第6話 中二の秋、転落

 1978年4月、私は中学生になりました。私が行く中学は出来たばかりで、私たちは1期生でした。生徒は一年生だけで、上級生はいませんでした。周りの生徒も同じ小学校の人間が大勢いたので、とりあえず割と気楽に過ごせました。

 

 ただ、その頃から漫画が描けなくなっていきました。

 小学校の時は学校でも描いてたけど、下手な絵を描くのが恥ずかしくて、人前では描けなくなりました。描いてるところを家族に見られることすら嫌でした。理想と現実のギャップが大きすぎて、向上心も持てませんでした。

 何か描くとしても、せいぜい班ノートにイラスト(漫画の模写など)を描くぐらいでした。


 中二になり、私はニシやんともう一人、F田(仮名)という男と同じクラスになりました。元々ニシやんとF田が友達同士だったので、三人でよく遊ぶようになりました。

 そして結果的に、この2人が私にとっての最後の友達になるのです。


 中二の秋頃、はっきりと自意識に変化が生じました。


 俺はやっぱりブサイクなんだ。

 俺は面白くない人間だ。

 俺は着てる服がおかしい。

 俺は髪型が変だ。

 俺と一緒にいると恥ずかしいんじゃないか?

 みんな俺と一緒になんか居たくないんだろう。


 漠然とした疑問だったものが確信になっていきました。

 と言うか、自分で勝手にそう思い込むようになってしまったように思います。


 私は人目が気になってしょうがなくなりました。

 ブサイクという認識があるので、特に女子の目が気になりました。

 いつも陰で笑われてるような気がしていました。


 私はあまり外に出られなくなりました。

 私は自分の服すら買いに行けなかったのです。こんなブサイクな人間が着飾ろうなんて考えることが、ひどく恥ずかしく思えました。服を買いに行くだけで、みんなに笑われるんじゃないかと思っていました。


 自分はつまらない、退屈で、センスのない人間だと思っていました。誰も俺を好きになんかならないだろう。そういう気持ちが日に日に強くなっていきました。

 もともと無口な方だけど、さらに無口になっていきました。


 友達が休みに映画を見に行ったリ、ボーリングに行ったり、どこかに遊びに行ったりしてるのが、うらやましかった。

 まれに誘われることもあったけど、私は行けなかった。自分なんかが行ったってみんな楽しくないだろうと思っていました。

 私が学校以外で行ける所は、近所の本屋とスーパーと、子供の頃から行ってる銭湯ぐらいでした。

 そんな中でも、ニシやんとF田は私といつも遊んでくれました。


 中三になり、ニシやんとF田とクラスが別になりました。

 もう新しい友達を作ることは出来ず、私は一人で行動することが多くなりました。


 外で知り合いに会うのが嫌で、近所のスーパーに行くのも辛くなりました。

 ほとんど学校と家を往復するだけの毎日、引きこもりに近い状態になりました。

 完全に引きこもりにならなかったのは、自分の部屋がなかったからじゃないかと思います。

 家に居場所がないけど、外をウロウロする勇気もなかった。だから不登校にもならず、毎日学校には通っていました。


 慣れてしまえば、平和ではありました。

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