第67話 黒い馬
「レイラ様、注文の黒い馬が届きました」
「春までに、初心者の匠が乗ることができるように、調教しておくように」
匠のクリスマスプレゼントにと頼んだ馬が来たのに、受け取って名前をつけるはずの匠がいない。
「厩舎に名前をかけておきますが、なんと書きますか?」
「匠が名前をつけるから、まだ名前はつけなくていい」
レイラは届けられた黒い馬を見に行った。艶々して健康そうな、美しい良い馬だった。ホワイトブロンドの匠が乗ったら、さぞ映えるだろう。けれど、もしかしたら、この馬はこのまま名前もなく、誰にも乗られる事なく、厩舎で一生を終えてしまう事になるかもしれない。
レイラは、春休みには匠と一緒に乗馬をするつもりだった。馬上でニコニコしながら嬉しそうに笑う匠が、頭の中にいた。頭の中にありありと、乗馬を3人で一緒に楽しむ絵を描いていたのに。居るはずの、その二人がいない。レイラは待ち遠しいはずの春は、永遠に来ないような気がした。
レイラは家臣の前で泣いてはならないと、誰もいない厩舎で馬の立髪に顔を埋めたまま、声を殺して泣いた。馬は慰めるように、レイラに寄り添っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます