「雷鳴と心」2021年6月15日夜

弁護士事務所の外は雷鳴が鳴り響いて、バケツをひっくり返したように降っている。

まるで、、、いや、考えるのは止めよう。

今は弁護士さんと話すことを考えよう。


「よろしくお願いします」


『こちらこそよろしくお願いします』


名刺を受け取ると、連絡先、名前など色々書いてあった。

弁護士さんの胸元には、天秤が刻まれた金色のバッチが輝いてる。


『早速ですが、相談内容について伺いますね』


「はい」


『お金を盗られたらしいですね』


「はい」


『その盗った人物との関係はどういったものですか?』


「母の彼氏です」


『まだ籍は入れてないのですね?』


「はい」


『それは良かった、、、もし籍を入れてると、法律的にかなり面倒なことになるケースが多いので』


「そうですね、、、まだ籍を入れてないので、他人扱いできますからね」


『その通りです』


「お金を取り戻すために、どうすればいいと思いますか?内容証明ですか?」

「探偵等で、過去を探ってとか、、、」


『探偵で探った過去でも、しょせんは過去ですので裁判に使える資料にはなりません』

『案外、手紙とかで解決できるものなんですよ』

『その人にとって社会的な制裁は避けたい事案ですから、お金で解決できるなら払うと思います』


「置手紙とかで払えわんと親戚等に言うとか、書けばいいんですね?」


『そんな感じですね』

『ですので、親戚にはこちらから連絡しないことですね』


「分かりました」

「母が使ってる車はアイツ名義でして、置いて行った方が無難ですか?」


『そうですね、その方がもめなくてすみます』


「分かりました」

「実は、お金以外に問題が浮上しまして、、、」


『え、なんです?』


「妹のことなんです」

「性的なイタズラをされたり、裸の写真を撮られた可能性があります」


弁護士さんが少し渋い顔をしたのを、見た。やっぱ難しいのか、、、


『例えば、どんなことですか』


「風呂場の隣のトイレのドアの隙間から写真を撮られた」

「ラブホに社会見学と偽って、連れ込みました」

「幸い直接的な被害はありませんでしたが、かなり危なかったと思います」


『そうですか、、、罪に問うのは難しいと思います』


やっぱりか、、、弁護士さんが困るけど、これだけは聞いておこう。


「レイプされないと、罪に問えないのですか?」

「かなり危なくても、こんなことする人間を放置できるんですか?」


『、、、、、、』


雨の勢いが増して、地面にたたきつける音が増した。


「何か言ってください」


『、、、、、、』


空が光って、雷鳴が響いている。


「人として、何とも思わないんですか?」


『すみません、、、水掛け論で逃げられると思います』

『ラブホのカメラ映像でも、厳しいです』

『私どもの力では、出来ないんです』


クソったれ、、、なんだよ、、、

行き場のない怒りが膨れ上がっていくのを、吐きだすように叫んだ。


「泣き寝入りしろって言うんですか?」


近くに雷が落ちて、地面が揺れた。


『はい、そうした方が傷が浅くすむと思います』


「分かりました」


『その人を追い詰めると、最悪写真等をバラまかれると思います』

『過去にそういうケースがありました』

『何もかも失った人間ほど、怖いものはありません』


「そうですか、、、すみません」


『気持ちは分かります』


「お金のことは、もし裁判やっても勝てるんですね?」


『必ずとは言いませんが、勝てます』

『まずは手紙で伝えてみてください』

『裁判費用をかけずに返ってきたら、そっちの方がいいですよね?』


「ま、、、そうですね」

「今日はありがとうございました」


そこからの記憶はない。

気づいたときにはアパートにいて、服を脱いで寝ていた。

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