033 闘争を終えて
「ふ、ふーん……。……A+相当のゴブリンの巣を四人で……へ、へえぇ……ッ」
偵察に出していた側近から聞かされた内容は、荒唐無稽なものだった。
曰く、ゴブリン・キング、クイーンが創り出した巣穴の規模はA+相当のものであり、凶悪な
曰く、鑑定の結果、Sランクに到達するのではないかと疑われるゴブリン・ブレイブの亡骸を発見。
曰く、これらの異常に対し、軍隊を、あるいはクランを、あるいはSランクパーティを投入すべき伏魔殿を、たった四人の新参Aランクパーティで壊滅させた。
そして、これら全てが、ギルドマスター・エクセリーヌの名の下に真実であると公表されたこと。
「……団長。あの四人ならば……ダンジョンを本当に踏破してしまうかもしれません」
「……っ」
ただの噂ならば信じなかった。
ただの団員ならば、信じなかった。
しかし。
しかし。
信のおける側近の言葉を疑うには……。
かのギルドマスターの言葉を疑うには、あまりにも己は……。
「どうするのですか、団長。このままでは、副団長どころかクランの名にも傷がつきます。あの〝
「…………考えが、ある」
「……団長」
「フィリーとゲオルギを呼んでくれ」
「……。わかりました……」
側近が執務室を出て行くのを確認してから、オルヴィアンシは唇を噛みつつ拳をテーブルに叩きつけた。
「俺は……喧嘩する相手を間違えたのかもしれない……ッ」
苦々しく呟いて、オルヴィアンシは鬼気迫る表情で覚悟を決めた。
「しかし、しかし…………消失させてなるものか……壊滅させてなるものか……ッ! このクランは、僕が守る……ッ」
そのためならば、もはや手段は選んでいられなかった。
すべては、クランを守るため。
クランを守るために、手段は厭わない――――
*
「「「「――乾杯っ(デスっ)」」」」
ゴブリン掃討後、一年は遊んで暮らせる多額の金貨を山分けした俺たちは、冒険者ギルド併設の酒場でジョッキを傾けた。
ちなみに、全員酒が弱いのでそれぞれジュースをジョッキに注いでいる。
「先輩の戦う姿はもうホントに堪りませんでした! デス! 『ありがとう。そしてさようなら――おまえに会えたという幸運を、祈らずにはいられない』――——んぅぅぅッ! あの
「『――名乗らねえぞ。大して売れた名でもねえからな』」
「あとこんなのも言ってたわね。『来いよ。敬意をもって、叩き潰してやる』――言ってて恥ずかしくないのかしら」
やめてください、俺の
「それにしても、残念だわ。わたしもあのゴブリンと闘いたかったのに」
「ゴブリン・ブレイブな……あれほどの戦闘力を有したブレイブなんて見たことないって、エクセリーヌさんも目ぇキラキラさせてたぜ
「あなたにはもったいない代物よ。わたしなんて、雑魚をいくら切っても満足なんてできなかったのだから」
「いや、先輩の支援があったとはいえ、数百ちょいの、しかも
「でも、私の支援がなかったら今ごろゴブリンの慰み者」
「そ、そんなこと……ないと思うわ。わたし、これまで負けたことないもの」
「レッドキャップに苦戦したじゃあないデスか。ブレイブと戦ってたら死んでましたよ。デス」
「そ、そんなことないわっ!」
俺とおなじオレンジジュースをグイッと飲み干して、テーブルにジョッキを叩きつけたカティア。気のせいか、少しだけ顔が赤かった。
「わたしなら絶対に勝ってた……勝ってた
「……
「酔っ払ってるのか、カティ……?」
「あ、あざとい女デスね……っ!」
「あ、アルマ……あなた、わたしと
「や、ヤる……デスッ!? なんて下品な……! 先輩とヤるのはシャルだけデス! シャルは先輩の専用ベ――」
「それ以上は言わせねえよッ!?」
「んぐっ、んぁっ」
下品なことを口走りそうになったシャルルの口におしぼりを投げ込み、声音を閉ざす。
棒状のおしぼりを口に咥えたシャルルは、顔を赤くしながら艶かしくあむあむしていた。
「んちゅっ、んぅぁ、ぁぅっ(先輩の手垢が染み付いてるデスぅ)」
「卑猥な音たてるンじゃあねえよ」
「アルマ、表に出なさい。あなたを倒して、わたしでもブレイブを倒せたと証明してあげる」
「俺はべつに疑ってねえよ……?」
「売った喧嘩は買いなさいよ」
気のせいではなく、若干赤みの帯びた表情のカティアが、ジョッキに継ぎ足したオレンジジュースをグイッと呷り、俺を睨めつけるように言った。
「もしかして、ビビってるの?」
「いや……」
ビビってるつもりは毛頭ないが……なんていうか。
「なによ……どこ見てんの、あなた?」
火照った顔に潤んだ瞳で睨まれて、なんかこう……すごい、かわいいなって思ってしまった。
睨みつけてる顔も、めちゃくちゃ美人なんだなって。
改めて思った。
あと、顔が近いから。
胸の谷間とか。触るぞ。
「だ……ダンジョンを踏破したら、相手になってやるよ。それまでお預けな」
「……絶対よ?」
「ああ、絶対な」
未だ腑に落ちないのか、座り直したカティアはやけ気味にオレンジジュースを呷った。
カティアは、強くなることと可愛くあることに対して執着がある。
矛盾していて、欲張りで。
剣を抜いた姿は男っぽいのに、黙ってたら深窓の姫君然とした表情も愛らしい。
とても人間らしくて、女の子として魅力的で、相棒としても信頼に足る。
「……なによ?」
「……楽しいなって」
「……そう」
隣で言い合いを始めたエルメェスとシャルルを他所目に、しばらく俺はニヤニヤと、唇を噛むカティアを眺めていた。
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