チロンヌプの魔法

@suzugranpa

序 章

 ある夜、白い光が天から一直線に降りて来た。光は森に達すると、轟音とともに空気を震わせた。


 森に住む動物たちは驚いた。一頭の母ギツネが慌てて巣穴の方へ駆け戻る。しかし、巣穴があった一帯の木々は跡形も無く、地面には大きな穴がぽっかりと開き、周囲の草木は燃え盛っていた。炎の明るさと熱に押されて母ギツネは後ずさる。巣穴にいた子ギツネたちがもう助からないことは充分見て取れた。そこへ一頭のオオカミが現れた。銀灰色のオオカミも渦巻く炎をじっと見つめる。自分の群れの仲間たちが居た場所だ。オオカミもその仲間たちを一瞬で失ったことを悟った。


 パァーン!


 木がぜる音が響き渡る。母ギツネは更に後退あとずさった。そこには銀灰色のオオカミが居たが構わない。オオカミもまたキツネを獲物とは感じていなかった。二頭は成すすべもなく身を寄せ合って震え、その双眸には周囲を焼き尽くす炎だけが映っていた。


 遠くからその白い光を見た人間たちは、あの森に神が舞い降りたのだと噂し合った。


+++


 やがて、焼けた木々の間から新しい芽が出て、地面の大きな穴も次第に草に覆われ花が咲くようになる。しかしぽっかり空いた森の空間は元に戻らず、陽の光が射し込む、ちょっとした広場になった。そこではあの時身を寄せ合ったオオカミとキツネとともに、愛くるしい子どもたちが転がり戯れていた。子どもたちの毛並みは黄金色の子と銀灰色の子がいたが、中には、背にあの日舞い降りた光が飛び散ったかのような、星屑に似た白銀模様を背負った子もいた。


 白い光を伝説にした人間たちもそんなことまでは知る由もない。遠い遠い、昔の話である。

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