1年後隣国に嫁ぐ貧乏令嬢ですが、いつの間にか恋人役のヤンデレ公爵令息に溺愛されていました

@karamimi

第1話 恋人役ぜひ私にやらせてください

今日も1人、校舎の中庭で本を読むふりをしつつ、大好きなディラン様をこっそり眺める。ここは貴族だけが通うことが出来る、貴族学院だ。そんな私は貴族学院3年になったばかりの伯爵令嬢、アンネリカ・フローレス。


うちの領地は元々税収が多かった訳ではないけれど、伯爵家としてはそれなりの暮らしをしていた。でも数年前、もっとお金持ちになりたいと企んだお父様が隣国の商人に騙され、多額の借金を背負う羽目になってしまったのだ。


そのせいで、我が家は物凄く貧乏になってしまった。ドレスすら新調出来ないから、貴族学院主催のダンスパーティーですら入学してから1回も参加していない。


そんな貴族らしくない令嬢なのだ。そして、私が今見つめているのは、同じく貴族学院3年の公爵令息、ディラン・ファイザバード様。金髪に青い瞳を持つ、とっても素敵な男性なの。もちろん、私なんかが近づいて良い相手ではない為、こうやって陰ながら見ているのだ。


あ~、今日もディラン様はカッコいいわ。ちょっと、お友達、邪魔よ。ディラン様が見えないじゃない!


「おい、ディラン。どうするんだよ!カサンドラ嬢とお前の関係、王太子が怪しんでいるみたいで、騎士たちが調べているぞ」


カサンドラ様と言えば、公爵令嬢で王太子の婚約者だ。金色の髪に赤い瞳のとても美しい女性。16歳とは思えないほどのナイスなボディをしていらっしゃる、とっても魅力的な方なのである。


そんなカサンドラ様とディラン様は、密かに付き合っているというのは有名な話だ。まあ、王太子殿下にバレたら大変なことになるよね。


「知っている!でも、俺はカサンドラを愛しているんだ。学院を卒業したら、2人で隣国に逃げる予定でいる。だから、それまで王太子にバレる訳にはいかない。何かいい方法があればいいのだけれど…」


深いため息を付くディラン様。


「そうだな!う~ん、一番いいのが、お前が恋人を作るって言うのはどうだ?そうすれば王太子の目も欺けるぞ」


「簡単に言うなよ!俺が愛しているのは、カサンドラただ1人だ。恋人なんて作るつもりはない!」

友人に向かって言い放つディラン様。怒った顔も素敵ね!


「そんなに怒るなよ!冗談だよ、冗談」

慌てて否定する友人。


「でも、それはある意味いい案かもしれない。貴族学院を卒業するまでの1年、俺の恋人役を誰かにやってもらうと言うのはどうだ?そうすれば、王太子も欺ける」



「でもよ!ここは貴族学院だぞ。貴族の令嬢にとって1年は非常に重要だ。ここで婚約者を見つけようと必死になっている令嬢も多数いる。そんな中で、1年もお前の恋人役をやってくれるもの好きはいるのか?

それもお前は1年後、カサンドラ嬢と駆け落ちするんだろ。恋人役をやってくれた女性にしてみれば、男に捨てられた惨めな女のレッテルを張られる。そんなレッテルを張られれば、間違いなく嫁の貰い手が無くなるぞ」


確かに恋人が別の女と、それも王太子の婚約者と駆け落ちしたとなれば、貴族中の噂の的になる。そして、皆が面白おかしく噂するだろう。そんな女性を、誰も結婚したいとは思わない。


「そうだよな。厳しいよな…」

物凄く悲しそうな顔をする、ディラン様。

ん?待てよ!その恋人役って、別に私でもいいのよね。そうだわ、たとえ役であったとしても、1年もディラン様と一緒に過ごせるなんて、おいしすぎる。


それに私は貴族学院を卒業したら家族の借金を返すため、隣国の大富豪の男の元に嫁ぐことも決まっている。一度会ったけれど、40歳くらいの太ったオヤジだったな。ああ、嫌なこと思い出しちゃったわ。


よし、決めた!私がその恋人役に立候補しよう。私はディラン様にそっと近づく。


「あの、その恋人役、私にやらせていただけないでしょうか?」

私が急に声を掛けたからか、ものすごくびっくりしている2人。


「君は確か、伯爵令嬢のアンネリカ・フローレス嬢だったよね?」


「はい、そうです。失礼ながらお話は聞かせていただきました。私で良ければ、1年間恋人役を務めさせていただきたいです」

私はそう言うと、ディラン様をまっすぐ見つめた。


「フローレス嬢、君は話の意味を分かっているのか?ディランと恋人役をやると言う事は、君の今後の人生にも大きく左右すると言う事だぞ」

確かに普通の令嬢ならそうだろう。でも、私は違う。どうせオヤジの元に嫁ぐことが決まっているのだ。どんなに噂されようと、痛くも痒くもない。


「はい、分かっております。私の事は心配して頂かなくて結構です」

私の言葉に、考え込むディラン様。


「わかったよ。じゃあお願いしても良いかな?俺の名前はディラン・ファイザバード。1年間、どうぞよろしくね」

そう言うと、にっこり微笑んだディラン様。なんてかっこ良いのかしら!


こうして、私はディラン様の恋人役に無事内定したのであった。

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