死がない旅人

@ahoswitch

永く永い昔の伝説

 山のふもとにある小さな山村は農業での自給自足に加えて、山で伐採した材木を他の街や、遠くは都市まで売りに行くことを生活の糧としていた。

 この地域一帯では季節問わず晴れることが多く、今日も太陽が村を照り付けている。雲の無い日、日の高い時間帯は気温がかなり高くなるが、日の届かない山の中はきらきらとした木漏れ日の中に爽やかな冷気が漂う。

 こういう日は、子供たちや山での仕事の無い村人たちも山中の水場に涼みに行くことが多かった。


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 たまの干ばつ害を除けば安穏無事、争いもなく変化もないこの村にはなんの前触れもなかった。

 星のルール下で生きる生物にはその予兆を捉えることはできないだろう。

 私たちは時も場所も選ば……基本選ばずに、まるでダーツで宇宙地図を射るように唐突に現れるのだから。


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 轟音と地響き。

 経験したことの無い自然現象に、村人たちは呆気にとられ恐怖に陥る。立っていられずに地を這う者、支えに掴まって耐えている者、皆が次の瞬間恐れを忘れた。

 村人たちの眼前、村の向こうに見えるのは超常現象。白と黒の光柱が二重螺旋をなしていた。

 変化のない田舎村、外の世界の見聞に乏しい村人たちもしばらくの間呆然とした後に何かおかしなことが起こっていると自覚し、手の届く周りの人を助けながら三々五々に光柱から逃げる。

 訳が分からないまま、光柱の放つプレッシャーに追われ、しかし山の中に残る自分の家族の存在に後ろ髪を引かれる。 そんな葛藤を抱えながらも、村人たちはパニックを起こさず整備のされていない道を必死に逃げた。

 ここは辺境の地、一番近くの街にたどり着くのにも時間がかかる。力になってくれる王国軍にも他の誰かにも今は頼ることはできない。

 ……はずなのに、小さな人影が一つ、一陣の風と共に人々の間をすり抜けて村の先へと駆けていく。村人たちがそれを後ろ目に見ようとしても人影は視界に映らない。一人が後ろを振り向くと、人影はすでに村の中へ入っていくところであった。そこは彼らが村を発してから5分ほどの地点であった。

 一群は人影を気にしながらも落ちた速度を取り戻した。


 疲労しながらも村人たちは街までたどり着く。その街からも光柱が確認でき、異常を感じていた人々は逃げてきた村人数人を連れ、王国都市へと報告に走った。

 王国はすぐさま調査兵を遣わした……が、一日もしない内に一報が返ってくる。


”光柱周囲、超広範囲に渡り消失”


 光柱の下の村、山、それから村人たちがたどり着いた街。さらに多くの街々が跡形もなく消え、その地は真っ新な荒野が浸食していたのだった。

 雑草一つ生えなくなったその荒野はいつしか「死の大地」と呼ばれるようになり、異形の生物が徘徊するようになる。

 一時それらを制圧しようと王国が動いたが、どこからともなく、きりなく湧いてくる生物たちを抑えきることができず、王国は死の大地の周囲に壁を造りその地を隔絶する、力づくな方法をとることでこの問題を解決とした。

 幸いにも生物は知能が低く、人が近づかなければ凶暴性も低い。壁は破られることなく永く永い時が過ぎ、伝説として語られるようになった。


 ……時を経ると伝説にある情報は加減算を繰り返し、伝説は洗練された物語となっていく。もはや嘘か本当か分からなくなった伝説だが、どれだけ時を経ても


「光柱が立った場所、そこには巨大な石碑が聳え立っている」


 この一文は変わることはなかった。

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