第5話 サクヤが出会った白い猫の飼い主
ナコ?
どこかの屋敷の塀の上を通りかかった時だった。
その後ろ姿が酷似していて、期待して声をかけていた。
振り向いたその子は、涙を溜めた目で俺を見つめ返した。
違った。
似たような歳のようだけど、全くの別人だった。
「アナタも、私と一緒にルミにお別れしてくれる?」
見ると、その子の腕の中には、小さな白い猫が、眠っているような姿で抱かれていた。
その猫は息をしていなかったが。
「生まれた時から心臓が弱くて、大きくなるまでは生きられないって言われていたの。今朝、眠るような最期だったんだよ。私の腕の中で……」
その猫は、幸せそうな顔をしていた。
主人に抱かれて短い天寿を全うした、幸せそうな猫だった。
この飼い主の少女も、涙を浮かべているけど、納得のいくお別れができたんだろう。
穏やかな顔で、死んだ白猫を見つめていた。
「いつか、どこかでまたルミに出会えたらいいな。私の膝の上に座るのが好きな、甘えん坊の女の子だったんだよ。また、たくさん甘やかしてあげたい」
お互いが強く願えば、会える可能性もあるんじゃないか?
ちゃんとお別れができたお前達が羨ましいけど、会えるといいな。
少女は一人で一生懸命に猫のための穴を掘り、そして丁寧に土に埋めてあげていた。
明るくて、心地よい場所だ。
「猫さん、一緒にいてくれて、ルミを見送ってくれてありがとね。もし良かったら、うちにくる?」
せっかくだけど、遠慮するよ。
俺はまだナコを探さなければならないんだ。
「何処かにいかないといけないんだね。あなたの幸せを祈っているよ」
ああ。ありがとう。名前も知らない、ルミの飼い主。
「じゃあね、猫さん。あなたの元に幸運が訪れますように」
こうして、長い旅の途中のほんの短い時間を過ごした少女と別れた。
あの少女とルミが来世で出会えたのかは、俺にはわからない。
まだまだ俺の旅は続く。
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