殺し屋ミアーノ【大人の昔ばなしシリーズ】

独白世人

殺し屋ミアーノ

 昔々あるところにミアーノという凄腕の殺し屋がいた。ミアーノは裏社会で一目置かれる存在だった。彼から狙われた人間は骨も残らないと言われていた。


 ミアーノはどんな依頼も受けた。

 マフィアのボスや大物政治家といった高額の依頼から、小さないざこざの後始末までなんでも請け負った。

 彼は殺し屋として生きることを心に決め、誇りを持って仕事をした。人間が増えすぎてしまったこの地球において、不要だと依頼のあった人を消し去ることはミアーノにとって生きる意味となった。

 ある時は呆けた老人を殺した。それは介護に疲れた息子からの依頼だった。

 ある時は生まれたての子供を殺した。それは自由になりたくて子供を邪魔に思った母親の依頼だった。


 しかしミアーノが50歳になる年、人生の転機がおとずれた。

 一つの言葉に出会ったのだ。

「人は何故生きるのか? それは何かを生み出す為だ」という言葉だった。

 それは一人の哲学者が発した言葉だった。


 ミアーノは思い悩むようになった。

 哲学者のその言葉は、ミアーノの人生そのものを否定するようなものだったのだ。

「人が何かを生み出す為に生きているのであれば、私は何の為に生きているのだ。何かを生み出すどころか、私はこれまでに1000人以上の人を殺してしまった」

 ミアーノはこんな独り言をぶつぶつと呟くようになった。


 その後もミアーノは殺し屋を続けながら悩み続けた。

「もしかして俺が今まで殺した人間が生きていれば、この世界に生み出されたものが多くあったかもしれない。それならば私は生み出すどころか、多くのものを消し去ったことになる」

 独り言は日に日に増えていき、彼は殺し屋としてこれからどうするべきかを考えた。


 悩んだ末、ミアーノは彼自身を殺した。

 そうすることで彼は最後まで殺し屋としての人生を全うしたのだ。

 そして何かを生み出すことは、これから彼が依頼を受けて殺すはずだった人達に委ねることにした。それによって自分も何かを生み出すことになるとミアーノは考えたのだ。


 その結果、ミアーノが殺さなかった人間の子孫が世紀の大発明をし、2000年後に起こる人類滅亡の危機を救うのである。そして、その発明は人類が生み出したもので最も素晴らしいものになるのだった。


 この世界は1人の殺し屋の自殺によって救われるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

殺し屋ミアーノ【大人の昔ばなしシリーズ】 独白世人 @dokuhaku_sejin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ