自棄糞に付き合う御人好しに見えんのか
『自棄糞に付き合う御人好しに見えんのか』
「…やっぱりお似合いだよね、二人」
下校の途上、慣れ切った恋愛相談は開口一番から不穏当に過ぎていた。叶うなら手押しにしているヴェスパに颯爽と跨り尻尾を巻きたくなる程度に。
「連中がそう言われて喜ぶとも思えんがな」
隣を歩く少女を慮っての発言ではなかった。然程長くない付き合いの中にも、彼女が指す二人がこの愛らしい庇護対象を置き去りに関係を前進させる薄情な恋愛至上主義には見えなかった。
「…それは、ウチのせいでしょ」
知恵が回るでもないのに勘働きが聡いと言うのは始末に負えない。人の心理に斟酌は出来たとて行き詰まりを解決する手法を編み出せる程に俯瞰する距離の取り方を心得ては居ないのだ。
「身を引いても意固地になるだけだと思うぜ、『全員平等に不幸になる』ってんなら其れもお前さんら”らしい”とは思うが」
投遣りな助言ではない。もしそうだとすれば無責任甚だしい発言と自覚して、此れでも其れなり覚悟して述べた心算だ。外野から見た三人の関係としては、そんな心中を苦にしない信頼が確かに在る様に思えた。
「…」
考え込むようにして唇に手を寄せているのが横目に見て取れる。表情まではとても窺う気に成れなかった。
沈黙は暫し続いた。考え込んでくれるなら結構、休むに似たりと言う程に思考が進んでは居ないだろう。そんな風に高を括らず、やはり早々に打ち切ってエンジンを掛けるべきだった。
数歩先を取る様に歩みを速めた少女は立ち止まり振り向いた。
『悲痛な覚悟』、そんな言葉が浮かぶ表情を湛え口を開く。
「…ウチと、セックス、してくれませんか」
「…俺がそんな自棄糞に付き合う御人好しに見えんのか?」
一笑に付すと言うよりも不機嫌を交えた返答で少女の脇を通り過ぎようとした。捨て台詞を発すると共に置き去りにして帰ろうとスロットルに伸ばした手を掴まれる。
引き寄せられた手の甲に、水滴が落ちるのを感じた。
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