を裏で支えているそうだ。伊達先輩が会長に当選したら、彼女たちの中から生徒会の書記や会計などの役員に指名するらしい。


 僕はこの学校の生徒会のシステムが良くわかっていなかったが、聞くと会長は選挙で決めるが、副会長以下の役員は会長になった者が指名してもよいということだそうだ。


 それにしても、年上女子5人に取り囲まれている状況は落ち着ない。


 僕は質問をした。月曜日に風紀委員にエロマンガを持ち込んだのを取り上げられて、そのことが校内に広がっていることについての影響について危惧していた。


「伊達先輩、僕について広まっている話のせいで、僕が応援演説したら票が減るのではないでしょうか?」


「それは大丈夫よ、気にしないで。それに、もう、このタイミングで別の人に代えることもできないし」


 確かにその通りなのだが、本当にいいのだろうか?


 話をしながら弁当を食べ終えてしばらくすると予鈴がなった。いよいよ応援演説本番だ。伊達先輩自身は自分の演説と会長候補同士の討論会がある。


 歴史研究部の部室にいた僕ら6人は、応援演説、討論会の行われる体育館へ直接向かった。


 現生徒会と各クラスのクラス委員から選抜された選挙管理委員会が、体育館の壇上の準備をしていた。


 僕と伊達先輩は壇上に並べられた椅子に座る。

 対立候補の北条 そらと彼の応援演説する生徒も少し離れたところに座った。どうやら、最終的に立候補したのは伊達先輩と北条先輩だけらしい。


 午後の授業の開始のチャイムが鳴るまでには、ぞろぞろと全校生徒が集まって来た。

 さすがに緊張が高まって来た。こんな大勢の前で話すのは生まれて始めてだ。


 始めに選挙管理委員会の司会が今日の進行を紹介する。

 最初に会長候補はそれぞれ公約や抱負などを話す。そして、応援演説、最後に討論会という流れ。

 僕は、伊達先輩と北条先輩の後の3番目に話すことになる。


 伊達先輩が呼ばれ、彼女は正面の壇上に立ち、演説を始めた。

 僕は極度の緊張のあまり、彼女の話が頭に入ってこなかった、そして、次の北条先輩の演説も同様だった。


 そして、司会に僕の名前が呼び出された。


「がんばってね」


 伊達先輩が優しく囁いてくれたが、僕は緊張のあまり返事ができず、ガチガチで壇上に向かう。


 そして、事前に用意した応援演説のカンペを何とか広げて、話を始めた。


 極度の緊張状態であったが、生徒たちの方から、『エロマンガ伯爵』と嘲笑や侮蔑の声が聞こえて来た。


 ああ、本当にここに立って、よかったのだろうか?

 伊達先輩の票が減ったりしないのだろうか?


 何とか応援演説を終えて、元の席に戻る。緊張のあまり何をどう話したかも記憶がはっきりしない。カンペの通り読むことが出来たと思うが、何回か噛んだような気もする。

 横で座っている伊達先輩は「お疲れ様」と言ってくれた。


 北条先輩側の応援演説も終わり、最後の討論会となった。

 そのころには緊張も少し和らいで、討論の内容を聞くことが出来た。


 以前、聞いた通り、北条先輩は校則をもう少し厳しくした方がよい、みたいなことを言っていた。そして、今までの学園祭の日程を変えて、これまで2日開催だったのを3連休がある日程に変更して3日開催としたいと言っていた。


 伊達先輩は聞いていた通り、自由なままの校風、部費の増額と女子生徒の制服にスラックス導入をメインに打ち出していた。


 司会からは、学校の公式ホームページやSNSの運用について、学食メニューや部室の割り振りについてなどの質問がなされ、両候補ともそれぞれ無難に回答をしていた。


 討論会も終わり、今日はこれで授業もないので、会場の体育館から一旦、教室に戻り荷物を持ってから、歴史研究部を再び訪れた。

 部室の扉を開けると、伊達先輩と先ほどの4人に上杉先輩もやって来ていた。


 上杉先輩は僕を見つけると、いつものテンションで声を掛けて来た。


「おお、お疲れ様! エロマンガ伯爵!」


「その呼び方、やめてください。そもそも、上杉先輩のせいじゃないですか」


「その件は、本当にごめん!」


 上杉先輩は両手を拝むように合わせて、頭を下げた。


「まあ、そんなに怒ってないですけどね」


 続いて伊達先輩が声を掛けてくる。


「お疲れ様。応援演説とても良かったわよ」


「ありがとうございます。でも、本当に僕でよかったのか…」


「私は、武田君で本当に良かったと思っているわ」


 そうは言ってもエロマンガの件が気にかかる。


「なら、いいんですが…」


 少し話をした後、今日は学校を離れてファミレスで話をしようということになり、ここに居る全員で池袋まで繰り出すことになった。

 僕以外は全員年上女子だが、居てもいいのだろうか? と質問すると、「むしろ居ろ」と言われたので、ついて行くことにした。


 池袋は雑司ヶ谷から地下鉄で1駅移動する。そして、池袋西口にあるファミレスに入る。なんと、伊達先輩がおごってくれるというのだ。お言葉に甘えて少しいいものを注文した。


 皆で談笑している途中、伊達先輩が話しかけて来た。


「ところで、知ってる? 伝統的に応援演説した人が、副会長に指名されるのよ」


「知りません…、って、ひょっとして、僕を副会長に指名するつもりじゃあ?」


「どうかしら?」


「いえ、できれば、応援演説のみで勘弁していただければ」


「そう」


 上杉先輩と他の女子が「やりなよ」とグイグイ攻めてくるが、ここは頑張って拒否した。歴史研究部の参加だけでも結構な負担なのに。主に上杉先輩へのツッコミが負担なのだが。


 そして、案の定、年上女子達にいじられる時間もあった。そうこうしているうちに、2時間ばかり経ったので、解散しようということになった。


 最後に伊達先輩が宣言する。


「投票日は月末、来週の水曜日、あと1週間選挙運動ができるから頑張りましょう!」


「おー!」


 全員で気勢を上げた。

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