線香花火

紺地に桔梗模様の浴衣

金糸雀色の帯しめて下駄履いて

蚊取り線香と

水を入れたバケツを用意して


指先で持つ線香花火

火をつけたら揺らさないように

小さな火の花をそっと守るように

じっと見つめていたっけ


遠くで祭囃子が聴こえて

子ども心にもワクワクして

はしゃいで笑って

あれは昭和の頃の夏



随分と遠くまで来た気がする

祖母も父母も彼岸へと旅立って

あの頃の四人家族は

わたし一人になってしまった


コロナ禍で夏祭りは中止になって

祭囃子はもう聴こえない

線香花火をすることもなくなった

令和の夏は静かで、もの寂しい


いつかまた線香花火を買ってきて

息子たちと、あの可憐な火の花を

見る夏がくるだろうか

そんなことをぼんやり考えている


窓を開けて頬に夜風を受けながら



ああ、幻の祭りの音が聴こえる

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