第4話


腐敗臭がする鉄格子の中で、私は一人唇を噛み締める。

どうして私がこんな目に………

あのロメン王子に魅了を掛けただけというのに。

許さない。

この私をこんな目に合わせたことを後悔させてやる。


私は幼い頃から全てを得ていた。

ケーキを食べたいと言えばケーキを食べれるし、指輪が欲しいと言えば、指輪を貰える。

お母さんやお父さん、メイドや使用人などの全ての愛情を私は授かった。

何をしても褒められたし、一緒に居るだけで幸せそうにしてくれた。

それもこれも、私の持つ「魅了」スキルのお陰。

お姉ちゃんの愛情も、全て奪ってやった。

私より可愛いくて美しいのがいけないのだ。

他のみんなは私に魅了されているため気付かないが、少なからず私の姉はとても美しくて綺麗だと思う。

それはもう、この国で一番綺麗とされる王女様と比較しても大差ないくらい。

だけど、そんな姉も私が魅了を掛けたことで、愛されるはずが全くといっていい程愛されていなかった。必死に作法や用法を勉強したり、実習したりして努力をしたのに。

何もしていない私の周りにはいつも人が居て、必死に努力をして振り向いて貰おうとしている姉の周りには人影すらつかない。

そんな姉を見て、私はほくそ笑んでいた。

だって、努力が報われないのを見るのは楽しいんだもん♪

しかも、私より綺麗な姉が報われていないのだから本当に笑ってしまう。


そんな姉だが、姉にはロメン王子という私をこんな目に合わせた糞野郎の婚約者が居る。

糞野郎は、本当に腹の立つことだがとても美しく綺麗で、いつも一人でいる姉に優しく話し掛けたり、軽くいちゃついていたりした。

姉が楽しそうにしてるのを見るのは腹が立ったが、私はあえて近付かなかった。

だって、存分に楽しませた後に裏切られるのを見るのは楽しいでしょ?

私は、そろそろ結婚を迎えるという時期に婚約を破棄させようと思っていた。

勿論、この魅了スキルを使って糞野郎を私に惚れさせ、私に惚れてしまったということで婚約破棄をさせるというもの。

自分にとって唯一の大切な人に裏切られるのだ。

姉は、本当に壊れてしまうのだろう。

だけど、私は姉が壊れるのを望んだ。

綺麗な姉が壊れるところを見たいと思ったのだ。

ただ、それだけの理由で私は魅了スキルを掛けようとした。


だけど、そんなことにはならなかった。

何故だか分からないが、魅了スキルが糞野郎に効かなかったのだ。

何で効かないんだろうと思って、もう一度魅了スキルを発動させようとしたが、私は使う間もなく直ぐ様糞野郎に捕まえられた。

もうここに居て三日。

あの糞野郎のせいで私の計画は壊されて、これからも続くと思っていた思い通りになる夢の生活は、一気に破綻した。それに、何故だか魅了スキルも使えなくなった。糞野郎の周りにいる騎士達を魅了して、騎士達に糞野郎を殺させようと思ったのに。


檻に入れられてからずっと、私は奴隷として扱われた。

最高級のステーキでない平民が食べるような不味い飯や、ほこりやごみが浮かんだ水を出され、汚くて狭い空間に閉じ込められた。

今まで全てを得ていた私か、受ける行為ではない。

くそ、どうして私がこんな目に───


こうなってしまった元凶であるロメン王子を妄想して、妄想でつくったナイフを突き刺してやる。

ははは。

ざまぁ。

お前なんか、こんな未来が相応しいんだよ。


そんなことをして暇を潰していると、地下牢の扉が開く。

誰が来たのかなと思い、扉に入ってきた人を観察しようとすると、まさかの人間に私の怒りは再び急激に高まる。どうしてこいつがここに。


「お前は………ロメン王子!!」


入ってきた人間は、幸せそうな顔をしたロメン王子と姉ちゃんだった。


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