第41話 変な男
アントンは透から送られてきた葵と男の映像を見て、なんだろうと思った。健斗が自分に送られてきた写真を、まだ誰にも見せていなかったからだ。アントンは、透に、浮気をする前から、予防線を張っているのか、と聞いてきた。
健斗に雇われた人が、透が浮気をしている様に見える写真を撮り、健斗に送っていたから、疑惑を晴らすために送った、と透は答えた。透はアントンに、健斗がレイラに誤解を招くような写真を見せていたら、自分が送った動画を見せて欲しい、と頼んでおいた。
健斗はレイラに揺さぶりをかけ、出来た心の隙間に入り込もうと、透を陥れる様な写真を撮った筈なのに、使っていなかった。使う必要がなくなった、と言う事は、レイラに近づく事が出来たと言う事だろうか、と透は一抹の不安を覚えた。それとも、つけ入る隙が無かったのか。
もう匠は安全だろうと言う事で、送り迎えの必要がなくなった為、透は夜道を一人で歩いて家に向かっていた。すると、後ろから急ぎ足で歩いてきた人物が、透に並んだ。隣に並んだ知らない人物が、透に声をかけてきた。
「なんだ、透?」
レイラと直接の連絡手段が無くなった透がアントンに電話をかけると、すぐに出た。
「レイラは?」
「外出中だ。なんだ、もうお声が聞きたくなったか?」
アントンがからかう。
「変な男に声をかけられた」
「透は健斗にも好かれている様だからな」
「なんの話だ、アントン?」
珍しく透の声に怒りが滲んでいた為、アントンは慌てた。
「変な男は、なんて言ったのだ?」
透は見知らぬ男から渡された地図に載っている森の中にある屋敷に、「大事な人」が囚われていると、聞いたと、アントンに話した。透が問い詰めると、その男は日本人で「ロシア語のアルバイト」と言われ応募したと言う。ロシア人らしき人物から、ロシア語で書かれた地図を訳し、話された言葉を日本語で、指定された人に話をするバイト、と言われただけだと言った。アントンが慌てて電話を切り、他の護衛に確認し、改めて透に連絡をしてきた。
「レイラ様は、他国にある人を訪ねて行ったきり帰れなくなっている。変な男は他に何か言っていたか?」
「その地図にある場所に大事な人がいると。途中まで案内人が一緒でもいいらしいが、森から先、屋敷へは一人で行けと、言われた」
「私が代わりに行こう」
親切にもアントンが申し出た。
「相手は私を指名して来たんだ。私が日本人でどこに住んでいて、容姿までわかっているから、申し出は有難いが、自分で行かなくては。そうしないと『大事な人』の命は無い、と脅して来た」
「そうであれば、透、今すぐ、サファノバに来てくれ! 専用機を向けよう」
「今日はもう便がない。明日、朝一で出国する。専用機よりもそちらの方が早いだろう」
そう言うと、透は、アントンに用意して欲しいものをいくつか頼んだ。
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