第2話   捜査開始!!

 事件が起こったのは、平日の昼間のおばあちゃんがお店を開けたまま隣町の義娘のところに行っていた二時間の間に起こったのだという。

隣町と言ってもそんなに遠くは無いため、おばあちゃんは時間がある平日の昼間によく会いに行っていたのだとか。今回は、たまたま長話をしてしまい、急いでお店に戻ると駄菓子が無くなるという事件が起こっていたのだ。


 四人はおばあちゃんに話を聞いた後、商店街の他のお店に話を聞いて回りだした。

最初に行ったのは駄菓子屋から百メートルほどのところにある本屋だった。

「お兄さん、こんにちわ」

 歳は、二十代後半ぐらいのエプロンを付けた店員が、眼鏡をくいっとあげて四人を見た。

「うん?まだ、いつもの雑誌は入ってないぞ。曜日でも間違えたか?」

 店員のお兄さんは優しく微笑んで一樹にしゃべりかけた。

「今日は本を買いに来たんじゃないよ!探偵団としてきたんだ!!」

 また、胸を張って堂々と言った。

店員のお兄さんは少し驚いた様子で、興奮気味に一樹を見た。

「おおー、ついに少年達が立ち上げた探偵団が日の目を見るときが来たんだね。このときを待ち望んで一樹君と何度話し合ったか!」

 お兄さんは、純粋な子供の様に目をキラキラと輝かせながら一樹の方を見た。

すると、自分もいると主張したいのかキッキーっとキャラメルが鳴いた。

「分かってるよ。君も大事な探偵団のメンバーだよね」

 分かってもらえたかっというように誰に似たのかキャラメルは胸を張った。

一樹は、コホンっと咳ばらいをしてから、

「店員さん、すみませんが少しお話を聞かせてもらってもいいですか?」

「は、はい。なんでも聞いてください」

 店員のお兄さんは少し緊張した様子で答えた。

そんな二人のテンションについていけていない一樹以外の探偵団メンバーはあきれた様子で二人を見ていた。

「ねぇ、大樹。私、このお兄さんと一樹が話してるのあんまり見たことないけど知り合いなの?」

 みちるがひそひそ声でこっそり大樹に聞くと、

「あぁそうか、二人は知らないよな。あのお兄さんは一樹の親戚なんだよ。一樹とは話が合うみたいで一樹もよく家に遊びに行ってるみたい」

「なるほどね。確かにあの二人のテンションは親戚なら納得かも」

 みちるが納得して、ふと、後ろにいる唯を見ると、じーっとお兄さんを見つめていた。

「唯、どうしたの?何か気になることあった?」

「あのね。お兄さんのエプロンの猫ちゃんがね。すごくかわいいの」

 唯はじっとお兄さんのエプロンの刺繍の猫に視線を注いでいた。

そんな三人を気にすることなく、テンションの高い二人は話し合いを進めようとしていた。


 一樹は、お兄さんに事件の一連の流れを話した後、お兄さんに質問を始めた。

「この事件について、何か知りませんか?」

 お兄さんは話を聞いていくうちに、先ほどまでのワクワクとした様子から少し驚いた顔になった後、きりっとした顔つきになり真剣な表情になった。

「それは不思議なことが起きましたね。店主のおばあちゃんはよくお店を開けてましたし、誰でも犯行は可能ですね。でも、問題は目的がはっきりしないことですよね。

駄菓子を全部盗んだとしても、どこかの家に忍び込んで金目の物を盗む方が稼げるし、安全な気がしますが…」

 

お兄さんはあごに手を当て、椅子に座って足を組んだ。これは、お兄さんが考え事をするときの姿勢だった。

少しの間、お兄さんは考え事をしていたが、何か分かったのかフフッと笑った。

「えーと、僕が見たのは車ですね。一台のトラックが走り去っていくのを見ました。時間は正確ではないですけど、一時間前ぐらい前だったとは思いますが」

「なるほど。ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ。協力できたことをうれしく思います」

 四人はお兄さんにお礼を言ってからお店を後にした。

「それで一樹。次はどうするの?」

「まづは全部のお店の話を聞いてみようかな」

 一樹の意見に全員賛同したため、四人は近くのお店から順番に話を聞いて回ることにした。




 それから二時間後

四人は全部のお店を回り終わった。

「いやー、まさかこんなに時間がかかるとはな」

「聞き込みは慎重に行うべきだからね」

 疲れたのか、キャラメルは一樹の肩から頭に移動し、ぐてんっと体を伸ばしてだらけていた。

「キャラメルも時間かかって疲れちゃったね」

大樹と一樹ののんきな会話を聞いていたみちるは、間髪入れずにツッコミを入れた。

「時間がかかったのは聞き込みの途中で休憩が多かったからでしょ」

実際のところ、みちるの言う通り訪ねたパン屋、肉屋、八百屋、散髪屋のそれぞれでお店の奥に呼ばれ、お菓子とジュースをごちそうになったのだった。

「誰も事件の事、分からないっ言ってたね」

 唯は残念そうにうつむいて言った。

そんな唯を見かねたみちるは、唯の頬を両頬をぐにぐにと引っ張った。

「ふぁにするのー、みっちゃん」

「フフフ、唯は笑ってる方が可愛いんだから、難しい顔してちゃだめよ」

 みちるは引っ張られて少し赤くなった頬をさすっている唯にもう一度笑いかけてから一樹の方を見た。

「ところで一樹、これからどうするの?何か考えは?」

「本当は行く気は無かったんだけど、ここまで捜査が進まないなら行くしかないよね」

 一樹があまりに真剣に話をするので他の三人は固唾を飲んだ。



「ここって」

「おっおい、カズ。マジで行くのか?」

 唯と大樹は一樹の顔をじっと見た。

「ああ、これは探偵団が有名になるためなんだ。仕方ない」

 四人が来たのはバーだった。

「お母さんも父さんもここは大人のお店だからって言ってたけど、今の僕たちはただの子供じゃなくて探偵団だからね」

 一樹が緊張した様子で扉にゆっくりと手を伸ばしていると、

「何してるのよ?さっさと行くわよ」

 一樹の手は取っ手を掴むことなく空を切り、目の前の扉はみちるによって勢いよく開けられた。

「先陣を切るのは、リーダーのしごとだろー!」

 一樹の必至の訴えにまったく興味を持っていないみちるはお店の中に入った。

お店の中は、焦げ茶色の椅子がアンティーク調に作られており、テーブルもそれに合わせた色合いだった。

照明はカウンターのみで全体的にみると薄暗いイメージのお店だった。カウンターに立つマスターが吹いているグラスはショットグラスと呼ばれる、

底が平たいグラスで、バーと言えばよく想像されるだろうグラスだった。

自分達が今まで感じたことがない大人な雰囲気に一樹達四人は飲み込まれ、お店の中を見回すことに集中していた。

そんな五人の意識をもとに戻したのはマスターだった。

「ここは子供が来るような場所ではないぞ。すぐに帰りなさい」

 マスターの容赦のないギンっとした目に驚いて四人は後ろに一歩引いていた。

一樹の頭の上にいたキャラメルは怖がっているのか自分の顔を両手で隠している。

恐ろしさでいっぱいいっぱいな一樹だったが、負けじと自分を奮い立たせるように力を込めて反論した。

「僕達はただの子供じゃありません。探偵団です」

 マスターは疑問を持った様子だったが、一樹の言葉の真意を理解したのか、子供に理解させるためか、ゆっくりと話し始めた。

「探偵団になることで大人になれるわけではないことを知っておいた方がいいぞ、坊や。そんな様子でどこまでも突き進もうとしたらいつか痛い目を見る」

 マスターが怒鳴るように言うのではなくただゆっくりと諭すように言ったので一樹は何も言い返せない様子だった。ただ、一樹もすぐに引き下がる気はないようで、

「僕達は、駄菓子をすべて盗られた駄菓子屋のおばあちゃんのためにもこの事件を解決したいんです!」

「今なんと?」

 マスターは少し困惑した様子だったが、負けまいと反論していた一樹にはマスターの変化には気づける訳もなくさらに強く言い放った。

「確かに、初めて身近で事件が起こったのには興奮していたけど、おばあちゃんを助けたいのは本当です」

 一樹の発言から、一樹達が何をしに来たのかを悟ったマスターは一樹達をカウンター席に座るように促した。

カウンターの席は子供が座るのには少し高く、一樹達は苦労して椅子に座った。足をぶらぶらさせながら待っている一樹達にマスターはジュースを出してゆっくりと話し始めた。



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