第18話 秘匿としなければならない事実
ニルヴァーナの仲間であるリリアやホホヅキを一蹴させる程の武遍の持ち主だったレヴェッカとラスネール。 しかし彼女達以上の
「(くそ…っ、くそくそくそぉぉーーーっ!な、何だってんだい一体!)」 「(こ、こいつはどうしたって事だ?まるで手応えがねえ…ま、まるで―――そう、まるで“水”を相手しているみたいじゃねえか!)」
高位の
先程までは自分達がリリアやホホヅキに対してしていた事―――それが、
「おやおやおや―――もう仕舞いかい。 それにしても今まで好い様にしてくれたもんだよねえ、私が手の一つも出さないでいるのをいい事に、思いの丈この肉体を
「(げ)ま、まさかこいつら―――」 「ああ゛? こいつら―――?」
「あっ、いえ、この人達があなた様のお仲間だなんて知らなくて―――」 「おやおやおや、苦しい言い訳だねえ…お前達が彼女達をここまでにしたのは彼女達が現政権に弓引く者だと判ったからなんだろう?」 「ま―――まさか…あんた?!」
「おや、こいつはとんだ失態だ、バレちゃったよ…そう言う事さ、彼女達は私の
そう、『公爵』エルミナールも『叛乱軍』の一人…だけど、今の自分達ではどうする事も出来ない、いくら攻撃をしたところで(かすり)傷の一つも負わせないでいる化け物を相手にしていては。
それにエルミナールが吐露してしまった事実が“敢えて《わざと》”であると言う事も判りました。 だって……あんなにも
だとて、だからと言った処でその
「
ヘレナが敢えて『大公爵』一族の中でもエルミナールを最後にしたのは、彼女がここ最近で最も活動的だからでした。 そう『活動的』―――積極的に強者を自分の城に招き、余すことなく血肉にしてきた、それに一族の中でも最も抵抗してきた―――だからヘレナにしてみれば『一番のお気に入り』でした。
けれどそう―――そんなエルミナールですら、魔界一の『
* * * * * * * * * *
しかし―――ヘレナがまた新たなる“贄”を2つ有したところで、こちらの事態は変わるでもなく…
「(リリアにホホヅキ―――
ヘレナとニルヴァーナ達との付き合いは、そう長くはない―――とはしても取り分け短すぎるわけでもありませんでした。 けれど彼女達が参加していた場所が同じとくれば、互いの顔は見知り合った程度、関係性も希薄ではない程度……けれどしかし、この後のある出来事によって濃密以上に成ってしまうのです。
「(それにどうしよう…この2人の遺体―――)…ん?微かな生体反応が?」
既に死亡したと思われていた2人の遺体―――そこから微かな……そうまさに“虫の息”ほどの微かな反応が認められた。 そう、まだ2人は死んだわけではない?
そうであることが判るとヘレナは救命措置を行いました。
“奇しくも”―――とお思いでしょうが、ヘレナは自分の意思で他者の生死を見定めることが出来ていました。 だから、“半分”生命の
そしてそこで判ってきた事―――この2人の生命を
「(難しい判断です…確かに私に内包されている血を分け与えれば何とかなるのでしょうが、問題はそんな簡単な処じゃない―――)」
血の欠乏分はヘレナ自身が―――との考えはすぐに
こんな“毒”にしかなり得ない自分の血を、瀕死の仲間に分け与えるのが妥当なのだろうか……そうした迷えるヘレナの下に、駆け付けてきたのは。
「ヘレナ―――どうし…(うっ、ぷ…) これは、一体……?」 「(!)ニルヴァーナ良い処に!実はリリアにホホヅキが瀕死の重傷を。」
「なに?!それでこの凄惨さ《有り様》か……それで、2人とも助かるのか。」
ほんの少し前までヘレナはニルヴァーナと接触をしていました。 そんな折ヘレナがこの地での事態の急変を知り駆け付け―――ニルヴァーナもまた、“虫の知らせ”と言った処か…この場へと駆け付けた。 けれどニルヴァーナが駆けつけた時には事態は程なく収まっており、ヘレナからの説明を受けてリリアとホホヅキが九死に一生の境目にある事を知ったのです。
しかしながら、ニルヴァーナには人命救助の心得など一切ない、ここはただ普通に
「幸い危機は脱しそうです。 それにしても良かった……私の様に“
「(う)ん?私の……?私の――――なんだ?」
「ここはあなたの血を
「私……の、
意外に大真面目だった、
「ではこれよりあなたから少しばかりの血を頂きます―――そして今まで私が血肉としてきたヒト族の血を混ぜ合わせ……よし、どうやら凝固しませんね。 そしてこれから彼女達の血を少々―――よし、こちらも凝固しない…。 ではこれから2人に合成したニルヴァーナの血を投与します。」
別に、直接的に
けれどヘレナにとっては、リリアにホホヅキは自分の仲間―――仲間を自分が
その結果として―――…
* * * * * * * * * *
「(…う)うう ん―――…。 (…)ここは―――どこだ?天国…いや、私が逝く処は地獄か。 思えばさんざ悪さしてきたから―――な…それにしちゃ、ニル―――お前も死んじまったのか?」
「おお、リリア!目覚めたか、それにしても何を馬鹿な事を言っている、お前はまだ死んではおらんのだぞ!」
「え…?でも私、ラスネールって奴に左腕斬られて―――それからレヴェッカの奴に
「そんな事が……だが安心をしろ、ホホヅキの方も概ね問題はない。」 「な、なんだって?」
「ふわあ~…おはようございます。 それより皆さんどうされたんですか?」 「どうされた―――じゃないだろう!私達死んだんだぞ?なのに……生きている?」
「お2人とも死亡まではされていませんよ。 ただあと一歩処置の方が遅ければ……でしたが。」
「ヘレナ―――話して下さいますよね、死ぬはずだった私達が、今生きている理由を。」
どうにか生は繋いだ―――いや寧ろ繋げたとでも言うべきか、死に瀕した事で幾らかの記憶の錯綜、意識の混濁等は見受けられましたが日々の生活を送るに際しては支障はない―――ようにも見えました。 けれどそれは目に視える部分だけを評定した話し、まだ目に視えない部分は評定するわけにもいかなかったのです。
いや、そもそもが未来に於ける出来事など判ろうはずもなかった。 ただその時自分達が思ったのは、『未来に於いてそうだったらいいな』的な事なのです。
それはさておき―――リリアとホホヅキはどうして今自分達が生きているのか…その理由をヘレナから聞かされました。 すると案の定―――
「なんと?!私達の身体にはニルヴァーナの
「はい、あのまま放置をしていればいずれあなた達は死んでしまっていた事でしょう、けれどニルヴァーナの協力の下、あなた達は生き永らえることが出来た…それに異種の血を
「そう言う事か―――そいつはお礼を言わなけりゃならないんだろうな。」 「ですがリリア―――!」
「まあよく聞け、ホホヅキ。 私達は今回の事でヒトが余りにも脆い事を知ってしまった、恐らく今日と言う日が来なければ、いつか同じ運命が私達の身の上に舞い降りてきたんだろう―――そこを思えば今日体験しておいて損はなかったと思えるよ。」
「でも―――…」
「それに……な、気付いちゃいたんだ。 私とあんたは―――私とあんただけは、この仲間内に於いて一番の短命種だってことを。 ヒトってのは長くて100年生きればいい方だ、ニルの鬼人で700年、ノエルの獣人で800年、王女サンに至っては何百年何千年生きれるか判ったもんじゃない。 このまま私達が順当に生きたとしたって、私らとニル達とが一緒の時間を過ごせるのは余りにも短すぎるんだよ。」
「リリア―――」 「リリアさん―――」
「リリア…そうね、そうだったわね。 私達が生きていく時間は余りにも短い―――それが今回の件で……ごめんなさいニルヴァーナ、私の思慮のない言葉であなたを傷付けてしまって。」
「気にする事はない……それにリリアの懸念―――私も抱いていた処だった。 お前達も知っての様に私だけが他の
やはり最初は拒絶されそうだった、けれど意外にリリアは理解力があった―――いや、と言うよりリリアにはある懸念がありました。 それが自分達ヒト族は、もしかしたらこの先仲間達と一緒の時間を過ごしていけないのかもしれない―――この
それが今回の一件―――自分達は…ヒト族は、この
ただ、そう言った
但し―――今日この限りを
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その一方で、竜吉公主が囚われている場所を探っていたノエルとローリエは。
「どうやらこの集落に間違いありませんね。」 「もぉ~次から次へと…わたくしヘトヘトですわあ。」
「申し訳ございませんローリエ、私も
前回までいた町で掴んでいた情報を
ノエルは、これまでの失敗を反省はしましたが絶対に引き摺りはしませんでした。 過去の失敗を悔みうじうじしているよりも、もっと前向きに考え行動をする、ノエルが後年【
とは言え、入手した情報を精査する為、確かめなければならない―――すぐさまノエルは行動に移しましたが。
「(やはり…同じか―――しかし判ってきた事もある。 私が何者かが用意した情報に踊らされ、
「ねえ~~ノエルちゃあ~ン、何難しい顔して考え込んでいるんですのぉ~?ちっとはわたくしに構ってちょうだいよう~~。」(ムチュムチュ♡スリスリ♡♡)
「もぉう、鬱陶しいですね!だからあなたと一緒に行動するのはイヤだったんデ・ス・ヨ!(離れろォ~~)」
「どうやら…ようやく元に戻ったみたいですわね。」 「(え)ローリエ?」
「わたくしがあなたの事を
いつもは、自分の側に近寄るだけでウザったいと思われていたエルフの王女からの思ってもみなかった
* * * * * * * * * *
ローリエからの発破のお蔭もあって、幾分か頭を柔軟にしたノエルが辿り着いた
「何故私が敵の情報に踊らされ、後手を掴まされてきたのか判りました。 敵には私以上の情報を扱う事に長けた人物がいる―――『魔王軍総参謀』ベサリウス…恐らくこの人物が私と同等かそれ以上の腕前を持つ忍を雇っているか配下にしているのでしょう。 そして私はまんまと踊らされた―――ですがそれもこれまでです。 どうやら情報によるとベサリウスなる者は現在戦線が展開されているシャングリラ方面に赴いているとの話し…だとすれば―――」
「竜吉公主様を連れ回しているのだと?また何のために…もしかすると公主様が自分達の手の内にあると流布させておいて降伏の勧告を?」
「いえ―――それはないかと…」 「何故そう言えるの。」
「ならば、なぜ未だ以てシャングリラは失陥しないと?私を引っ掻き回す程の悪知恵の持ち主だ、その情報を小出しにさせて徐々に神仙の士気や戦力を削るのは判るにしても、私が掴んでいる情報では神仙には全くその傾向が現れていない…とするなら。」
「(……)故意に隠している―――?でもどうして…公主様が手の内にあると言う強いカードを使わない手は…」
「(…)これは、単なる私の楽観な推測なのですが、或いはもしかすると魔王軍中でも公主様の存在を知らないのでは?」 「そんな事が?」
「ない……とも言い切れません、彼のベサリウスと竜吉公主様との間になにがあるのか…それを知り得るのは当人同士だけなのですからね。」
「(!!)まさかこ―――」「そう言うのは今はいいですから、もう少し真面目に考えましょう。」
これまでの失敗を
そう―――竜吉公主は『魔王軍に』ではなく『ベサリウスの手によって』囚えられていた、以降は彼の考えの下、味方である魔王軍にも内緒で公主を匿い、連れていたのです。
ただその事を彼女達は知っているわけではない、単なる憶測…推測の域を出ないのです。 だとした処でノエルとしてみれば確度の高い情報が欲しい…彼女が赴いたのは現在戦場と化しているシャングリラ近郊の村―――
「(
果たして、そのシャングリラ近郊の村に竜吉公主は監禁されていました。 それにしても公主ほどの人物が自身の拠り所となる場所の近くまで来ているというのに判らないでいたとは。 けれどそれはそれで理屈に合っていたのです。 そう、ベサリウス主導の下に竜吉公主が匿われているのは秘匿中の秘、例えそれが味方であるはずの魔王軍に知られてはいけないのです。
それにここがベサリウスの悩みどころの一つでした、そう…味方であるはずの魔王軍に知られるのはまずい―――とはしながらも、ならばこれからはどうすればいいのか…竜吉公主が自分の手元に居てくれる方が安全でいい―――しかし公主は自身が動いているのは現政権に反旗を翻している者達の為に援助を惜しまずにいたのです。 それに自分の手元…近くに居てもらえさえすれば、あとはどうとでも出来る……幸い今回は援軍の要請を受けたこともあり、公主の拠り所であるシャングリラの近くまで来ている、ならばここは―――
「マキ―――居るか。」 「こちらにぃ~」
「お前は以前に女媧殿と
「よし…ならばこれが機会だ、もう一度女媧殿と
「それは、本当ですか?」
「(え)マキ……?」 「それは、本当ですか―――と聞いたのです。 なるほど…道理で見つからない訳ですね、まさかあなたが公主様を
「お前自身の…血肉?!まさかお前は―――」 「そう、私は
「お前の処にも忍が…ではオレの知らない処で情報戦があってたって訳か。」 「へ、え―――これはうっかり、私はてっきりあなたが私達の忍の事を知っていて、その為の情報防壁を築いていたモノと…」
「ヘッ―――そいつはお互い様って奴さ、こちらもあの方の
「ふむ、そう言う事か―――もういい言わなくても判った。 どうやら私達はあなたともっと早くに
「生憎だけど―――この不肖の身を『総参謀』にまで取り立ててくれたルベリウスの旦那への義理は果たされていないもんでね。 ただ……」 「ただ?」
「これから、オレが話す事はオレの独り言……って事にしちゃくれませんかね―――ええと…」 「ヘレナ―――で、いい。」
何を思いついたものか、ベサリウスは配下であるマキを呼びつけると、自身が匿っている公主の身柄を秘密裡に引き渡す用意があるから至急その事を神仙族の長である女媧に知らせてほしい…としたのです。 ですが、その真実に触れると途端に自分の配下の態度が一変した、普段でも軽い言葉を連発し深く考えているようでもない発言が目立つ―――そんな配下が、竜吉公主の存在性を知るや否やこちらでも掴んでいない情報を喋り出した。 これは『しまった』―――とはしながらも、これもまた何かの機会と思い、ヘレナは自分達への勧誘を…そしてベサリウスはある事実を話したのです。
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