異世界召喚③

 暑い、いや熱い・・・この世界の太陽は俺を上から焼いていた。

 そして砂は鉄板のように俺を下から焼いている。


 どうしようもなくパーカーのフードを頭に被ってはいるが、そんなものは役には立っていない。

 本当に俺は今日、このまま干からびて死ぬんだろう。


 結局、何も良いことが無かった。

 社畜とか言う言葉のまま仕事をしただけじゃないか。


 恋人はいないし、ましてや結婚予定もない。


「先に行く親不孝か……、ごめん」

 なぜか詫びる心が沸き上がり、父さん、母さんの顔が浮かぶ。


 太陽を遮るものがない、そして飲み水も無い、もちろん食べ物などない。

 俺を救うであろう物は周囲に何にも無い。


「水……、浴びるほど水が欲しい……」


 そう渇望した時、朝のことを思い出した。


「そうか、魔法で出せば良いんだ……」


 もちろんやって見た、だが数分かかるのだ、その間にせっかく出てきた水滴も乾いてしまう。

 結局湿りを舐めたという感じだった。


「だめだ、汗だと言われたもんな、なんの役にも立たないよ」


 天を見上げて見れは雲一つない晴天だった。


「あ~~っ、雨降らないかな」


 雨、雨、雲・・・

 雲、雷・・・

 雪・・・


 そうか雨だ、不意に頭に浮かんできたことが有った。


 雲は何故できるんだ。

 空の上、つまり上空は気圧が低い上に温度が低いんだ。

 

 温度を下げるか、気圧を下げることが出来れば雲が出来やすい、つまり結露しやすい。


 しばらく考えて答えが導き出した。

 その方法はエアコンと同じでエアコンは冷房するとドレインから水が出る、あれだ。


 その原理は『断熱膨張』であり、これを術式にして魔法を作るんだ。


 だが手順は複雑だ、水蒸気を感じて集めるだけではない。


 但し、砂漠の空気は乾燥しているので少し大規模にしなければならないな。


 前回空間から集めるという捜査だけだった、問題は圧縮したり減圧したり出来なければならない。


 最初の難題は「空間を圧縮できるか」である。


 そうだ、空間を閉ざす、仕切る、小さな空間に分けることが出来るのだろうか?


 俺の知る魔法はゲームに出て来る魔法くらいだが結界を張る魔法が適切かな?


 まずは空間に結界を幾つか張って小空間(チャンバー)に分ける。

 チャンバーの中央に仕切りのような結界を作りこの仕切り結界を動かすと、圧力差が出来る。


 この圧力差により仕切るの片方は断熱圧縮、反対側は断熱膨張する。


 そして断熱膨張させた部分には水分が結露し始めるので水滴を集めるのだ。

 集まった水滴は水として溜まる。


 この作業を複数のチャンバーで繰り返し行い必要量の水を作り出すという原理だ。


 なお、副産物として圧力を掛けた断熱圧縮したチャンバーは熱を持ち、断熱膨張したチャンバーは温度が下がる。


 つまり、水が取り出せるのと同時にこの二つの空間から熱気と冷気を取り出すことが出来るため本当にエアコンになるのだ。


 しかし原理は分かっても実際には魔法は術式が長くなると面倒だった。


 複数の空間で多くの手順が必要になる。

 つまりあれやって、これやって、それもやって、おっとこれを忘れる所だった、という風になりどこかで失敗する。


 時間を掛け失敗は繰り返したが、何度かやる内に少しの冷気と少量の水を得ることも出来始めた。


 少量の水と冷気は俺は少し元気にした。


「ゆっくり確実に実行すれば何とかなる....、術式って作っているとプログラムを作っているようだ」


 そうなんだプログラムを作っている感じだ、だからかな?時間を忘れて取り組んでいた。


 だが、こんなことをしていても時間が過ぎて行くだけだった。

 効率が悪すぎる、お腹を満たすことは出来ない。


 数時間後ある閃きがあった「そうだ、マクロ化出来ないかな?」


 俺は術式をマクロすることを考えた、そうだ幾つかの術式をサブルーチン化して名前を付けて呼び出すのだ。


 こうするとマクロ名で代表できるので、術式のマクロ化した部分は考えなくても良い、実行時はマクロが展開すれば良いんだ。


 但し実際にはマクロの展開も自分でやるのだから作成効率は上がるが実行効率が上がるとは思えなかった。


 ところが実際にやって見ると、俺の表面上の意思ではその展開は行っていなかった。

 別の意思とも言うべきものがマクロ展開しているような感じだった。

 その別意思が複数あるからコンカレント処理と言うことになる。


 更に、またマクロを含むマクロを定義することも可能だと分かった。


 そうだマクロに出来ると、マクロ展開というタスクがコンカレント(並列)に実行出来るのだ。


 マクロ化することで一気に応用も広がることになる。

 IT技術者(というかIT社畜だった)で良かったということか?


 とりあえず集中すると時間の経つのも忘れて没頭できた。

 しかし、生きて行くにはまだ沢山の問題が山積みだった。


「お腹が空いたな、冷気と水だけではどうしようもない、最低塩分は必要だ、このままでは熱中症は避けられない。それと肌は日焼けでヒリヒリするし」 


 既に夕方になっていた、砂漠は冷えるのも早い、夜になる前に準備しなければならないことが多い。


 それと夜になると夜行性の何かが襲ってくるかもしれない、やっぱり生き残る可能性は低いようだった。


 まずは暗くなる前に準備しよう。


 結界を張り中の温度を調整する。

 この辺りはさっき出来たので問題なかった。

 ついでに結界の形を変化させて丸いドームを作った中にベッドのような形の床を作る。

 柔らかい結界なので、温度調整次第で眠りに着けるだろう。


 お腹は空いているが、疲れがピークに達しているのだ、そのまま眠ることにした。


 深夜になって、何やら周りが騒がしいので目が覚めた。

 何ということだろう結界の周りに無数の虫と小動物が取り巻いていた。

 少し遠くの方向には大きな瞳が月(この星の衛星)の光を放っていた。


 やはり夜は危険だと思ったが、結界を破れるものは居ないないようなので、安心してそのまま眠ってしまった。


 翌朝、目が覚めると昨日の砂漠にもどっていた。何もいない。

 多数いた動物や虫の足跡も砂漠に吹く風に消されていた。


 今日はご飯を食べなければならない。


 ただし、ご飯は昨日の生物だ。


 昨日の生物は食べられるのだろうか?

 大体の砂漠に住む生物は、その生物同士の遭遇するチャンスが少ないからか、一撃必殺の毒を持っていることが多い。


 昨日見た数、あれだけ居たのだ、多分近くに潜んでいるだろう。


 まずは結界をレンズ型にする、太陽の光が屈折率により集光する。


 焦点を少しずつ小さくする、つまり温度を徐々に高めて行く、やがて砂の中から生物が苦しくなって出てくる。

 出てきた生物に向かって一気に焦点を集約すると生物は湯気を出して動きを止める。


 そうやって大きな蜘蛛?サソリ?カニ?ヘビ、小さなネズミが煮えた?状態で手に入った。


 早速食べてみる。。。

 思いの他美味しいと言うべきだろう。


 欲を言えば、塩味でも付いていれば最良だな。


 塩か、やはり熱射病対策にもにも塩は必要だよな。


 塩、塩、塩…海か……

 海は無い…… 


 ナトリュームだな、そうか、地下にあるかも。


 地面の下にミネラルとして蓄積されているはずだ。

 砂漠で畑を作ると与えた水に塩分が溶け込んで塩害を引き起こす。


 そうだ地下から水をあげてくれば良いんだ。


 早速術式を作ってやって見る。

 やって見ると驚くことに空間から取り出すより簡単に大量の水を得ることが出来た。

 その上、ミネラル分も含まれた水も場所選べば取り出せ、水を蒸発させれば塩が析出した。


 早速、塩を振りながらカニみたいなサソリ?を食べて見たが、大変美味だった。


 食べて満足すると人とは不思議なものだった、精神的な不安がどんどん膨らんできた。


 そうだ、人は命の危機を回避できると精神的に不安になって来るものらしい。

 誰とも話が出来ない状況の精神的な不安なのだ、独り言が増えて来る。


 そしてここへ連れてきた奴らがまだ生きていることを知って、また襲い掛かって来るのでは無いかと不安が込み上げてくる。


 大体、レンズを使っての狩りなど、太陽がなければ出来ない。

 もちろん夜には出来ないし雨が降る時期でも来れば狩りが出来ずに俺は飢えて死ぬだろう。


 これからどうすれば良いのだろうか?

 そして何処に行けば良いのだろうか?

 どうなれば正解なんだろう?


 不安なままその日は暮れて行った。

 翌日も、そのまた翌日も同じことの繰り返しだった。


 食べることに意味を見出せず段々狩りをする元気もなくなってくる。


 数週間たったのだろう、スマホの電池はもうとっくに切れていた。

 目はギンギンであるが、何かに怯えやせ細った俺がいた。

 砂に半分埋もれる結界の中に潜む様に生きていた。


 夜も昼も関係など無かった。

 多分生きる意味を見失っていたのだと思う、狩りも何日もしてなかった。


 誰かと話がしたい、そうだ独り言に飽きた。

 こんなにも人と会わないこともあるのだろうか、誰かと触れ合いたい。


「誰か、誰か、誰でも良いから、誰か返事してくれ…」


 そんな叫び声を上げていた。

 たぶん俺の精神状態は異常になっていた。


 そんな叫びをあげた時だった。


「私と良いことしない?」


 若い女の声でそう聞こえた。


「私はラミア、貴方に夢を与えに来たのよ」


 また聞こえて来た、『ラミア』そう言えばそんな名を聞いた覚えはある。


 声のする方向を見るとこの砂漠地帯では考えづらい肌を露出した衣装を着た女がひとり立っていた。


 その日焼けもしていない透き通るような肌、もちろん抜群のボディ、そして何より小顔の女優かと思える美女だった。


「貴方の夢を叶えてあげましょう」


 明らかに怪しい、でも今の俺にとっては天女にも等しい存在……

 そうだ、この世界ではじめて微笑んで話しかけてくれる存在だった。


 良いんだ、これで死ぬなら夢を叶えて死んでも良い。


 明らかにに精神的にどうかなっていたんだろうと思う。

 俺は、彼女の姿を見て、トンデモナイお願いをする。


「俺の童貞を貰ってください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る