2節 運命の一片
ノエルは―――非情の忍……その非情の忍が、“非情”では無くなってしまった―――その語り。
その時と成るまで『盗賊団の首魁』に収まっていたノエルは、今宵もまた自分達の獲物になりそうな者を見定める為、『種属の坩堝』と呼ばれているマナカクリムまで足を運んでいました。
何しろこの街には様々な種属や物、更には情報も多く飛び交っていましたから盗賊達にとってはまさに垂涎の的でもあったのです。
そんな中にノエルは、この街に住む獣人の妙齢の娘の格好をして潜んでいたのです。
「(フッフッフ、いるわいるわ……今宵もまた私達の餌食になってくれようとしている者達が。
おやあ~?あそこに見えるのは、ちょっと勘違いした富豪のお坊ちゃんじゃないですか。 え~~っと、なになに……ほうほう『北の街道を東廻りでリントブルームに行きたい』と……ではそこに副長の集団を―――
それとおやおや、今度は貴族のご令嬢ですか。 どれどれ―――ふむ、顔つきや身体つきも申し分なし、さぞやいい『性奴』になってくれることでしょう。 どうやら『東の街道からマジェスティック』へ向かうみたいですが、ならばその馬車を一番隊隊長の集団に襲わせるとしましょうか。
それとこちらは~~~?)」
盗賊としての仕事をする際、決まってノエルがその品定めを行っていました。
それもまた順当と言った処のようで、盗賊稼業に手を染めて早30年もの年月が過ぎ、ノエルには新たに『鑑定眼』のスキルが獲得されました。 そしてそのスキルによって『モノの“良し”“悪し”』の判別がついていたのです。
そうした品定めをしていく中で、その日ノエルが品定めした獲物の数は“3”。
そして襲わせる段取りを決める為に自分達の
“ちらり”と眼の端に映った、目を惹く『宝』―――……
「(アレは!!?鞘も柄も黄金造りの一級品!! しかもあの眩き輝きは、紛れもなくの『純金』! あれほどの剣を見たのは初めてだ……それにもしアレを奪い取って換金したなら一体どれだけの富や財が舞い込んでくるのだろう……。
もしかすると団の全員に当分配して、団を解散させてもそれぞれが後生を遊んで暮らせるだけの金銭は確保できる……! ……いや、それよりも今までひもじい思いをさせている私の幼い妹や弟達にも、何不自由ない暮らしをさせてあげることが出来るかも知れない!)」
所詮―――『非情の忍』、『冷酷な盗賊』とは言えど、ノエルは幼い妹弟達にとっては優しい姉でありました。
しかもこの時、最後に品定めを行ったモノこそ、ある者が腰に下げた『黄金の剣』―――それだったのです。
それにその黄金の剣の持ち主にしても、秀麗にして見目麗しい女性―――恐らくは、どこぞかの貴族か王侯の小娘が自分の身分を覚られまいとワザと貧相な装備をしているに違いはない。 それよりも気を配るべきなのは、その小娘の取り巻きの2人の女性……恐らくこの2人は、この王侯貴族のお嬢様の侍女か護衛の類なのだろう。
1人は目つき鋭く、あわよくば自分のご主人様の―――剣を狙っているぅ?
何とも不届きな侍女もあったものだと思いながら、もう1人を伺ってみると。
「(―――何だろうか、こいつは……全く表情が読めない。 まるで人形、作られた目鼻立ちを張り合わせているかのような……まあ少し警戒をしておくことに越したことはないか。)」
しかし―――ノエルが品定めしていたこの三様こそは……
* * * * * * * * * *
「なあ~ニルぅ? この後一つ手合わせ願うぜえ?」 「また、か、よくよく飽きないものだな。」
「ヘッヘッヘッッ、そんな褒めんなよ!今ン処お前しか強い奴は見当たらねえんだからなあ。」 「(……)判った―――判ったから!いい加減離れんか! うん?どうしたのだ、ホホヅキ。」 「いえ、何でもありませんっ―――」(むすぅ)
もうこの頃には既にPTを組んでいたニルヴァーナ、リリア、ホホヅキの三人。
そんな彼女達三様を遠間にして見聞し、じゃれ合っているかの様にも見える者達に、一部その考えを改めざるを得ませんでした。
「(なん……だ?この者達は―――主従の関係ではないのか?だとしたら友人……それともPTか!?ならばこの者達の予定、聞き洩らしてはならないな……。 そして―――決めた、こいつらはこの私の……獲物だ!)」
『王侯貴族のお嬢様』と言う概念は完全に外された……あんなにまで馴れ馴れしくする、出来るのは友人関係や仲間内でないと出来ない。 そう判断したノエルは、そんな彼女達三様の動静を探っていくことになったのです。
「(ほほう―――『南の街道』……そこによく出没と言う『盗賊の撃退』ですか。
フフン、これは面白い……駆け出しの冒険者如きが、父や兄をも凌ぐこの私に敵うとでも思っていようなどとは! これはとんだお笑い草だ、なあ~お嬢様方ぁ~?世間はそんなに甘くはない事を、思い知らしめてくれようよ!)」
彼女達3人の目的こそ、『盗賊団の撃退』だった。
ならばこの者達は『冒険者』、所詮は自分達の武のみが頼りなだけの頭でっかちな者達が、忍の道を極めた自分に敵うはずがない。
もう既にノエルの頭には、薔薇色の人生だけが描かれていた…………
ハズ―――でしたが。
実はこの時……
「―――なあ~~ニルぅ?お前、気付いてんだろう?」 「何のことだ、リリア―――」
「誤魔化すんじゃねぇよ……ずっと私達の動静を見つめている“目”がある―――って事、気付かない訳じゃねえんだろう……?」 「―――フッ、まあよいではないか。 この黄金の剣に釣られたのであれば、その手を伸ばしてくるがよい。 その者も
「フッーーーフフ……おいおい、お前だけ美味しい処を持って行こうって魂胆かぁ? そいつは頂けねぇなあ……ちょいとばかし私にもお零れを寄越してくれや。 ここんとこお前だけじゃ物足りなくなっちまってた処なんだからよ。」 「ならばこの私もご相伴に与りたいと存じます。 それに今宵は『新月』……ウフフフフ―――この刀も『血が吸いたい』と申しておりますがゆえに。」
ノエルは、知らない……自分はお宝を狙う盗賊―――なのに、ノエルが的を絞った狙うと決めた者共は、己の武の高みに更なる強者を探し求め
そうした『修羅』が持つ宝に、手を伸ばそうとしたのも―――また、ノエルの運命……
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