転生したら、西洋人が正座して、なんか面白かった

 赤髪の少年、ピーター・パークが俺の前で正座をしている。西洋の子供がきちんとした正座をしている姿がなんとも滑稽で面白い。

 その左には銀髪の少年カイト、右には栗色髪のキースが正座をしている。

 なぜだか分からないが、三人は穂先がついていない練習用の槍で頭を叩かれたみたいなコブを作っている。


 不思議現象だ。

 流石は、異世界。


「それで、何で襲ってきたの?」

「だって…うぇええええん」


 ピーターが泣き出してしまった。

 うん。ごめんね。

 やり過ぎた。


 ピーター少年をなだめると、何とか事情を話してくれた。


 ピーター・パークは、今は取潰しとなってしまったパーク商会の跡取り息子だ。お供の二人はピーターの父、リック・パークに拾われた孤児で、物心ついた頃からパーク家に仕えている。


 父親のリックは目端の利く人物で、漁村で食べられていた乾燥した海草に注目し、それを王都で販売した。長期保存が可能で、尚且(なおか)つ美味しいと庶民の間で評判になり、弱小だったパーク商会は、あれよあれよと言う間に王都で店を構える程の中堅商会となった。


 そんなパーク商会の急成長を快(こころよ)く思わない者達が多く、老舗のアーク商会が先頭に立って、リック・パークを嵌めた。


 ある日、リックが取引先にしていた漁村を治めるカンザスの領主が『領内の海産物を無断で買い叩いている』と王都で訴えたのだ。

 当然これは言いがかりで、リックは領主と取り決めた売上の二割を納めていると主張する。しかし、カンザス領主はそんな事実は無いとし、パーク商会を取潰して、その財産で今までの補てんをしろと賠償要求した。

 中堅商会の会頭と辺境伯の主張、どちらが採用されるかは明らかだった。


「それで貴族が憎いと、俺を襲ったのか」

「うん…貴族っぽい服を着てるし…」


 あー。

 確かに。

 王子様丸出しの格好だった。


「理由は分かったけど、腹いせに殴るのは良くない。それに、商人だったら、商売で見返してやろうとかは考えないの?」


 カイトとキースは、はっと気づいて表情が明るくなった。だが、ピーターは唇を噛んで押し黙る。そんなピーターをカイトとキースが励ました。


「ピーター、こいつの言う通りだ。どんなに失敗しても、次にもっと儲ければ良いって、ご主人様も言っていただろ?」

「そうだよ、やろうよ商売。俺たちに出来る事なんて他にはないよ」

「でも…海草の商売は…アーク商会に取られちゃったし…父様は牢屋に入れられちゃったし…」


 ピーターは大粒の涙を浮かべているが、絶対泣くもんかと、唇を必死に噛んで我慢している。


 なんか可愛いな。

 そんな顔されたら、つい、助けたくなってしまう。


「えーと。ちょうど俺専用の商人を探している途中だったー。ああ、うっかり、うっかり、忘れてた。この上着を売って庶民の服を買ってきて欲しいなー。売買の差額でお給金も出るんだけど、誰かやってくれないかなー」

「「「やる!」」」


 三人の目が輝いた。


「よし、では任せてみよう」


 俺は上着を脱いでピーターに渡すと、子供達が元気良く、一斉に立ち上がれなかった。

 足がしびれて、全員が『ドスン』と前へすっ転んだ。


 だよねー。

 だと思った。

 三人は足がしびれて這いつくばってる。


 うん。

 西洋人が正座して足しびれてるって、なんか面白い。異世界っぽい。

 今日は面白い物が見えたので、王都散策を諦めるか。


 数分後、ようやく立ち上がった子供達は、意気揚々と街へと消えて行った。

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