ピアノの葬式
バブみ道日丿宮組
お題:栄光のピアニスト 制限時間:15分
ピアノの葬式
「先生っ仕事です!」
勢いよく扉が開け放たれると、助手が息を切らしてた。
「まず水を飲んで落ち着くんだ」
その言葉通りにウォーターサーバーがある場所へといって一杯。
「先生仕事ですよ」
「それはさっき聞いたよ。まずどこなんだ?」
「今回は隣町の神社です。あと明後日です」
なるほど。今回も死者をともなう仕事か。最近めでたい席での演奏がなくなってきたな。それだけ人が死に、産まれることがなくなったということかもしれない。もっといい場所で引いてみたいものだ。いや神社のお葬式が悪いものとは言わない。いや悪いことなのか?
「先生? 聞いてます」
「あぁ、ちょっと考えことをな。そうだ。今回のはキミに伴奏を頼もうかな」
「ほ、本当ですか! 嬉しいです」
ぴょんぴょんと跳ねる助手は本当に嬉しそうだった。
「失敗しないですかね?」
「それはキミの腕次第だ。なんにしてもお葬式でめでたい曲を弾かない限りは大丈夫さ。まぁ僕らは打鍵するのが仕事だからめでたい曲でも変わらないけどね」
ピアニストとしての評判は落ちるだろうけどね。
「ううー楽しみ反面緊張です!」
「あくまでもお葬式だから笑顔はダメだからね」
はいと元気よく答えた助手は、部屋に備え付けられてるピアノの前へいくと着席した。
「先生聞いてもらってもいいですか。今あるイメージを」
「あぁ構わないよ。時間はたっぷりはないけど、打鍵するだけの時間はある」
深呼吸した助手はゆっくりとたっぷり時間をかけてピアノを引き始めた。
メロディは悪くない。悲壮感を漂わせつつ、気持ちさせないオーラがいたるところに散りばめられてる。これならば、観客である参列者は文句ないだろう。
「ふぅ……。先生気になってることがあるのですが?」
「なんだい?」
「どうしてお葬式でピアノを引くんですか? 普通はお経とかだと思うのですが」
首をかしげる助手は本当に疑問に思ってるらしく瞳の色まで曇らせた。
「それはイメージアップかな」
「イメージアップですか? なんの?」
「人が死んだという事実は変わらないけど、新しい旅立ちという希望を付与したいみたいなんだ」
「そうなんですか」
助手は納得してなそうな表情を浮かべると、またピアノへと向かった。
今は答えがでなくてもいずれわかるときがくる。
かつての僕がそうであったようにきっと。
ピアノの葬式 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます