夢幻小説ショートショート
ロア
第1話 電脳セレナーデ Ⅰ
夢の中で僕は高校の先生で、赴任先の学校である少女と出会う。その子は幼少期に事故で両親を亡くし、ショックが後遺症となり感情を失っていた。放課後その子と会話を重ねるうちに僕に対する淡い恋心を抱くようになる。
ある放課後、僕はいつも通りその子がいる教室へ向かう。やけに夕焼けが眩しく、教室は差し込んでくる夕日によって赤く染められていた。
その子は僕が教室に着くなりすぐに駆け寄り、「あなたに渡したいものがあるの。」と呟く。その華奢で色白な手には水色のミサンガが握られていた。
「これを僕に?」
そう聞くとその子は僕の手にそっとミサンガを着けながら「これね…私の気持ち…」とか弱い声で呟きながら僕の顔を見つめてきた。
思えばもうその子と半年以上会話していたものの、その子の顔を近くでまじまじと見るのは初めてだった。銀髪ツインテールが夕日に輝き、その青い瞳にはまっすぐ僕の顔を見つめる瞳があった。
焦りながらも不思議と落ち着いていた僕は「どうして僕にこれを?」と聞く。するとその子は顔を赤らめ、目を逸らした。
「私…私ね…えっと…いや…わかって…」
わかってとは何をわかるのか。思慮を巡らせようとした瞬間、その子は僕に優しく抱きついてきた。
「私あなたといると、忘れていた感情が湧き上がってきて、普通の女の子でいられる気がするの。」
僕を抱きしめるその体はとても柔らかく、触れたら壊れてしまいそうなほどはかなく、そして少しの温もりを感じた。
気づくとその子は目に涙を浮かべていた。きっと心の底から湧いてくる初めての感情に自分でも驚いているんだろう。喜びを感じているのか、戸惑っているのか、僕にはわからないけれど。
「だから…これからも私のそばにいてほしい…そのミサンガが切れるまで…いや切れても……」
僕はその子をそっと抱きしめ返す。
「ありがとう。実は僕も君のことで頭がいっぱいだったんだ。でも教師と生徒という関係上、なかなか話を切り出せずにいたんだ。」
「教師と生徒…」
その子の抱きしめる力がちょっと強くなった。
「そんなの…関係ないよ。私はあなたのことが好きであなたも私のことが大切…その関係に職業なんて関係ない…ただ一緒にいたいの…これからもずっと…ずっと…」
その時、教室の外から気配がした。
「…ッ!?」
何者かが教室のドアを開ける。
「お前ら何してるんだ。学校で教師と生徒がそのような醜態を晒しても良いと思ってるのか!?」
学年主任の男だった。強面で、話が通じない奴だ。
するとその子はポロポロと涙を流しながら崩れ落ちるように座り込んでしまった。
「…私…また失うの…?お父さんとお母さんがいなくなって、私の大切な人まで…もう嫌…」
学年主任の男は怒号で答えた。
「お前が今しようとしている事は学生にあるまじき行為!ましてや教師と関係を持つなどもってのほか!今すぐ職員室に来い!話がある!」
その子はもう、二度と大切な人を失いたくなかったのだろう。今まで誰にも見せなかったような目つきで学年主任の男を睨みつけた。
泣きながら歯をくいしばって男を睨みつけるその様相は、まるで獲物を捕らえたトラが近くに沸き立つハイエナに向ける怒りの眼差しそのものだった。正直、この子のこんな表情は初めて見たし、僕と一緒にいると感情が蘇るという言葉を裏付けているように思えた。
「なんて態度だ!学校を舐めやがって!!早く職員室に来い!連れてってやる!!」
学年主任の男がその子の手を掴もうとすると驚きの光景が目に入ってきた。
ビリッ!!バチバチバチ!!!!
「うわっ!!!!」
その子の体から青白い静電気が出たのだ。しかも、強力。
たちまち学年主任の男は麻痺し、その場に倒れこんで動かなくなった。
「この状態が他の人に見られたらまずい…!とりあえずどこかへ逃げよう!!」
僕達はその光景への驚きを隠せないまま、呆然と座り込むその子の手を取り、急いで教室を後にした。
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