病院の中の書き置き。

脳幹 まこと

状況説明


 その病院の中には三十余名の患者がいる。人口密度は高い。塩素の臭い立ち込めるフロアの中の患者の一人が書き置きを残した。決して広くはない病院の中に患者が三十余名、ぎゅうぎゅう詰めに入っている。消毒のため、毎日数十グラムの塩素を患者達が摂取することになる。そんな中、患者の一人が書き置きを残した。毎日のようにうめき声が立ちこめるフロアの中の患者の一人、消毒のため、毎日数十グラムの塩素を摂取することになる。

 その患者、絶えず雑音、耳をつんざく金切り声が聞こえるとして入院した。投薬治療をして早三年、書き置きは山ほどにたまっていた。それを読むことは大変である。文章の意味は通じず、単語がぶつ切れになっている。くしゃくしゃにまるめこまれ、字もくしゃくしゃ、患者達は病院の中に三十余名、くしゃくしゃに詰め込まれて塩素の臭いが立ちこめる。多くの金切り声が聞こえて早三年、書き置きは毎日のようにたまって、くしゃくしゃにまるめこまれている。それを見ることは中々に出来ない。それを取ろうとすると、酷い癇癪を起こすのである。入院当初はそうでもなかった。文章もまだ何とか辛うじてを保っていた、その患者はサラリーマンであった。

 文書管理もしていたその患者、昔を懐かしむことがあっても、それは長く続くことはない。絶えず雑音、耳をつんざく声が聞こえるのであった。文章の意味は通じなくなっていくのと同様、話す言葉も徐々に不鮮明、不明瞭なものとなっていった。患者達はそれぞれの妄想を広げる。高い人口密度の中で溺れ、くしゃくしゃに詰め込まれ、塩素を口に含む。そう、病院の中は三十余名の患者がいて、その中のフロアの患者が書き置きを残したのであった。それは昔に対する感慨であるか、それとも今に対する悲嘆であるのか。それは皆目分からない。患者にあるのは金切り声だけであった。

 そんな病院の医院長はとびきりのキレモノであった。すなわちキワモノとか、シレモノとか、そういうことである。患者達のうめき声やぶつくさ、独り言をボイスレコーダーに収める。開院以来の長い期間、多くの患者達のデータはとても多く、それらはすべてぎゅうぎゅう詰めに医院長室に収められている。また、潔癖症であり、徹底的な消毒を心がけていた。ピュアになるために、患者達に毎日数十グラムの塩素を摂取させている。そんな院内には患者が三十余名いて、そのうちの一人が書き置きを残した。

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