第5話

ケバブを配ったあの日から、2週間が経過した頃です。無事に大学への編入手続きも済んで、晴れて私も日本の大学生です。今日は大学がお休みなので、別荘のある渓谷に遊びに来ています。


「お嬢様、お食事の準備ができました」

「あら、サゲッターオ」


私が、のんびりと美しい風景を楽しんでいると、背が高く、さらさらの黒髪で、綺麗な褐色肌をした端正な顔立ちの男性が話しかけてきました。

彼の名前はサゲッターオ。私のSPの1人で、昔から何かと面倒を見てくれる、兄のような頼もしい存在です。

その時、プライベート用のスマートフォンが数回揺れました。


「あら、誰かしら?」


ディスプレイを確認すると、そこには“翔太さん”の文字が浮かんでいました。どうかなさったのでしょうか?内容は……


「来週の土曜日、遊びませんか?」


「日向と3人で」


翔太さんと初めて出会ったのは、ケバブを配った翌日の事でした。私が落としてしまった、大切なものを拾って下さった事が切掛けです。そのお礼を兼ねて、“ささやかな催し”を開いて以来、ご連絡を頂くようになったのです。そして、日向さんは翔太さんが所属している音楽サークル“ソニックパニック”。通称ソニパニの副サークル長です。明るい髪色が特徴で、快活な印象を与える素敵な女性です。

今、思い出しても素敵な時間を過ごせました。きっと、この度も楽しい時間が過ごせるのではと、私の心は晴れやかなものとなっていったのです。ウキウキとした気分で、早速返信をしました。


『先日の渋谷の社交界では、大変ありがとうございました。皆さんと刺激的な一時を過ごせて非常に楽しかったです』

『またお誘い頂けたこと光栄に思います。是非よろしくお願い致します』


間髪入れずに返信が送られてきました。


『!本当に!?こちらこそありがとう』

『お誘いを受けてくれて、とても嬉しいです!』

『良かったら、カラオケに遊びにいってみませんか?』


お誘いを受けただけでこんなに喜んで下さるなんて、翔太さんは本当に良い方です。


『カラオケ、ですか?それはどのような遊戯を嗜む場所なのでしょうか』

『カラオケっていうのは、自分の好きな歌を自由に歌える場所なんです!飲み物やアイスもあって、しかも食べ飲み放題!とても楽しいですよ』


ふむふむ、おかわり自由のホテルアフタヌーンティーで、歌のお披露目を同時進行するようなものでしょうか?そうなってくるとドレスコードが気になりますね。


『その様な場所があるとは存じ上げなかったです。とっても興味深いです!』

『ちなみにドレスコードは、どのような規定があるのでしょうか?』

『ドレスコード!?流石春香さん‥‥‥!特に決まりはないから、全然自由な格好で大丈夫だよ!』

『そうだったのですね、かしこまりました』

『不慣れなものですが、当日はどうぞよろしくお願い致します!』

『はい、案内は任せて下さい!_(:3」 ∠)_』


ふふふ、これは顔文字というものでしょうか?

翔太さんから送られてきたラインに思わず笑みがこぼれます。


皆さんとお会いしてお話ししていると全てが新鮮で、刺激的で、未知の世界を知れるというのはとても気持ち良いことです。


特に日向さんには直接お会いして色々とご教示願いたいと思っていたので、この様なお誘いは本当にありがたい限りです。



『実は、私もお会いしたいと思っていたので嬉しいです』

『え‥‥‥?』


あら、充電が切れてしまいそうです。


『気持ち良い 教えて欲しいです』

『え!?それってどういう‥‥‥!?』


あら、急いでいたせいで文章が途切れ途切れのまま送信してしまいました。これでは意味がわかりません、こういうことは気を付けないといけませんね。


(急遽SPのサゲッターオに、充電バッテリーを用意して貰おうとしたのですが__今日は偶々予備の用意がない上、丁度都心部から離れた渓谷にいるので、バッテリーを調達するにしても少々時間がかかるとの事でした)


『申し訳ありません。充電が切れてしまいそうです。また土曜ですね』

『あ!?え?了解です!』



ふふっ、本当に楽しみです。

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