第11話 リレーの惨劇と父と子の会話

 高一の体育祭の前、出場種目を決めるためみんなが相談してたんですが、私はそこに入っていけず、結局リレーしか残ってないという状況になってしまいました。

 言うまでもないような気もしますが、私の運動神経はカーストで言うと最下層の方に属しておりました。男女2名ずつの代表が走るクラス対抗リレーなので、クラスのためにも誰かに代わってほしかったのですが、誰も代わってくれるわけでもなく、私は走らざるを得ないことになりました。

 そして体育祭当日、なぜかアンカーを命じられた私は、また最悪なことに、トップでバトンを受けました。私は走りました。死ぬ気で走りました。しかし死ぬ気ぐらいでカースト上位の人間に勝てるわけがなく、あっという間に全員に抜かれ……ゴール前、こけました。


 恥ずかしい……なんてものではありません。気が変になりそうなので、一刻も早く忘れ去る、というか、考えないようにするしかありませんでした。

 まあ私の青春なんてものは、小三の時にブサイクと知らされてから、加えて小学校6年間プールで晒し者にされたことなどで、とっくに終わっちゃってたのですが、このリレーの惨劇で、ついには墓の中で朽ち果て、成仏してしまったような気分でありました。


 高校の体育では柔道の授業もあり、ある日私は家で柔道着をたたんでいました。するとそこに親父が通りかかり、

「なんやお前が柔道するんかい。ひゃひゃひゃひゃ」

 とバカにしながら去っていきました。


 私の親父は石川県の出身で、若い頃に大阪に出てきてトラックの運ちゃんになりました。

 親父はとにかくよく働きました。毎日毎日、朝から晩まで働いてました。

 親父は家ではあまりしゃべらなかった。お互いにしゃべらないので、私と親父はあまりコミュニケーションがとれませんでした。


 前述の体育祭でこけた日の、次の日が代休で休みでした。その日は平日にもかかわらず、なぜか親父が家にいました。

 たまには親父とコミュニケーションでもとろうかという出来心と、やっぱり昨日のことがちょっとショックだったから、なにか暖かい言葉でもかけて欲しかったのかも知れません。そんな甘い考えで、私は親父に昨日のことをしゃべりました。

 そして親父の説教が始まりました。

「普段から運動せえへんからそんなことになるんや」

 と親父は怒りながら言いました。


 怒られるためにそんな話をしたわけじゃなかった。

 けど、きっと優しい言葉を期待した私が阿呆だったんでしょう。


 人は皆、私をいたわらなきゃならない。

 人は皆、私を慰めなきゃならない。

 なんて、そんな都合のいい話がある訳ないんだから。


 もう二度としゃべるまい。と決意しました。

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