【昔拾った捨て猫が転生して金髪碧眼の美少女小学生になって俺の通い妻になった】

@kuromannto

ロリコンじゃないです

―――幼い頃に猫を拾った事がある。

あれは確か小学生に上がったばかりだっただろうか?

ざあざあと灰色の空から雨が降る日の下校中の通学路の途中。

道端で小さなダンボールを見つけ、好奇心から中身を覗き込んでみた。

すると中には一匹の猫が小さく体を丸めながら震えていた。

どれくらい長い時間雨に打たれていたのだろうか

体を覆う毛はびっしょりと濡れていて、懸命に寒さに耐えていた。

慌てて手に持っていた傘を差し出し、空から降る雨から猫を守った。

すると突然雨が止んだ事を不思議に思ったのか、猫は弱々しく頭を上げ、俺を見た。

大きくって真ん丸な目と視線が合った。


「にゃー」


鳴き声が聞こえる。

その声があまりにも儚げで、今にもかき消えそうな気がした。

それが何となく嫌な気持ちになって、俺はぐっしょりと濡れたダンボールから猫を抱えあげ

自分の服が濡れるのも躊躇わずに、猫を抱きしめて家へと走った。

連れ込んできた猫に母は驚いたものの、すぐに真新しいタオルを用意して、俺と猫の体を拭いてくれた。

その後父が猫用のミルクを手に仕事から帰ってくる。

母が連絡してくれたのだろう。

飲みやすい温度に温めたミルクを皿に注ぐと猫は最初戸惑っていたが

よほど腹が空いていたのかすぐにペロペロとミルクに舌をつけて飲み干していく。


「ははは、可愛い猫だな」

「そうね。それでこの子どうしましょうか?」


父と母が後ろで話している時、俺はずっと拾ってきた猫を見つめていた。

汚れを落ちた毛は薄茶色で、光の加減によっては金色にも見える子猫。

青い瞳がビー玉みたいに綺麗でずっとずっと見つめていた。


「美味しいか?」

「にゃー」


語りかける俺の言葉に反応してくれる鳴き声は最初に聞いた声よりも元気で

無性に嬉しくって俺はえへへと笑みが溢れてしまった。

その日から俺たちは家族になった。



あの日から十数年の月日が流れた。

今や俺は学生の身を卒業し、社会人となって日夜仕事に追われて忙しい日々を送っている。

それはこの現代社会においては特段珍しくもなんともない、普通の人生だった。

ただ一つ特殊だと言えるのは


「智成(ともなり)ちゃーん!朝ご飯できたからお皿運んで―!」

「あー、うん。了解、恵ちゃん。」


金髪碧眼の小学6年生の女の子が通い妻している事だ

―――うん、違うぞ。けして俺はその手の性癖の持ち主ではない。


「今日はスクランブルエッグに挑戦してみたよ!たくさん練習したから美味しいよ、きっと!」

「そうなのか、じゃあ期待してるね」


眩しいくらいに明るい笑顔を浮かべる恵ちゃん。

彼女は俺の従兄弟の娘さんで今年12歳になったばかりの女の子だ。

小さい頃から何故か俺に懐いてくれていたのだが、年々成長するにあたって俺の身の回りの世話をするようになった。

うん、何というか色々とおかしいのは分かる。分かっている…。

だけどこれには事情というものがあってだな。


―――どうやら彼女、昔飼っていた猫の生まれ変わりらしい。


「えへへ、どう?卵綺麗に焼けて自信作なんだよ」


俺の真横に座ってグイッと体を寄せる恵ちゃん。

狭いのだから向かい合って食べたほうが良いと何度も言っているのだが、ここが良いと聞かない。


「うん、美味しいよ。この味付け、俺好きだな」

「本当!良かったぁ、それお母さんに教えてもらったんだ」


この場合のお母さんとは俺の母親、つまり彼女にとっては叔母なのだが……


「あ、お母さんじゃなくておばさんか…」

「えへへ、ついうっかり昔の癖でお母さんって呼んじゃうんだよね」


ペロッと舌を出して頭を掻きながら照れ笑う恵ちゃん。

サラサラっとしたセミロングの髪が腕に当たってくすぐったい。


「あのさ、本当に恵ちゃんは前世が家の猫だったの?」

「そうだよ、智成ちゃんの事なら何でも知ってるよ」


えっへんと小さな胸を張ってドヤ顔になりながら過去の俺との思い出を語りだす。

曰く俺と初めて会ったのは雨の日だとか、俺たちはいつも一緒に遊んでいたとか

イタズラして母に怒られた事だとか、教えてないはずの事をズバズバと言い当てていくのだから

彼女の言う事を信じる他にない。


「他にも智成ちゃんが私の事をギューって抱っこしてお昼寝してくれてたよね」

「ああ、今日みたいな休みの日は恵ちゃんの日向ぼっこにつられてね」

「そうそう。あの時間、私好きだったな…」


遠い昔を懐かしむように恵ちゃんは目を細める。

口端はわずかに釣り上がり、12歳の子供には無いはずの哀愁にも似た空気を纏っている。


「じゃあ、今日は一緒にお昼寝する?」

「えっいいの!」


ぱあっと隣に座っている少女は眩い笑顔を浮かべて寄り添ってきた。


「うん、先週は遊びに出かけたし、今週は家でのんびりしてよう」

「はーい!」


自然と腕は恵ちゃんの頭を撫でる。

昔、猫だった頃の彼女によくそうしていたように何度も何度も。

すると恵ちゃんは気持ちよさそうに目を細め、ゴロゴロと喉を鳴らしている。

こういう所は猫の時の癖なのだろうかとぼんやり考える。


「さて、それじゃあお話はここまでにして、ご飯を食べよう」

「あ、そうだった!せっかく作ったのに冷めちゃうよ―!」


料理が覚める前に食べてと急かす彼女。

元気でいてくれる事が何だか嬉しくって、俺もついつい微笑んでしまう。

ふと、窓の外へと目をやると、空は綺麗な青空が広がっている。

――今日は暖かくなりそうだ

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