第6話 旦那
昨晩はしばらく眠れなかった。
いつの間にか寝ていたようで、起きるともう10時を過ぎていた。
頭痛がする。目が腫れぼったい。思わずまた薬を飲む。
あくびが珍しくもう起きていた。またテレビに向かって文句を言っている。テレビには、ある政治家が謝罪している姿が映っている。
「不適切な発言でありました。撤回させていただきます。」
ある女性政治家との意見の違いがあったようで、「女は日々機嫌の上下があり、すぐに気が変わるから政治家には向いていない。」などと発言したとのことだ。
「こいつさあ、この間も女は数人集まると仕事の能率が極端に落ちるだの、女は平気で嘘をつくだの言って批判浴びたばっかじゃんかよ。もう辞職しろよ。馬鹿が。
こいつらおっさんたちは結局女を見下してるんだよ。だから女は『産む機械』だなんて発言する奴も出てくるんだ。胸くそわりい。」
酒は飲んでいないようだが、いつものように荒れていた。これが彼女の日課なのだろう。
この政治家は、先に行われる知事選の候補の一人を指示していたようだが、今回の発言を受け候補者側から断りの連絡があったという。選挙に影響を及ぼすとの判断のようだ。
あくびがこちらに気が付いた。全然気づいてなかったようだ。
「おはよう。だいじょうぶかい。」
「大丈夫です。」
と答えた。本当に大丈夫なのかどうか自分でもわからなかった。別室で軽く朝食を採ったのち、また部屋に閉じこもった。
しばらくしてからあくびはまたふらっと外に酒とつまみを買いに出かけた。数時間後帰ると帰るとまた酒を飲みながらテレビを見て何か言っていた。
そんな数日が過ぎ去った。
■
ある日の昼過ぎ、土産を持って琴美が家に訪ねてきた。チョコレートのアソートの詰め合わせだった。ティナはお茶を入れた。お茶とチョコレートを食しながら数日前の話をした。
琴美はその話を聞くと、悲し気に話し始めた。
「ひどい親。でも、ほんの少しだけ分かる気がする。子育てって本当に思ったより大変だもん。一瞬目を離した隙にどうなるかわからないし、赤ちゃんだから理解しないし言うことも聞かない。だからとっても疲れるの。でもだからってお金だけ渡して捨てるなんて信じられない。」
ティナは目を細めうつむいた。
「ティナちゃんのせいじゃないわ。誰にも助けられなかったよ。きっと。」
ティナはまた一口、チョコレートを食べ一緒に薬を1粒飲んだ。
「だんなさんとは今も別々に生活しているのですか?」
「え、ええ。絶対に許したくなくって。着信とかメールとかくるけど無視してる。謝りたいらしいけど。」
「許してあげないのですか?」
琴美もチョコを一口食べ、ため息をつきながら外の景色を見た。
「私さ、子供のころからずっと地味で、何のとりえもなくって、友達もあまりいなくって。今だってそうで。
彼だったら私の事少しは理解してくれると思った。仕事してた時、理解してくれたから結婚してくれたんだと思った。
なのに、結婚して子供がすぐにできて、それから彼は私の事を家の世話と子供の世話をする人としてしか見てくれなくなった。そんな気がしたの。
帰ってくればずっと私の駄目出しばかりだし、私が話しかけても子供と遊んでて無視して、私なんて居ない事になってるみたいだし。
結婚して、子供ができても孤独が続くなんて思わなかった。
でも、ずっと我慢してた。家でモラハラ受けたり、向こうの両親の前で私の悪口を堂々と言ったり、子供までそれを真似して私の事罵倒してきたり。それでも我慢してた。そうしなきゃいけないと思ったから。けれど1年前にも一度暴力ふられたことがあって、それ以来我慢できなくなったの。その時だってすぐに謝ってきたわ。だから表面では許してあげた。でも許せなかった。」
「それで、また今回も。」
「そう。1年前の暴力から彼のこと嫌いになって。
夕飯の彼のおかずにゴミ入れてみたり、彼の歯磨きで排水溝掃除してみたり、悪口を投稿できるサイトに投稿してみたりしてうさ晴らしした。毎日、交通事故で死んでくれないかなって思ったりした。もちろん悪いことだってわかってたけどもう限界だったの。そうでもしないとやってけなくて。でも数ヵ月そんなことをしたあと、ふと虚しくなって。数少ない友達にも『私こんなことしてるの』ってカミングアウトしたら、その友達も私の事軽蔑したみたいで連絡くれなくなっちゃったりして。
ある時、ふと思ったの。
私、今、何を耐えているんだろう。何のために耐えているんだろうって。私の人生ってこのまま終わるのかなって。誰も私を見てくれなかった。存在も認めてくれなかった。ずっと。
そんなとき、またキレられて、暴力ふられて。
あの日、あなたが私に声掛けてくれてなかったら、もしかしたら蛇に食べられる道を選んでたかも。下を覗いた時、本当に天女が手招きしているのが見えた気がした。天国においでって。」
ティナは悲し気な表情で、でも何も言わなかった。
「ごめんね。私、最低だよね。」
「いいえ、そんな事ないです。でも少しでも解決してあげたい。」
「いいの。別に。」
しんみりしたことを気にかけて琴美は昔行った旅先の話などに話題を切りかえた。
あくびがのそっと起きたのを見て、琴美はそそくさと帰って行った。
■
その翌日、ティナは仕事の報告のためにミヤコに会いに行った。数日前に訪ねた時はフラワーアレンジメントの教室に行ってて留守にしていたとのことだった。たまに友人に頼まれて簡単な仕事のお手伝いなどもしているらしい。
ペン型の隠しカメラを渡したが、すぐに映像のチェックはしなかった。代わりに事務所にいた人の様子や、変わった人に声を掛けられなかったか尋ねられた。声は掛けられた記憶なし、事務所の人は慌ただしかったと答えると、ミヤコは「そう」とだけ答えた。ミヤコはティナの異変に気が付き声を掛けた。ティナは自殺した少女についてミヤコに話した。
「そう。その子はかわいそうだったわね。ネグレクトかしら。」
「良くあることなのですか?」
「さあ。でもよくニュースとかで良く話題にはなるわね。
夫婦間でうまくいかなかったり、夫婦の生活が困難だったりでそのしわ寄せが子供に来ちゃうのかしら。
昔はお見合いによる結婚が多くて夫婦に両親が介入することが多かったし、一緒に生活することとか花嫁修業なんてのもあったけど、今は結婚も自由で両親もあまり介入せず、でもその反面、良く考えもせずに勢いだけで結婚しちゃう。若気の至りって言うのかしら。それであとで過ちに気が付くと夫婦生活がたちまちうまく行かなくなったりして。それが子供ができた後だったりすると子供の面倒見切れなかったり、虐待につながったり、子供に影響が及んじゃうのかもね。
または育てる覚悟とか夫婦間の愛とかまったくないまま子ができちゃったとか。どちらにしてもかわいそうな命だったわね。」
「シホホネスはそんなに生活が苦しいのですか?」
「人によるけど、ここ数十年くらい、ずっと貧富の格差は広がっているわね。
この国は景気が悪くなってから、『構造改革』とやらで改革が進められてきたわ。企業は企業間の競争がどんどんと激化し競争に勝つために今まで以上にコストを切り詰めなければいけない。そして派遣労働の規制緩和で、企業はコスト切り詰めないといけないから非正規雇用者をどんどん増やし、いつでも使い捨てができるような状態になって。企業からしてみれば都合が良いんだけど、働いている人にとっては給料も減るし、いつ契約切られるかわからない環境で働いている。そんな環境で働いている親が、急に職を失ったり、離婚したりしたらそれは困るわよね。
ずっと政治は庶民の暮らしを支えるって言ってきたんだけど、ここ最近は経済の回復優先のため、企業のための政策重視みたいで庶民の暮らしについては後回しみたい。企業が元気になって経済が良くなれば庶民の暮らしも良くなるって理屈のようだけど各企業も先行きが見えないから簡単には景気は良くならないわ。テレビでは景気は良くなっているって言うんだけど、景気が良くなっても賃金が上がらない。だから庶民の暮らしは厳しいまま、むしろどんどん厳しくなっているみたい。そんな中、また増税までしているわ。」
ミヤコは紅茶を口にして一言付け加えた。
「って旦那が良く愚痴っているわ。うちの旦那は正社員だし、うちはそんなに生活に困ってないけど。」
「それであんな子までが犠牲に。」
「生活が厳しいから子供を捨てるような親はほんの一部でごく稀って信じたいけどね。ほんと、かわいそうだったわね。」
その後ミヤコはティナの持ってきた映像を見ると何やら気がかりなことがあったようで、無言で一人考え事をする時間が多くなった。
ティナはその空気を察し邪魔してはいけないと思い、お茶菓子をいただくとさっさと帰ることにした。
■
川田泰人。
入社して6年目。
情報システムに多少詳しいことと、日ごろの努力のおかげか、急にこの度のプロジェクトのリーダーを務めることとなった。
大元の依頼主は国のセキュリティ監視システム推進チームとかいう組織で、その組織の詳しい内容についてはわからないし教えてくれない。依頼のあった案件は、現在検討中のプロジェクトなのだそうだ。
地域の防犯カメラの映像から犯罪を起こしそうな人、脅威となりそうな人の振る舞いをAIを使って分析し、事前に検知できるようにし犯罪を未然に防ぐというのが大まかなプロジェクトの目的であった。話を振られたときは、面白そうで地域に貢献もできそう、それを自分に任せてもらえるという会社の決定を光栄に思い胸が高まり興奮した。詳しいふるまい分析に採用するプログラムの選定やカスタマイズは子会社であるシステム会社の協力を得て構築して行く。自分はシステムが最大限効果的に実用できるようにするための業務仕様を検討しまとめていくことや、プロジェクトのスケジュールや進捗状況の把握等をするのが主な役割だ。
しかしながら実際に開始したものの、話が一向にまとまらない。ユーザー側の責任者や実務担当者は年寄りでシステムに関係する横文字が出るだけで拒絶反応を起こすようでなかなか理解できない。業務フローをまとめた資料なども見ても理解ができない様子だ。週に2、3回実施される仕様の検討会についても話がとっ散らかりまとまらないし、検討会を実施するたびに話の内容が異なってくる。まとめるのに四苦八苦するし、仕様もぜんぜんまとまらない。また、まとまってもすぐ覆るためにシステム会社への依頼内容も日々変わり、その都度システム会社からはクレームが来る。費用ばかりがどんどん消費し、進んでいる気がしない。しかし、費用については国が出してくれるとのことで想像以上の予算がある模様で、ユーザー側は一切気にしていない。その上、その費用を使って週に数回キャバクラや高級居酒屋などで豪遊する始末だ。自分はこの豪遊にも必ず参加しなければならない。上司には、参加したくない旨を何度も伝えているが本プロジェクトの発注の撤回などされてしまうと困るとのことで参加を強制させられている。これが一番嫌でしかたない。帰って子供と一緒に過ごしたい。
妻と子供と言えば、先日また妻と喧嘩になり、その翌日妻が子供を連れて出て行ってしまったようで仕事から帰ったら家に誰もいなかった。連絡をしても無視して出てくれない。先日我慢できず妻側の実家にも連絡を取ってみたが、子供はたまに預かるがそれ以外は知らない、妻は昼間は仕事をしているようだとの返事だった。この先行きが全く見えないプロジェクトのため連日夜遅くまで一人検討をし、嫌な豪遊にも耐え、妻子にも出ていかれ、ほとほと疲れ切っていた。
なおこのプロジェクトについては、最近何点か意味の分からない仕様変更があった。駅前繁華街、商店街などへの防犯カメラの設置台数を減らし、川沿い、海沿いに増やす。男女区別してふるまい検知ができるようにする。夜間の稼働率を上げるため暗闇でも検知できるよう機器を選びなおすなど。しかしながらこれらの仕様もいつ覆えるかわからない。それによって機器や採用するAIの選定見直しにまた膨大な時間を取られることを説明してもいっさい理解してもらえない。
なぜ、自分が指名されたのか。誰もやりたがらなかったからだろう。開始前からこの事が想像ついていたのか。だったら受注などしなければいいではないか。今している事すべてに疑問が湧いてくる。
この日も終電近くまで近くの飲み屋で豪遊。この酒が美味いだのと言って注がれる。酒も正直さほど強くないし好きではない。いつも決まって、ゴルフだの、あの飲み屋はうまいだの、あの風俗街は質が良いだの、あのキャバクラの誰々はかわいいだのそんな話ばかりで仕事の話など一切しない。この人たちは家が近くタクシーで帰るが自分は電車を使ってドアツードアで2時間ほどかかるところに住んでいる。いい加減にしてほしい。
■
やっと終わった。
終電に乗り帰宅する。たいてい途中駅から座れるので座って居眠りする。起きた頃には最寄り駅の終点に着いていて、寝ていても駅員が起こしてくれる。
田舎の自然溢れるところで生活したかった。だから郊外を選んだ。終点の駅で降りる人がぽつぽつといた。立ち上がると気持ち悪くなりトイレに向かう。吐こうとするが唾液だけが出てくる。しばらくしトイレからでるとあたりにはもう誰もいなかった。駅もシャッターが下り店じまい。一人暗い中を歩いて帰る。駅を出て駅の下に回り込むように線路の下の道を進むと橋があり、その橋の下には線路と並行して川が流れている。休日にはここでバーベキューや川釣りする人などもいる。川沿いの土の狭い道を歩いて行くと家まで最短距離で帰れる。暗く、足元には注意しなければならない。
頭痛と気持ち悪さに耐え、暗く狭い道を歩いていると急に声を掛けられた。
「あの、すみません。」
急に声を掛けられ心臓が跳ね上がった。何なのだ。こんなところに。しかも女の子か?
「川田さん、ですよね?」
お化けか妖怪かと思ったが違うようだ。心臓の鼓動が荒くなり、落ち着かせようと深呼吸する。
「な、なんで俺の名前を。君はいったい?」
「琴美さん。ご存じですよね。」
全身の血液が活性化し眠気、気持ち悪さが一瞬で飛ぶ。
「琴美を知っているのか?子供は?今どこにいるんだ?あんた一体誰なんだ?子供はどこなんだ?」
「川田さんの事は最近琴美さんと知り合いましてお聞きして知っております。その時にお写真と住んでいる場所もお聞きしました。驚かせてすみません。ティナと申します。
琴美さんは、別の家を借りてお子さんと2人で生活しているようです。それがどこかは存じ上げません。」
「お願いだ。子供と、琴美と合わせてくれ。ちゃんと話がしたい。」
「琴美さん、あなたにモラハラを受けたり、暴力を振るわれたりしてそれで怒っておりまして戻る気はないようです。琴美さんは一切お話しする気などない様子ですが、でも私もちゃんと話されたほうが良いとは思います。」
「暴力だって?暴力なんて振るってない。家が全然掃除できてなくゴミだらけで、洋服が床一面に脱ぎっぱなしで少し片づけようとしていたところ、あいつが顔を近づけてきて、その時たまたま手の甲があたってしまったんだ。悪いと思ってすぐに謝ったさ。あとモラハラだって?主婦なのにあれだけ掃除、洗濯、食器洗いとか全然してなかったら少しは注意したくなるさ。少しはやってくれってお願いしただけだ。確かに口調は強くなってしまったかもしれないが。」
ティナはびっくりした。想像と全然違う。この言い分の違いは何なのだ。一方的に威張り倒して、暴力を振るっているのかと思っていた。
「でも1年くらい前も暴力を振るわれたって。」
「あれは、確かに突き飛ばしてしまったさ。でもその前にあっちが癇癪起こしてモノを投げてきて、泣きながら俺の服を掴んでぐいぐい引っ張るから、子供の前で止めてくれって手を払ったんだ。それがたまたま突き飛ばす結果になって。あの時だってすぐに悪いと思って謝ったさ。」
聞いたことからの想像と全然違う。ティナは困惑した。少しでも仲直りしてもらおうと琴美の気持ちを伝えつつ助言するつもりだった。
泰人は頭が痛くなった模様で頭を抱え道の脇の雑草に向かって少し吐いた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。子供と琴美を話がしたい。俺が悪かった。謝りたいと伝えて欲しい。」
その時だった。ふと茂みから大きな何かが動く音がした。音からして犬、猫、タヌキとかではない。少しすると茂みから姿を現した。
「あら。誰かいると思ったけどやっぱりあなただったの。ものすごい偶然、世間て狭いのね。あなたもそこの男にご用かしら。」
ミヤコだった。ティナはしばらく状況がのみ込めず何も言えなかった。
「川田泰人。さんよね。」
ミヤコの声は身も凍るようほどの冷たさを感じた。。
何なのだ。なぜ、自分の名前を知っている見知らぬ女が2人もこんな夜中に。まったく意味がわからない。泰人はまた頭痛がひどくなり頭を抱えた。
「LSO。ご存じよね。」
「え?あ、ああ、なぜ・・・?」
「あんなもの作られちゃ困るのよ。
しかもあなた、不倫だの、モラハラだの、DVだの、毎日のように豪遊だの、結構な事ね。まあ、それはいいんだけど。
別にあなたに恨みはなくて、少し気の毒なんだけど、ごめんなさいね。」
周りを少し見渡しながらそういうと、ミヤコは右手を青の光へと変えその手で泰人の顔をつかんだ。泰人の髪から青白い火が上る。顔から徐々にその青白い色が全身を染めてゆく。泰人は意味も分からぬまま、何も声を発することもできぬまま見る見るうちに形を変え溶けてゆく。泰人は苦痛の叫びの表情のまま、やがて衣類もろとも静かにこの世からなくなって行った。
ティナは何が起こったのか全く理解できずただただその様子を見ていた。ミヤコは冷静に
「ごめんなさいね。嫌なもの見せてしまったわね。
あなたも誰にも見られないようこの場からさっさと立ち去ったほうがいいわ。目撃者がいたりすると大変。」
ミヤコは喋りながら、泰人の持っていたカバンを物色し、数枚の資料を手に取った。それから
「じゃあ、またね。あ、またお仕事お願いしたいの、明日でも明後日でもおうちに来てくれるかしら。」
と呑気に言い残し川のほうへと去って行った。
しばらくの間、夢でも見ているのかと我を疑い立ち尽くした。少ししてからうつろなまま川のほうへと移動し、来た通りに川を下り都市部のほうへと移動した。
家に帰ろうかと思ったが、頭の整理がつかず、この日は川の下流の少し深いところで休むことにした。
■
川田泰人が数日出社しない事、連絡が一切つかないことは社内でも問題となった。
数日後に何か事件に巻き込まれた可能性があると警察に連絡し捜査が始まった。数日前に駅員が最寄り駅で彼のような人を起こしたかもしれないという証言のもと駅近くの調査をしたが彼の遺体や遺留品、形跡はどこにも発見されなかった。
警察からは琴美にも連絡が行った。
琴美は複雑な気持ちだったが、子供がパパをせがる姿に同情し深い悲しみを感じた。
ティナは翌日家に帰ると、また薬を飲み、部屋に閉じこもった。
その翌日、ミヤコの元へ行くとこう伝えられた。
「あの日はごめんなさいね。まさかあなたがいるなんて思わなくて。おかげで男を探す手間が省けて助かっちゃったんだけど。
これが私の魔女のもう一つの顔。ショックだったかしら?軽蔑しないでね。後で必ず理由を説明するから。
一つお願いがあるんだけど、この間の場所に警察意外に変な人たちが捜索に現れないか少しだけ見張ってて欲しいの。水の中とかに隠れながら。
見つかると危険だから、そんなにまじめにやらなくてもいいわ。絶対に見つからないようにね。もし気が乗らなかったらやらなくてもいいし、ほんの少しだけでもいいし、無理しないでね。」
こちらの気も知らないでマイペースで冷静な人だなと思う。
「あの、今は理由は教えてもらえないのですか?」
「ごめんなさいね。まだ話せないの。後でお話しするわ。」
家へ帰るとあくびは相変わらずテレビと会話していた。
「何が援助交際は最近のカルチャーだ。この馬鹿評論家ども何にもわかっちゃいない。さっさと消えて欲しいねえ。」
なんか少し元気が欲しくて、あくびの近くに行った。
「ほんとさ、こいつらみたいな裕福な奴らに分かりっこないんだよ。さっきもさあ、貧困バラエティーなんつーもんがやってて、お金のない女の子取り上げて笑いものにしててさあ。ふざけるなっつーの。庶民の貧困が問題だってわかってんなら国が政策考えろよ。ったくさーあー。」
「あくびさんが見ているテレビ番組ってみんなそんな番組ばかりですね。」
「あたしが選んでるんじゃないんだよ。つけるとそんな番組しかやってねえんだよ。テレビ番組は男尊女卑でできてるのか?って疑いたくなるよ。」
「私もお菓子少し食べていいですか。」
「ああ、いいよ。でも、それ、辛いよ。」
確かに異様に辛く、少し生臭いお菓子だった。
すこしあくびとテレビを見ていたが、あくびがとてもやかましく一人にしてあげたほうが良いではと思い、自分の部屋へと戻った。この日も薬を飲んでから寝た。
翌日、朝早く出て、泰人の家近くまで行き少し散歩した。
近づくと先日の事を思い出し腕にしびれを感じた。ミヤコさんには悪いがあまり頼まれた仕事はせず帰宅することにした。
警察らしき人や変わった人も特に見当たらなかった。
夕方、帰る途中、家の近くの道路で車が事故を起こしており、緊迫した雰囲気が漂っていた。
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