第17話 戦場に、散りし 花
〖聖霊〗は神仙族の本拠シャングリラ―――にて展開される戦火…その中に叛乱軍の中心人物の意向を受けた者が
それに、叛乱軍―――正規の軍隊ではないだけにその規律は緩く、集団での展開はしていませんでした。 そう―――得意とするのは
しかし―――“過”ぎたる自“信”は、時として
* * * * * * * * * *
ニルヴァーナやリリア、ホホヅキもそうした
見渡す限りが瓦礫の山―――且つては『桃源郷』とさえ言われた
とは言え希望を捨てる謂れはない、彼女達の“希望”―――それは女媧の存命、ただそれだけでした。 だから手分けをして探しました、ニルヴァーナは戦場の西側に、リリアとホホヅキは南側に―――しかしその南方面でさある難敵と遭遇してしまったのです。
「はあ~ン―――珍しい…まさかこんな処でお前と出くわすなんてね。」
「お前は『レベッカ』!こんな時に一番遭いたくないヤツと遭うなんてね。」
リリアとホホヅキがシャングリラにて女媧の行方を探し出そうとしている時、遭遇してしまった“因縁”の相手―――その名を『レヴェッカ』、“
瞬間―――ピリつく現場…しかもこの時ホホヅキはリリアと行動を共にしていたのでこの現場に居合わせたのです。
「リリア―――ここは助太刀を…」
「いや、ここは離れて―――ホホヅキ。」 「どうして―――…」
「言っちゃなんだけど、ホホヅキが加勢してくれても状況は変わらない…寧ろ私達が不利になる―――そう言ってるの。」 「けれど、私もあなたの足手まといにならぬよう修錬を積んだのですよ!?」
「だとしても―――!いい加減聞き分けてよ! ホホヅキを護りながらじゃアイツと対等以上に戦えない!」
暗に、自分が足手まといである事を仄めかされた―――自分としてはそのつもりでは、そうならないように修錬に励んだものを…それを、一瞬の下に断ち切られてしまった。
ホホヅキは、聞き分けの悪い方ではありませんでしたが、
「(言っている事は判る―――言っている事は……それだけまだ私が未熟だと言う事、それに相対している二人を見てて判ります、私が加勢をしたところで私のあの人の枷にしかならない事を…。 ですが―――!)」
「よおーーーなんか面白い事になってんなあ?隊長サンよ。」
「お前か―――『ラスネール』…アタイが愉しもうって時に
「カッーーーカカカ!言ってくれるじゃねえか…しかしよォ、当初この遠征は気が乗らなかったんだが…なんだ、日頃の行いを善くしてりゃおこぼれにも預かれる―――ってなもんだなあ?レヴェッカ…」
「(今―――あいつは何だって言った?『ラスネール』…『ラスネール』だ、と?傭兵稼業で常に上位にいるってヤツが、なぜ魔王軍に?!)」
リリアはその男―――『ラスネール』についてもよく知っていました。 ニルヴァーナと知り合い彼女と行動を共にするより以前、リリアは『傭兵団の頭領』でした、だから同業者として知られるラスネールの事をよく知っていたのです。 獰猛にして残忍、報酬の有り様では親や配偶者、子供に友人ですら笑顔で殺せる悪名高き傭兵―――リリアは腕の達つ傭兵達を集めて傭兵団を結成していましたが、ラスネールは徒党を組まない―――まあそれは協調性を善しとはしないその性分の所為もありましたが、単独でやっていける腕だけは確かなもの…そこを見込んでリリアもラスネールを勧誘した事がありましたが。
『(ダメだこいつは…確かに強い―――傭兵としての腕は確かなもんだが、こいつを入れた処で私達の利になる処はありゃしない。 惜しい気もするが断念するしかねえな……)』
人を人とも思わない―――その態度は一度会って見てすぐに判りました。 確かに噂に聞くだけの腕は持ち合わせている―――とはするものの、仲間と連携し合わなければ仕事の一つも出来はしない…そう感じたリリアはラスネールを採用しなかった訳なのですが、それが何故か『魔王軍』に?
『魔王軍』は、これまでも説明してきた通り、魔界の正規軍―――魔王直属の軍隊であるだけに、規律が厳しい事で有名、軍令に背いて単独行動に
「それより―――これでようやく数の上では対等…2vs2だね。」
「ちょ―――ちょっと待ってくれ、こいつは関係ない、お前達2人の相手は私がしてやるからこいつだけは見逃してくれ!」
「はあ~?なに勘違いしてんだ―――それがアタイにモノを頼む時の態度か?」
「い…いや―――悪かった、見逃して…下さい。」
「ふう~ン―――さあてどうするね?ラスネール。」 「ふふふん―――そうさなあ…」
自分がその
「まあ…順当に考えて、そいつはねえな。」
この一言で、リリアとホホヅキの命運は
「なあーーー『頭領』さんよ…あんたがワシを勧誘してくれたのは覚えてるぜえ? だ、が―――運命とやらは残酷だなあ?今や巡りに廻って『頭領』さんは叛乱軍の一員、そしてワシは魔王軍の一員だ。 判らんもんだなあ全く…何がどう転ぶか―――」
「おい、待て―――」 「あ゛?なんだレヴェッカ。」
「そいつはアタイの獲物だ、まさか横取りしようってんじゃないだろねえ。」 「な゛っ―――!チェッ…ワシの相手はこのひょろいのか、敵わんねえ隊長サンには。 まあ…精々遊んでやるか。」
今ので、どことなく判って来た―――この2人の関係。 それに何故ラスネールが魔王軍にいるのかも判ってきました。
経緯の如何はどうあれ、レヴェッカとラスネールは一度対決した事がある、その結果としてレヴェッカがラスネールを下し自分が所属している魔王軍に入る様に勧誘したのではないか。 それにラスネールの方でも自分の実力の程が判っているから、そんな自分を下す者に従わない道理はない…これがリリアの読みでした。
しかし例えそうだとしても自分達の危機は刻一刻と迫ってきている。 果たしてこのまま…自分は幼馴染を無事に護り切る事が出来るのだろうか―――…
* * * * * * * * * *
一方その頃、奇しくもヘレナもこの戦場に到着していました。 そしてこの度、自分の血肉に取り込んだヒト族の忍の達人―――マキを使い、混沌と化そうとしているこの戦場の情報を掻き集めていたのです。
「(さて、上手く女媧との
一番の目的である女媧の生存の確認と
「(あれはニルヴァーナ、となると後の2人もこの戦場に…)」
「(む…)何用だ―――お前は…?」 「お久しぶりです【緋鮮の
「ヘレナ―――?それにしては私の知っている容姿ではないが。」 「今は訳あってこの者に
「ああ、そう言う事だ。 我が盟友から女媧殿の安否と出来ればシャングリラよりの脱出を…な。」 「ふむ、そう言う事でしたか。 実は私も事態の急変を知り独自の見解で女媧殿の身の保全を―――と。 それにご安心を、先頃女媧殿と接触出来まして生存の確認は取れました。」
「おおそれは僥倖。 して女媧殿は。」 「あの方自身は飽くまでここに居残る決意を表明しましたが、あの方自身でも自らの生死を重要と捉えています。 ですから万が一の時には―――」
「ふむ、委細承知した。 それでヘレナ、実はリリアとホホヅキもこの戦場へと来ていてな。 その朗報彼の2人にも報せてはやってもらえないだろうか。」
「判りました―――それと気がかりなのですが、この戦場で余りに弱弱しくなった気配が2つ…それと近くに強く大きな気配が2つ―――まさかとは思いますが急遽その地点に駆け付けたいと思います。」
この戦場で知り合いの顔を見た、それこそが自分の“
それにどうして彼女がこの戦場にいるか、その理由もニルヴァーナの口から語られた事で奇しくも自分達は同じ目的で行動をしている事を知り、自身が得た『女媧存命』の情報をリリアやホホヅキに報せようとしたのです。
けれどヘレナには懸念される事項がありました。 ヘレナは
そしてこの地点からそう遠くない場所で、どことなく見知った気配が弱く小さくなりつつある…おまけにその側には強く大きな気配も、その事に憂慮しつつその地点に駆け付けてみれば―――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
恐らくは―――リリアとレヴェッカとの対決だったらどうにか凌げていた事だろう、けれどそこには不要な存在…ホホヅキが。 とは言え彼女も強い、普通の相手ならばリリアも手助けするまでもなかった事でしょう。 けれど今回ばかりは相手が悪かった、レヴェッカはリリアのライバル―――彼女達の闘争だけで言えば勝敗は早々つくものではありませんでした。 だからこそ不要―――この場に決していてはならない…ホホヅキがいると言う事で、リリアは常にホホヅキの事を気に掛けながら闘わなくてはならない。 ただでさえ不利―――苦戦は否めないのに、そこにまた想定外が登場してしまう。
彼の者の名はラスネール…非情にして残酷な者として傭兵界隈では余りにも
善く
リリアがレヴェッカを相手している時にも足を引っ掻けたりだとか、不用意な手を出したりだとか、兎角
そんな相方を見てレヴェッカは何を思うものか…彼女は特段としてラスネールの事を批難糾合するものでもなかった、例え自身のライバルなる者が好い様にされようとも中止させるでもなく、ラスネールからの妨害も受け入れているようだった……?
ただこの事はホホヅキにしてみれば面白かろうはずもなく、自分か愛する幼馴染みが好い様に
「おのれ…1vs2とは卑怯なり!」 「(はッ!)何をするんだ―――止めろ、ホホヅキ!」
「手を…出しちまったみたいだな。 おい、ラスネールここからが本番だ。」 「その言葉、待ってたぜ。 そうだよなあ…自分の相棒がワシらに好い様にされて―――黙っておけるはずもねえよなあ。」
自分の“怒り《感情》”に任せ―――つい…つい、手が出てしまった。 その途端
けれど今、ホホヅキの手には―――非戦闘員にはあるまじき
これで、自分達の大義名分は成った―――武器を帯びているのは最早非戦闘員ではない。 故にこれからが本番―――愉しい殺戮ショーの始まり…
相手の仕掛けていた罠に
「あっ―――!!?」
まずは目の前の障害を排除した上でホホヅキの救援に駆けつける―――戦術としてはよく出来た方でしたが今一つ足らなかった…思いもよらない激痛が迸ると共に“ぼとり”と落ちるリリアの左腕―――正面のレヴェッカを気にするあまりに背後のラスネールの事を忘れていたか、リリアの左腕を斬り落としたのはラスネールでした。
「ふん…卑怯―――だなんて野暮な事は言うなよ、『頭領』さんよ。 ここは戦場だ、戦争の現場なんだ、戦争てのはな殺し合いをする場なんだよ! それをまさか…決闘だのと、そんなおキレイな事を考えてたって事を言うなよ?」
忘れていた―――ここは戦場…こここそが戦場。 戦争の現場―――慈悲を掛ける謂れも、情けを掛ける謂れもない。 それをなぜライバルとの決闘だなんて思い違いをしてしまったのか…流血の余りに気が遠くなり始めたリリアの耳に、ホホヅキの悲痛な叫びが木霊する―――
「(すまない…ホホヅキ―――あんたを護れなくて……)」
「リリアーーーーッッ!おのれえ~~~リリアの仇!」
意識が遠のく中で、それでもはっきりと捉えていた―――捉えてしまっていた。 自分よりも可憐な一輪の花が散り逝く
ホホヅキは元を
しかしそれでも“蛙の子は蛙”―――武家として育てられたリリアとは違ってその素地はない。 今も殺されてしまったリリアの為を思い仇討ちを決行するものの、敢え無く返り討ちに。
「中々に面白い余興だったがどこか物足りねえなあ。」 「まあそう言うな、アタイとしちゃ因縁の相手が潰れたことに感謝だよ。」
二人の死体を前に、勝者は誇る―――
そう、今この場には
「おやおやおや、どこか美味しそうな臭いがすると思って釣られてきてみりゃ、こいつは大した御馳走が用意されている様じゃないか。」
「な、なんだお前―――!」 「血…?血の臭いに釣られてきただと? そうかお前は
大量の、血の生臭さに
「あ…あんた、『公爵』のエルミナール様―――?」 「な…なに?あの魔貴族である『大公爵』の一族の―――」
「おやおや…私も随分と有名になったもんだ。 数百年来自分の城に籠りっきりだった私の顔を―――なぜ
「こちとら、魔王軍に入る以前あちこちと武者修行の旅に出てたもんでね、それであんたんとこにもお伺いした事もあったはずなんだけど。」
「知らないねえ~?と言うより、記憶に残らなかったんだろうさ、
「言ってくれるなあ…この言葉で完全に傷付いちまったぜ、アタイの誇り《プライド》がよ!」
* * * * * * * * * *
『公爵』エルミナールは元々
それにエルミナールは自身の“価値”と言うものをよく知っていました。 並の牡なら…男なら、一度は抱いてみたいと思えさせる程の肉欲的な肉体―――それを
けれど今は……エルミナールはこの世の存在ではない―――この場に存在しているエルミナールも、所詮はある存在の別の姿…
ある時節、自分の噂を聞き、自分の城を訪れた者を受け入れました―――またしても、自分の肉体を好き放題にしたい愚か者が訪れてきた…当初エルミナールはそう思っていました。 思っていましたが…自分の目の前に現れたのは、自分と同じ―――
「(『
血の吸えない不良品を棄ててきた事を思い出した―――思い出して、しまった。
「まさかお前!あの時の!」
「こんばんは、おはようございます、或いはこんにちは。 それとも『お久しぶり』と申し上げましょうか―――『公爵』エルミナール。 それにしても、私如きのゴミめの事を覚えて下さっていたとは光栄の至り…と、取り敢えずは言っておきましょう。」
「な……なぜお前が―――?生きて…」
「その疑問は、至極当然でしょう。 本来であれば、血を吸えない“不良品”である私は、
そう…“誰”かが手を貸した―――在るべき時に“死”ななければならなかった存在を“生”かすべく。
しかし今はそうした詮索をしている場合ではない、どう言った経緯で生き延びているにしろ自分達はこの者を見棄てたのです。 その見棄てられた存在が今、自分の目の前にいる―――引き篭もりの自分の城に他人がいると言う事の意味、いわば自分が蒔いて来た種の事をエルミナールはよく噛み締めていました。 それに彼女には、これまでにも武の達人たちを数えきれないくらい屈服させてきてその都度血肉にしてきた―――その自負がありました……が。
「(な…なんだこいつ!今まで私が血肉としてきた奴らが通用しない―――?)」
「この程度…でしたか、正直拍子抜けです。 この私を不要と切り捨ててきたあなた方が、ここまで弱い……ああいえ、別に気にする事はありませんよ、ただ私が強くなりすぎただけですから。」
「(このお~ッ!私達を弱いだと!言ってくれる……)ちょっと待ちなさいよ―――あなた今、なんと? 『あなた“達”』……?『あなた“達”』……って事はまさか!?」
「あら、お気付きあそばされたとは、中々に賢いようです。 ええ―――もう既に『大公爵』エルムドアを筆頭とする、『侯爵』『伯爵』『子爵』『男爵』は、私の一部です。」
「(バカな…有り得ない!有り得ていいはずもない!だって私達『大公爵』一族は、あの【
「『何故そんな事が…』と、お思いでしょうが、それこそが私が今まで生き延びているという理由―――私は或る方の血を受け入れる事で
「(“
「これから、私の“一部”となるあなたに言って聞かせてあげる程のことではございませんが…まあいいでしょう。 私の“
『聞いた事がある』―――そう思考した刹那、エルミナールの意識に存在は混濁し、この世の存在ではなくなってしまいました。 そう、その時を限りにヘレナはエルミナールの容姿や口調、身振り手振りを借り《マネ》ていたのです。
ただ、そううしたところで変わり映えはしない、今ヘレナの目の前にはお
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