第30話 後日譚③ 流浪の果てに
生まれ故郷を追われた形となったリリアとホホヅキは、その後しばらく追手から隠れるように身を潜めながら当てもない旅を続けていました。
自分の浅い考えの所為でこうなってしまった事をしきりに悔やむリリア、対してホホヅキは自分達がこうなったのも自分の所為とはしながらも内面満足はしていました、何故なら自分が思慕している人物が側に、片時と離れずいるのですから。
とは言え、当面の問題としてはこれからをどうするか―――リリア自身は以前『傭兵団の頭領』をしていた事もあり、その気があればまた傭兵団を結成しても構わなかったのですが…
「(いや、ダメだ…あの時と今とじゃ状況が違う、また以前の様に悪辣に手を染めてしまえば今度はニルやノエルと直接対峙してしまう事になるだろう、それに…)」
なによりリリアもホホヅキの事が心配でした。 それというのもホホヅキは本来こうした荒事には向かない身―――なのに今まで相当無理をさせてきた、そう思ったから傭兵団結成は“ない”と思いました。 けれどそれはそれで困り物、ならばこれからどうすれば―――
「よし、一か八かだがスオウへ行ってみよう。」 「『スオウ』…ニルヴァーナの故郷ですね、ですがそこへ行って何をしようと。」 「当てなんかないさ、けれど知恵の無い私にはもうこれしか考えが及ばなかった…カルブンクリスさんならこんなの問題にもならないのにな。 それに、私達は半分鬼人でもあるんだ、だからもう…そこに
見ていて辛かった、幼馴染みは『自分には知恵がない』とは言うけれど、恥ずかしながら自分にはその考えさえ及びが付かなかった、それに自分達の身体の事もある、ならばもうそこに
* * * * * * * * * *
それから数週間の時間が経ち―――ニルヴァーナが冒険者としての依頼の一つを片付けギルドに報告に上がろうとしていた時、普段とは違った光景を目にしたのです。
「どうした、何があった。」 「ああお前か、いやなに怪しい2人組がスオウへ入ろうとしてな。」 「(怪しい…?)どう言った風体の持ち主だ。」 「いや、それがなあ…一見するとヒト族みたいなんだが、そいつの言うには『私の身体には
同じ国の
「すまぬ、そこを通してくれ――― (!)やはり…そなたらであったか。」 「なんだ?お前…この2人の事を知っているのか。」 「知るも何も、この私と共に魔王ルベリウスを討った仲間だ、事情は後で話すから取り敢えずは私が引き取ろう、それで良いな。」
かつて自分の【
そして―――…
「一体どうしたと言うのだ、そなたともあろう者が…まあ取り敢えずは
自分が知らない間にこの2人に何があったか―――大体の処は視えました、それにリリアとホホヅキは故郷に錦を飾る為にとサライへと帰ったのに、再会した処でのこの様子を見ると詳細を聞く間でもなく
それからしばらくして2人とも落ち着いた処で、これまでに何があったかを聴き取りました。
「今考えてみれば私の考えが相当浅かった…そう言わざるを得ないよ、ニルやノエル、王女サンやカルブンクリスさんは私とホホヅキがサライから
詳細を聞くに及び、最初は仲間の2人が遭ったとされる出来事に
「知られてしまったのか―――あの秘密を。」 「ああ、お蔭で私達2人はヒト族じゃなくなってしまったんだと、笑えるよなあ…ニル、私達もう化け物だぜ―――英雄ってのは混迷した世の中じゃ持て
そう、問われた処で答えが出るはずもない、それに今はニルヴァーナですらも名前で呼んで貰いさえしていない……それはまだ
* * * * * * * * * *
それからしばらくリリアとホホヅキはニルヴァーナに厄介になりました、それに今のニルヴァーナの身分は『冒険者』…このスオウの地域の為、スオウに暮らす住民達の為に今自分が出来る事を依頼として受けてやっている―――そんな処でした、それまで相手をしていた魔王軍よりは劣るものの野良の魔獣討伐や薬品となる材料の採取、時には“はぐれ”
そんな中―――
「へえ~色んな種属がいるのな、ヒト族もいるって知った日にはびっくりしたよ。」 「まあマナカクリムよりは少ないと言った処だろう、それにもういいのか。」 「私だってタダ飯喰らうのが能じゃないんでね、それに以前はこれでも傭兵団率いていたんだぜ。」 「ふっ、その様子を見る限りでは問題ないみたいだな。」 「すまねえな、気を遣わせてしまって。」 「それはいい、それより説明が始まるぞ。」
今回の『
「なあ―――どう見る、ニル…」 「恐らく、旧魔王軍の残党みたいだな。 それに“統率”…その様子を見てはおらんから
実の処、故郷であるスオウに戻った時、自分のやるべき事を見い出せないでいたニルヴァーナは宣言した通りスオウで冒険者として生計を立てていました、ですが今一つ気分が乗らない…いわゆる『物足りなさ』を感じていたのです。 野良の魔獣や薬品の材料を採取するなんてまるで子供の使いだ、けれどそれはそれで重要な事である事は十分に理解はしているつもりでした、けれどもどうにも張り合いがない…10年前まで(旧)魔王軍を相手にしていた時のあのヒリついた感覚は今は、もうない……そんな処にあの戦いを一緒に戦い抜いて来た仲間達が自分を訪ねてきた、ニルヴァーナにとってはこの事がどれだけ胸の
そして一通りの説明を聞いた後、ふとリリアは気付くのでした。
「(うん?)そう言えばどうしたよニル、あんたご自慢の装備は。」 「あんなものを
彼女達の間のみで通用する話題と言うものがある、それを
「なあーる、やっぱ旧の魔王軍だったか。 さっさと片付けてしまおうぜ相棒!」 「……。」 「どうしたニル?」 「所詮こやつらは魔王軍であったとしても残党に過ぎん、だがこの“統率”……どうにも気に入らん。」 「(…)だ、な。
リリアにニルヴァーナは多く魔王軍に当たってきていた事から
「グアハハハ!今の魔王ノ生温イ統治では我等武ニ生きて来タ者達は厄介な無用者!ならば我が武、示シテくれるわ!」
「やはり…
「ふン―――愚かナ…そレニ判っておラん様だな、【
2人と賊の大将とは面識があったと視え、そこで
「フッ―――ヤレヤレ…これだから、装備の善し悪しで
段々と調子を取り戻してきたリリア…でしたが、それに水を差すかのような言葉がニルヴァーナよりありました。 恐らくは、リリアが本気になれば、この
「『時間がない』…つて、そりゃどういう意味で?」 「私達の事をまるで
「戻りが遅いので様子を見に来てみれば…なるほど、旧魔王軍でしたか。 なれば早々に片付けられるものなのに、何をあなた達は手間取っているのですか?」
「(なあ…ニルさんや。)」 「(なんですかな?リリアさんや)」 「(おまい…気付いてたよね?ホホヅキの“形代”が飛び回っていた事―――なんで教えてくれなかったの?)」 「(そなたらは幼馴染みであろう?だから知っているかと思い敢えて…)」 「(『知らせなかった』―――と…知らせてくれよォ~!なんかあいつもう
折角、スオウの冒険者達に自分達の恰好良いところを見せようと思っていたのに、
ホホヅキも当初リリア達が『
しかし…これがホホヅキ自身が設定した時間となっても中々戻らない…これはもしかするとギルドが提供した情報以上の強敵と出くわしてしまって窮地に陥ってしまっているかもしれない―――そこでホホヅキは自分の
そして気付けば現場に―――しかも手にはあの武器が!
「『布都御魂剣』じゃん、アレ…」 「さて帰るか―――」 「ちょっと待ちなよニルさんや…」 「リリアさんやそこいると危ないぞ。」 「わーかってんよ…あいつの“剣の間合い”にいるってのは、だからあいつも剣閃放ってこんでしょーが、それよりもこの後どうするんだあ~?」 「『後は野となれ山となれ』で、良いのではないか。」 「それで済めば悩まなくてもいいんだよ!(私が)」 「それより…もう手遅れなんだが、一応言っておくとしよう―――ヤブ、降伏するなら今の内だぞ…と言った処で手遅れなんだがな。」
この時【神威】がその手に携えていたのは、彼女達が戦場にて華々しく活躍した当時に愛用していた武器(
「すげえな!姉さん達、それよりニルヴァーナもあの『暴君』を討った英雄…ってどうして言ってくれなかったんだよ。」 「それを自慢した処で誇れるものではない、ただ私は盟友の矜持に惚れこみその大業に手を貸したにすぎん、それに盟友の大業は私でなくとも事足りていた事だ、それがたまたま私だったと言うだけの話しだ…それに平穏な世の中に成ってしまえば私達の武など“毒”の様なものだ。 ここにいる2人は私の仲間だった者達だが、彼女達は故郷で腫れ物扱いを受けたとの事だ、それが故郷ではないこのスオウに身を置いている…と言う事を今一度考えてみてくれ。」 「そうか…そいつは知らなかった、悪かったな姉さん達。」 「なに、もう気にしてない…それより今の私達は身の置き所を模索している、もし差し支えなければスオウ《ここ》に落ち着いても構わないか。」 「ああ、姉さん達なら大歓迎だぜ、それに今回みたいな厄介な依頼があった時には―――」 「それはそれで構わんが、そうなるとそなたらの食い扶持が一つ減ることになるぞ。」 「お…おぉぅ…そりゃ、頂けない話しだ、な。」 「そこも心配するなって、何も
自分達以上の実力を持っている事が知れると早速頼ろうとする声も出てくるのでしたが、そこは上手くニルヴァーナが釘を差し安易に自分の仲間達を頼らないようにさせたのです。 とは言ってもリリアとホホヅキは今は身の置き所がない―――ニルヴァーナの処に厄介になっていると言うのも
「なあリリアよ、先程のそなたの
「(なんか…そら恐ろしい事をサラッと言って退けたが―――そなたは良かったのか?もしかすると良縁があったのでは…)」 「(まーーー実際ホホヅキはいい虫除けにはなってくれたよ、とまあ私がそう言った時点で察せられるもんだろうけれどな。)」
意外ではありましたがリリアは料理が得意だった―――とは言え、自分達が叛乱軍として一緒に行動をしていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます