終 章

 一頭の若いキタキツネが親元を離れた。独り立ちである。彼の前には、森の中でそこだけがぽっかり開けた空間が広がり、月の光が大地を覆う雪にきらきらと反射している。キタキツネの背中に散らばる銀色の星屑模様もきらきらと輝く。


 幼い頃は渡ってゆけなかった真ん中の広い穴も、今では易々と越えられる。穴の縁でキタキツネは振り返った。視線の先には額に傷のある母ギツネと、優に一回りは大きい銀灰色の父がすっくと立っている。


 その隙間から、まだ生まれて間もないと見える子ギツネが顔を覗かせた。若いキタキツネはそれを確認すると再び前を見て穴に足を踏み入れた。雪を踏みしめ、一歩ずつ前へ進む。穴の反対側へ渡り切ると、もう一度、元来た方向を振り向いた。銀灰色の父の首が上がる。


 ウォーーーーーゥ


 高々と伸びる遠吠えが森の木々を揺らし、月の光を浴びて白銀に輝きながら、一直線に天へと駆け上がる。


 その遠吠えは、神来の森に生まれたキタキツネが一人前になるための修行を終えた事を天に告げていた。遠い昔に家族や仲間との間を引き裂かれた彼らに、代々受け継がれてきた使命と言っても良いだろう。若いキタキツネは立派にそれをやってのけた。それも二組もだ。銀灰色の父はそれを誇らしげに歌ったのかも知れない。


 若いチロンヌプは、もう後ろを振り返らなかった。


                          【おわり】

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