第21話 精鋭
課長代理の新井もまた非常に優秀であり嗅覚が鋭い賢者であった。
さくらのアイデアの実現性を確信し、関係部署への協力要請、NS商事へのアプローチの手順をさくらに伝え、先ずは制度や商品知識を正確に把握し、自分の言葉でプレゼン出来るようにしなければならないことを説明した。
そして、さくらに
「東山、君にチームで仕事することの素晴らしさを経験してもらいたい。だから仕事の進め方は俺に任せてくれないか?」
と、小声で相談した。
さくらは勿論何の不満もなく
「宜しくお願いします」
笑顔で返事をした。
その回答をしっかり確認した新井が次に向かった先は、、、
怪訝な表情で2人のやり取りを聞いていた課長の久保田の席だった。
「課長も聞こえていたと思いますが、東山のNS商事に対する提案について、そのアイデアを具現化していこうと思います。
NS商事関連企業の社数を考慮すると、説明会についても大規模なものになる可能性があります。
久保田課長の指揮の元、課を挙げてこの提案を成功させたいと思いますが、課長としてご判断を頂けないでしょうか。」
新井はフロア奥の樋口部長にも聞こえる大きな声を張った。
さくら、植草、課員の多くが鳥肌を立てながら新井の将来を想像する瞬間だった。
久保田は、未だNS商事の担当になることへの未練があり、さくらがミスすることを密かに望んでいた。
しかしながら、新井のこの仕掛けによって、さくらの提案を成功させることに全力で協力せざるを得なくなるばかりか、責任をも負うことになったのだ。
新井はさくらのアイデアを聞いていた僅かな時間に、案件の成功確度を高める手順とさくらのNS商事担当に不満を持つ課長を協力者に加え、更に課全体で取り組むことでチームの士気を高めることを考えたのだった。
さくらは一連の思慮深さと行動力に魅了され、いつしか新井のような仕事が出来る自分になりたい、と思うようになっていた。
そして、母の口癖の「頑張ればいいことある。って本当だな」と小声で言いながら、感謝の気持ちで心が満ちていくのを感じずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます