エロマンガ伯爵

 火曜日。


 昨日の放課後、部室で風紀委員による抜き打ちの持ち物チェックが行われた。その時、上杉先輩が僕の部屋から勝手に拝借したエロマンガがあったので、没収された上に風紀委員から担任に通報され、すぐに職員室に呼び出されて怒られた。


 そういう事があったので、今日は学校に向かう足取りは重かった。


 そして、学校についてからは、恐ろしいことに、なぜかその話が校内を駆け巡っていることを知った。


『生徒会長選挙で伊達先輩の応援演説をする1年B組の武田純也が、歴史研究部の部室でエロマンガを持っているのを風紀委員によって見つかった』


 と、かなり詳しく伝わっている。

 そして、エロマンガの内容が、中世ヨーロッパの伯爵が屋敷のメイドを何人も手籠めにしていく、という内容だったので、


 武田純也=エロマンガ伯爵


 という、大変不名誉なあだ名がついてしまっているらしい。

 しかし、なぜ、エロマンガの内容まで伝わっているのか謎だ。


 同じクラスの男子には馬鹿にされるし、女子には汚物を見るような目で見られるし、他の学年やクラスの生徒たちが、僕がどんな奴か見に1年B組までやって来る事態にも発展していた。


 そんな、最悪な火曜日を何とか過ごし、放課後になって、先週借りた本を返しに図書室に向かった。


 図書室の受付には、図書委員で文学少女の毛利歩美がいた。

 彼女は僕が図書室に入ってくるなり、


「いらっしゃい、エロマンガ伯爵」


 と、言って吹き出しそうになっていた。

 毛利さんがこんなに楽しそうな表情をしているのは見たことが無い。


「その呼び方、やめてくれる?」


 僕は憮然とする。


「ごめん、ごめん」


 そう言いつつも、毛利さんは笑いをこらえている。

 僕は誤解を解こうと、上杉先輩が勝手に部屋からエロマンガを拝借していたことを話した。


「え? 先輩たちが、武田君の部屋に行ったの?」


「そうだよ、もともとは勉強会名目で、先輩たちが妹が見たいということで来たんだよ。上杉先輩は、勉強せずにほとんど寝てたけど」


「ふーん」


 毛利さんは、なんか不機嫌そうになった。なんで?


 借りていた本2冊を差し出す。毛利さんは無言でそれを受け取った。


「じゃあ、また」


 そう言って僕は図書室を後にした。

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