正攻法で全く足りない
『正攻法で全く足りない』
「まぁ、なんだ…次からは外出の目的を伝えてから誘った方が良いだろうな」
追い詰めないように選ぶ言葉に口調に細心の注意を払った。第一、事此処に至り彼の行いを責められる立場でもない。
「次とか…ないだろ、もう」
この通り、思考の悉くが卑屈に流れる彼なのだ。気は遣って過ぎる事は無く、寧ろその思考を好転させるには正攻法で全く足りない。
「一つ、確認しておきたいんだが…抑々二人で出掛ける事自体に、君は思う所が有ったんか?」
下手なご機嫌取りをするぐらいなら話を進めた方が早い。決して長くはない付き合いだが、こう言った時の彼の扱いは多少勝手を心得ていた。
「…」
「無理に聞き出そうと言う訳でもないが、『聞ければ後の行動が決めやすくなって助かる』とだけは言っておく」
小心の彼には此れも脅し文句に近かろう。それでも、先ず彼の気持ちを言質に取ることが次の手を決めると言う点に嘘はない。
是ならば休日丸潰してひり出した善後策を進めよう。得策上策の類ではないにせよ、其れが最善と信じて為せば良い。気楽なもんだ。否ならば…あまり考えたくはないが…彼女への責任を果たす覚悟を持ち直せば良いだけだ。それも、見方を変えれば役得には違いあるまい。先が長くは無いだろうが。
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「…浮かれちゃって、気合い入れた服装も恥ずかしくなって、『勘違いして…痛すぎ、馬鹿じゃん』って思って…それからは、何を話したかもよく覚えてないや」
語り口に反して彼女の口角は上向きの弧を描いている。だがそれは普段の快活で、ともすれば此方も誘われて笑みを浮かべてしまうような其れと真逆な自嘲の笑みだった。
「モールの中をいくつか回って、何軒めだったかな…『アイツと何か有ったのか?』って…普段は鈍感なクセに、困っちゃうよね」
今度は言葉通り、困った様な苦笑いを浮かべている。かと言って、見た目の痛々しさには何ら変わりがない。
「いいんちょと直接何かあった訳じゃないから結局は的外れだしさ…でも、『今のウチ、いつも通りに見えてないんだ』って分かった瞬間………どうしていいか、分かんなくなっちゃった」
語る内、感情も想起したのだろう。戦慄く声は終いには意味を成してすらいなかった。
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