第4話 新たなる仲間

“ある個人”からの依頼を完遂させ、その報告を―――とニルヴァーナが数日クランハウスから離れた時のこと。 すっかりニルヴァーナのクランの一員となったノエルは、自身の忍具の手入れに余念がありませんでした。

{*尚、エルフの王女様であるローリエも、『王女としての公務自分のお仕事』の為、一時帰国をしている。}


そうした中、クラン内ではある論争が。


「あいつも……武器立派なんだがなあ~。」 「(……)何が言いたいんですか。」

「いやあ~あのさ、この前のあいつの防具見たかよ。」 「『なかった』ですねえ、そう言えば。 あなたですら『肩当て』「肘当て』『ガントレット』は装備しているのに。」

「だろぉ~?そんなもんだからあいつが来てた服、大きく破れちまってさ、それを修繕して着てるもんだから継ぎ接ぎ《つぎはぎ》が目立って仕様がない。」 「(……)まあーーー確かに、曲がりなりにも私達の上に立つ立場ですからね、 しかる場に出る時には少しは身綺麗にしてもらわないと。」

「おぉ、初めて意見が合うな!」 「だあーかあーらあーと言ってーーー頭を撫でるのは許可しませんよッ!」(シャーッ!)

「ちえ~~いいじゃんかよ、ちょっとくらい。 あのエルフの王女サンには好き勝手させてるじゃないかぁ。」 「あの人はですね、気配を感じさせずにやって来るから始末に負えないんですよ。 それよりどおーしてあなた達2人は私の身体を触りまくるんですか、欲求が不満してるんですか?イロイロ溜っているんですか??訴えますよ???」


それは、ニルヴァーナの身形みなりに関する話題から始まりました。

とは言え、そう言った処で彼女は鬼人オーガ、武のみを頼りに生きる種属。 ゆえに、身形みなり以前の話しでもあったのです。


そうしている内に―――…


「おっ、そう言やあいつ、を置いて行ったのな。」 「ああ、『黄金の剣』ですか……って、ちょっとあなたあ?」

「盗りゃしねえーよ、ただどんなモノかな……ってな。」


いつもは腰に下げ、携えている頼りになる相棒黄金の剣を置いて出掛けて行った。 それを見つけたリリアが手を伸ばすと、仲間の所有物を盗む―――と言う事に感心をしなかったノエルが注意をしたのですが、何もリリアがニルヴァーナの剣に手を伸ばしたのは盗む事が目的ではなかったようで。

そう、つまりリリアは、この黄金の剣の武器としての能力をたかった―――だけ。


「ほお~~~まさにこいつは……逸品モノ最大業物だな。 以前は換金目的でしか見ていなかったが、こいつは武器としても中々にない―――」

「(……)どれ、私にもせて下さい。」 「はあーン、そう言うお前も……」(キシシシ…)

「バカを言うのも休み休み言って下さい。 何故私が“主君”と見定めた方のモノを盗らなければ……」


リリアにノエルは、『傭兵団』や『盗賊団』と立場こそ違えど、共通していた目的―――他人の財産を奪い、それを金銭にえる…そういう事をする為にはただ闇雲に盗ってくればいいと言う訳ではない―――中には、外見みかけは豪華そうに見えても実際に売り払った時に愚にも付かない値をつけられた事なんてザラにあったのです。

そうした中でノエルが所有していたスキル≪鑑定≫は、モノの値踏みと言うものをある程度明確に捉える事が出来ていたのです。

しかもは、その“モノ”の価値もさながらにして、“モノ”の本質というものも鑑定みえる……


「これは……素晴らしい! この黄金の剣は銘を『デュランダル』と言うようですが―――攻撃力、耐久力もさながらにして『不壊ふえ』『不腐』『不朽』のアライメントまで付与ついていますよ??!」


まさしくその剣こそは、『聖剣』と讃えられても不思議ではありませんでした。

だからこそ、また冒頭の論争になって来る―――なぜニルヴァーナは防具にあまり気を使わないのか……と。 やはり種属の特性がそうさせているからなのか―――いや、それともこの剣をしつらえてもらった時に自分の手持ちの財産はもとより、まさか……の、借金を??

などなど、想像は膨らむばかりだったようです。


そんな時に―――出かけていたホホヅキが……


「ただいま戻りました。」 「おう、お帰……り?」 「ホホヅキ殿?その者は一体―――」


彼女達のクランハウスまで戻って来た、までは良かったのでしたが、戻ってきた時には“1人”増えていたのです。

その事をいぶかしむリリアとノエル―――するとホホヅキからは。


「こちらの方は、その歌声を披露する為に魔界各地を巡っているという、吟遊詩人の……」 「『ミカ』だよ、よろしくね♪」


その旋律しらべを―――その歌詞ことばを―――その歌声こえもって、戦場では仲間の扶助手たすけてとなり、敵を挫くとされている『吟遊詩人バード』。 それに彼ら彼女達は戦場での働きとは別に各地を巡りその勲詞いさおしの語り部となり、戦場には赴かない民衆に拡め、その勇気を分け与える役目を担っていたのです。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「(―――あら? これは……近頃あった私達の??)」


ホホヅキがこのマナカクリムで丁度小耳に挟んだのが、この『ミカ』と呼ばれる吟遊詩人バードうたっていたことばでした。

しかしその内容は―――この度“ある個人”から依頼された事のあるモノだった……


「(あの場所に―――私達以外の何者もいなかったはず……なのに)」


そう疑問に思い、一曲歌い切ってからその等価を貰い、聴客がいなくなったところを見計らって―――


「あの、少しよろしいでしょうか。」 「う~~ん?何かボクに用かい?」

「この場所ではなんですので―――こちらに…」


何故、自分達の為したことを知っているのか―――その理由を聞く為にと、少し人通りの少ない裏路地に連れ込むと。


「こぉ~んな寂しい場所にボクを連れ込んだりして、なぁ~にをするつもりだい?は、はあ~ん、さてはボクの熱烈なフアンだね?最近多いんダヨネ~~ボクの歌がいくら魅力的だからってさあ~~~」

「ふざけるなっ―――なぜお前は、私達の“活動したこと”を知っている! 私が知りたいのはそこだけだ!」


『あまり知られていない』―――どころの話しではなかった。

の依頼は受けてきた本人ですら依頼主の身元を明らかにしたくない程の秘匿性の高かったモノ。 それが数日と経たずに『種属の坩堝るつぼ』とまで呼ばれているこのマナカクリムで、多くの聴衆の耳に残される事態にまでなってしまうとは。


だからこそ、問うた―――のに…


「(フフフフ…これは『大当たりビ・ン・ゴ』てヤツかな。 ボクとしては余り望まないかたちだったけれど、何しろ時間が残されていない……なにより期日の二ヶ月が来ようとしているのだから―――ね。)」


如何いかなるかたちにしろ、こうしたかたちでの接触をしてくる者の事を吟遊詩人は望んでいました。

しかし、とは言えあまり望まないかたち―――知らさなければ、知りだにしない活躍ぶりを、あたかも総てその眼に収めさせ、旋律しらべに乗せて一つの“物”を“語”る。 こうでもしないと、期日の二ヶ月には間に合わないだろうと思ったから。


人通りの少ない裏路地で、鬼気をみなぎらせた武功巫女は一人の吟遊詩人に差し向う。 既に利き手は刀の柄にかかっており、返答の如何によっては即座に斬り捨てる備えだった―――のに。


「なぁ~にをそんなにカリカリしているんだぁ~い? 君、随分と情緒不安定だよねえ?」 「ふざける――――な……ッ!!?」

「情緒不安定―――だから、ほんの少し抑えさせてもらうよ。」


なんのことはない単なる『歌』だと思っていた―――のに、どうしたことか……徐々に戦意が、殺意が削がれ、萎えて行くのが判るかのようだった。

鬼気をみなぎらせる武功巫女を前に、吟遊詩人がかなで歌ったモノこそは、“鎮静”を促すものでした。 それによって柄にかかっていた手は自然と緩み、そして離れて行った―――そこを見計らったように吟遊詩人は…


「フフフッ、気を鎮静しずめてくれてなによりだよ。 ところで、ボクの方からもお願いがあるんだ。 是非とも君のお仲間に―――会わせてくれないものかな。」

「は…………い。」


「(不思議な感じがした―――その最初には怪しいとしか感じなかったものなのに、あの歌声に包まれてからと言うものは、なぜかこの吟遊詩人の言う通りにしよう……と思ったのだ。)」


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そして現在―――


「はあ~~~ん、吟遊詩人ねえ……」 「それで―――その吟遊詩人のミカが、私達に何用なのですか。」

「ん~~~まあ、しょぱなから受け入れられるものだとは思っちゃいなかったけどさあ~~。 まあ……ほら、ボクはね、この通り自前で『詞』や『曲』を作り、この歌声を披露させて稼ぎを出す―――そう言った職業ジョブだからねえ。」

「だから―――何だってんだよ。」 「押し売りなら余所へ行ってやって下さい。」 「違うんだってばあ~~要するに、“ネタ”が欲しいんだよ。」

「“ネタ”ァ?おまっ……ネタ作りの為に私らを利用しようってか??」 「そうじゃなくてだねえ~~まあ……一部はそうでもあるんだけどーーーまあ落ち着き給えよ。 それにどうやら見た処、君達は『クラン』というモノを立ち上げてまだ間もない……と言う事はだよ?『先立つモノ』―――つまり、『金銭』『資産』というモノはそう持ってはいない―――違うかい?」

「ヨケーなお世話ですよ。 それに万が一“いざ”となったら私が『戻れ』ばいいだけの話しですからね。」 「ふざけんなよ、ノエル……お前だけにイイ恰好なんざさせやしないぜ。」


「(ふうん―――こいつは興味深いおもしろい。 今、眷属の子達この子達は自分の“慾”の為にではなく、自分達の仲間の為……また敢えてその手を汚そうとしている。 けれど―――はボクが望んではいないのだよ。)」


自分の仲間達の為ならば、敢えての汚名を被るのをいとわないとした『“元”傭兵団頭領』に『“元”盗賊団首魁』。 しかしを何より望んでいないのは、この吟遊詩人であり―――また、今はまだその実態を明かせない彼女達の『資金提供者パトロン』だったのです。


それに……?


「まあまあご両人―――その心意気は判らないじゃないけどサ。 このボクが君達の活躍ぶりをネタに、『ことば』にし、『旋律しらべ』をつけ、それを魔界の各地で歌えば―――立ち処に君達の名声は高まる処を知らず、君達への依頼も引く手数多。 このボクは詩や曲の著作権で『印税』と言うのを得て、双方『winwin』の関係―――も~~~苦労なんかしなくたってその懐にガッポガッポ、人生薔薇色ウハウハ~~~って処になるのダヨ~~♪」

「ソウ、ナン、デスカ?? あの……因みに『ガッポガッポ』ってどのくらい……」

「う~~~ん、一口にどう―――とまでは言えないけれど……まあ相場としては『5~60』位が妥当じゃないかなぁ。」

「は?! なんだ―――たったそんだけかよ……期待させるだけ期待させやがって。」

「あ、言っとくの忘れたけど、単位は『万(リブル)』で、『一日』での話しだからね?」

「ハ~~~~ナンデスカ!ソ・レ!!」 「おおお、おい、落ち着けノエル……お前興奮し過ぎでカタコトなって――――て、それマヂですか!!」

「いや、『マヂ?』って聞かれても~~~『最低ライン』でこれだからねえ?」

「リ―――リリア…?」(ゴク…リ) 「お―――おう、ノエル……」(コ・ク…リ)


『奥の手』―――吟遊詩人は自身の才能にいち早く気付いており、それを武器に『大手』とスポンサー契約を結び、その『詩』に『曲』に『歌』に価値を見い出していたのです。

しかもその付加価値のなんとも『破格』な事に、当初はいぶかしんでいた2人も……


         * * * * * * * * * * *


そんな様子を、出先から戻って来たこのクランのリーダーは……


「へへへ…先生~~ご用向きとあらば、このリリアめが何でもして差し上げますよ~~」(ニコヤカア~) 「あっ、先生~~肩凝っていますようですねーーーこのノエルめがお揉みいたしましょ~~」(手モミ手モミ)


「(……)なにをやっとるのだ、こやつらは―――」 「まあ……この吟遊詩人が金づると判った途端―――の、ようですよ。」


『ニコやか笑顔営業スマイル』に『手モミ』……しかもマッサージなどでの『ご機嫌伺い』をしている『“元”傭兵団頭領リリア』に『“元”盗賊団首魁ノエル』。 まあこれはこれで面白い“画”にはなっている様なのですが―――実はこの2人……ミカとニルヴァーナには浅からぬ因縁というものがあり…


「まあそれはそれとして―――久方ぶりでございますかな、ミカ殿。」


「「は?」」


「えっ……ニル?お前……こちらの先生の事をご存知なんで?」 「ご存知も何も―――ミカ殿のお蔭で、以前そなた達が付け狙っていたこの黄金の剣が存在している様なものだからな。」 「えっ?それでは私達が今、ここに集まったと言うのも……」


そう……一本の剣―――それも今の彼女達の縁ともなった黄金の剣。

そのえにしもとともなった発祥元が、この吟遊詩人だった―――と言うわけなのです。


「やあ―――その様子だと“あの人”に気に入れられて、よろしくやってもらっている様だね。」 「その節は……私も半信半疑ではありましたが、それも今を思うと恥ずかしい限りです。」

「いやあ~なになに、一見いちげんで何かを薦めて来る者を怪しまない方がどうかしているよ。 それに、ボクとしてもひと安堵したところさ。」 「ごゆっくりされて行かれないのですか。」

「ああ……していきたいのはヤマヤマなんだけどね。 戻らなきゃならない期日が差し迫っている。」 「そうでしたか……ですが、また会えるのでしょう?」

「勿論だとも―――戻って来て見せるさ。 頭の難い連中を説き伏せて……ね。」


その吟遊詩人は、このクランのリーダーがどこから帰還したかを判っているかのようでした。

一つの査定―――と言うべき、依頼をこなしてもらう事でこの先その人物が望むべきものを得る……けれども吟遊詩人には限られた期限・期日というものがありました。

その期限・期日を前に、最低限しておかなくてはならない事―――自分が薦めたかの“噂”をもとにして、集まり来た有志達。

その出自は関係ない―――『それまで』のものは『これから』の事で上塗りしてしまえばいい……そして鬼人オーガが戻ったのを機に語られた事がありました。

それが、鬼人オーガが常に携えたる『黄金の剣』―――その由来なのでした。



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