第43話 シーフードミックスの海鮮塩焼きそば
「ああそうだ、アシュリーさんにお願いがあったんでした。」
「もへがい?(お願い?)モグモグ。
──ゴックン。何かしら。」
アシュリーさんは口の中にもんじゃ焼きを入れたまま、もぐもぐと返事をして、うまく言葉になっていないのに気付いてそれを飲み込んだ。相当気に入ったらしく、一番食べてくれている。
俺は思わず嬉しくなって笑ってしまう。
「魔宝石に込められる精霊魔法を、一覧にして提出して欲しいと、王宮から頼まれていたんです。お願い出来ますか?」
「ああ、別に構わないけれど、一日に作れる量は限界があるわよ?人によって魔力量は異なるとはいえ……。」
「現時点では、何をいくつ、いつまでに、というお願いをされているわけではないので、作れる量も合わせて書いていただけるとありがたいかも知れません。」
「そう?それなら大丈夫かしらね。
まあ、時間のある時に、色々作ってはおくけれど……。」
「現時点で精霊魔法が使える方は、そもそも何人いらっしゃるんですか?」
「旅に出てるのをのぞけば、私を入れて15人くらいかしらね?」
「意外と少ないんですね?」
この集落には少なく見積もっても200人以上のコボルトがいる。それで15人とは。
「精霊の加護があると言っても、魔法が使えるとなると少ないのよね。
人間みたいに個別で契約を結んでいれば、全員が使えるんでしょうけど。
私たちは種族全体に対する加護だから、ひとりひとり差があるの。」
「人間は契約を結んで精霊魔法を使うんですか?」
そもそもそのことを知らなかったので驚いた。冒険者ギルドで冒険者登録する際の説明の1つとして、魔法使いは生まれつき属性魔法が付与されている人間だけが使えるものだと聞いていたからだ。
「稀にいるらしいわよ。契約を結んで精霊魔法を使う人間が。
ジョージのように、個人で加護を得るほうが珍しいわ。
過去に精霊に加護を得た人間もいないわけじゃないけど、一般的には個別に契約を結ばないと、人間は精霊魔法を使えないわね。
だから精霊魔法使いは珍しいのよ。」
「でも、俺は別に魔法は使えませんが。」
「加護してる精霊が小さいからよ。大きくなって精霊自体の魔力が増せば、いずれ使えるようになるわ。
それか、信仰と、受けた愛情の度合いでも魔力の成長度合いが異なるというから、今の大きさのままでも、使えるようになることもあるかもね。」
そういえば、以前オンスリーさんとロンメルが、そんなようなことを言っていたような気もするな。
特に魔法がなくて困ったことはないが、もしもカイアを狙ってくる人間や魔物がいた場合、それを守れる魔法が使えるようになるならありがたいな。
「ああ、それと、魔道具の開発にはもうちょっと時間がかかるみたいで、そこだけが読めないんですよね。」
「魔道具?なんの?」
「敵を感知する精霊魔法と、ゴーレムを発動させる精霊魔法を合体させた魔道具です。」
「どうしてそれを作ってるの?」
アシュリーさんは不思議そうだ。
「柵だけじゃ、夜中や大勢で来られた時に不安ですからね。」
「魔法自体を合成すればいいのに、どうして魔道具でそれをしようとしているの?」
「魔法は合成出来るんですか!?」
またしても驚愕した。
「ええ、出来るものと出来ないものがあるけれど、その2つの魔法なら合成出来るわよ?敵を感知する精霊魔法と連動して、ゴーレムが出てくるようにすればいいのでしょう?」
「ええ、そういうものを魔道具師の方に研究して作って貰っていますが……。」
「魔力を膨大に使用するから、一度にたくさんは作れないけれど、別に魔道具で合成しなくても作れるわよ?」
「そうだったんですね……。」
灯台下暗しだ。魔道具でないと出来ないものだと思っていた。
「では、それを皆さんで作っていただけますか?柵の周囲に、一定の間隔で設置したいと思っているのです。
時間のある時に作っていただく魔宝石は、まずはそちらを最優先していただけますでしょうか。集落の守りを固めてからでないと、店を開くのは心配なので。」
「分かったわ。みんなに伝えておく。
作れる一覧は今から書くわね。」
「お食事が終わってからで結構ですよ?」
「大丈夫、もうタップリ食べたから。」
ニッコリ微笑んでアシュリーさんそう言って、ポン!とお腹を叩いてみせた。
「それと、王宮に先に納入するので、オンバ茶と、食器と、セッテと、ペシと、ラカンをある程度先にいただきたいのですが。
特にオンバ茶は、国王の妹君に、広告塔になっていただく予定なので、毎日10杯、一ヶ月飲めるだけの量が欲しいのです。」
「広告塔?それってどういう効果なの?」
アシュリーさんは不思議そうに首をかしげた。
「オンバ茶の若返りの効果を、宮廷魔術師のグレイスさんという方が保証されたことで、それを店に出す前に飲みたいと、現国王の妹君である、セレス様がおっしゃいまして。
一ヶ月オンバ茶を飲んで、目に見えて若返ったセレス様を見て、貴族の御婦人方がこぞって買いたがるだろうと、協力してくれている、国一番のルピラス商会が。」
「それを広告塔というのね、分かったわ。
ジョージが帰る頃までに用意させるわ。
それでオンバ茶だけは、値段を高く設定するというわけなのね。」
「ええ、若さを手に入れられるとなれば、必ず飛びつくだろうと言うことでした。
あとは高額転売を避けるためだと。」
アシュリーさんは、了解、リストを書いてくるわ、と自宅に戻っていった。
鉄板が大きく、もんじゃ焼きはすぐに焼けるとはいえ、全員に行き渡るのに時間がかかる。子どもたちを優先に交代で食べてくれているけれど、間があくとまたちょっとお腹が空くのか、みんなどんどん食べていて、作るのが追いついていない。
腹にたまるものを、もうちょい何か作ろうかな?俺はどこかの家でキッチンを貸してくれないか訪ねたら、料理店をやっているというコボルトが名乗りを上げてくれた。
店のキッチンを貸してくれるらしい。
おまけにコボルトの料理は肉が多いから、巨大な鉄板があるという。ありがたい。
俺は、焼きそば麺、にんじん、長ネギ、玉ねぎ、キャベツ、ピーマン、もやし、ニラ、にんにく、レモン、シーフードミックス、豚肉、酒、醤油、創味シャンタン、ブラックペッパーを出し、かまどに置いてきてしまったので、塩、サラダ油、油引き、キッチンペーパー、ボウル、大ベラを新たに2つ出した。
長ネギは斜め切りにし、キャベツは食べやすく適当な大きさに切り、にんじんは火が通りにくいので薄く細長に切る。玉ねぎは薄い串切り、ピーマンは細切り、ニラは適当な長さに、にんにくは薄切り、もやしはそのまま使う。野菜は何でもいいが。
熱した鉄板(ホットプレートでも、フライパンでもいい)に、サラダ油を入れて油引きで鉄板全体に均等にのばしたら、野菜をざっくりと炒める。
しんなりしてきたらいったん隅に寄せて、キッチンペーパーで余分な水と油を拭き取るのがコツだ。
ここで一度野菜を取り出し、再びサラダ油を引いて、適当な大きさに切った豚肉と、シーフードミックスを炒める。エビと大きめのイカが入ったものだ。冷凍したものを解凍したものでいい。
ボウルに焼きそば麺を入れ、熱湯を少しかけて、焼きそばをほぐしながら少し温めておく。電子レンジで温めてもいい。
炒めた豚肉とシーフードミックスから水が出たら、同じくキッチンペーパーで余分な水と油を拭き取り、豚肉に焼き目がついたら、取り出しておいた野菜の上に乗せておく。
鉄板をきれいに拭いて、サラダ油をしいたら、麺を鉄板に広げて焼き色をつけてやり、少し塩をふりかけて混ぜて味をなじませてから、野菜と豚肉とシーフードミックスを戻してやり、更に塩と、酒少々、ブラックペッパーを加えて混ぜる。酒を入れることで麺がしっとりもちもちになるのだ。
創味シャンタンを加えて混ぜ、ほんの少し香り付けで醤油を加え、皿に盛り付けてお好みでかけて貰う為にカットしたレモンをそえて、シーフードミックスの海鮮塩焼きそばの完成だ。都度水と油を拭き取っているので、思ったより油っこくならない。
「みんな、こっちも食べてみてくれ。」
お店を貸してくれたコボルトのイエッツァさんとともに、お盆に乗せたシーフードミックスの海鮮塩焼きそばを運んでゆくと、みんな次々に手に取って分け合って食べている。
大人数分一気に作ったが、これもまた足りなくなるかな?
そう思っていると、いつの間にか他のコボルトたちも、各家庭で料理を作って持ち寄ってくれたようだ。みんなでお腹いっぱいそれを食べる。
「はい、ジョージ、魔宝石に付与可能な精霊魔法のリストよ──って、それは何?美味しそう!私も食べるわ!」
シーフードミックスの海鮮塩焼きそばを見て、リストを作って戻って来たアシュリーさんが、さっそく目を輝かせる。
アシュリーさんも食い道楽な人なんだな。
今回の件をきっかけに、友人になれるかも知れないなあ。
「シーフードミックスの海鮮塩焼きそばですよ、お好みでレモンをかけて召し上がってみてください。」
「初めて聞く料理ね!ジョージの作るものは、どれも目新しくて、素材をたくさん使っていて、美味しそうなものばかりね!」
アシュリーさんは嬉しそうだ。
「今回は野菜をたくさん使いましたけど、別に普段はここまで入れないですよ。焼きそばという、麺がメインの料理なので、各家庭で作る時は、みんなここまで色々入れませんから。今回は食べごたえを重視したので、素材が多いですけどね。」
「そうなの?うん!美味しい!さっきのもんじゃ焼きも美味しかったけど、私はこれのほうが好きかも!レモンも凄く合うわ。
油が光って見えるのに、さっぱりしてるのが不思議ね!いくらでも食べられちゃいそうよ。うーん、食べ終わりたくないわ。」
「焼きそばは色んな作り方の種類があるんですよ。これはそのうちの1つの、塩焼きそばという作り方です。」
「そうなの?凄く食べてみたいわ。
いつか別の種類も食べさせてね!」
「ええ、もちろん。」
シーフードミックスの海鮮塩焼きそばも大好評で、みんな大満足の中、パーティーは終わった。俺はみんなに再び声をかけた。
俺は忍び返しを取り出して、
「柵が完成したら、柵のてっぺんにこれをズラッと隙間なく取り付けて下さい。」
と伝えた。
「敵の侵入を防ぐものだな?」
「はい、そうです。」
オンスリーさんの言葉に俺がうなずく。
「これに加えて侵入者に反応するゴーレムの魔宝石を各所に設置すれば、忍び返しをこえてなお侵入する賊がいても、すぐに捕まえることが出来るでしょう。」
「店に立つ他の従業員は、これからゆっくりみんなと相談するよ。
ジョージ、本当にありがとう。」
オンスリーさんがお礼を言ってくれる。
「その言葉は、店が成功するまで取っておいて下さい。店が出来たら、店に立たない方々も、ぜひ見に来てくださいね。」
もちろんだ、とみんなうなずいてくれた。
「それじゃ、俺はそろそろ、乗合馬車が心配なので帰りますね。」
「もうそんな時間なのね、残念だわ。」
アシュリーさんが本当に残念そうに言う。
「ええ、でもまた近いうちに来ますから。
──カイア、帰るぞ。」
コボルトの子どもたちと一緒に、シーフードミックスの海鮮塩焼きそばをまだ食べていたカイアは、口の中のものを急いで飲み込んで、みんなに手を振って俺のところにかけてきた。コボルトの子どもたちも、笑顔でカイアに手を振っている。
「ああ、ジョージ、頼まれていたものはこれよ。こんなに一度に持てる?」
大量の食器と、オンバ茶と、セッテと、ペシと、ラカンを渡される。
「俺のマジックバッグは無限に近いので、問題ないです。」
俺はそう言って、すべてマジックバッグに入れた。
「いいわねえ、私も持ってるけど、そこまでは入らないわ。」
アシュリーさんが羨ましそうに言う。
一番いいのを出したからなあ。普通の人は無限近く入るマジックバッグは持っていないのかも知れない。
「お店が成功したら、一番いいのを買えるかも知れませんよ?」
「──もしもそこまで儲かるのなら、みんなで分け合う、それがコボルトよ。私一人の儲けにはしないわ。」
アシュリーさんが爽やかに笑った。
そうやって助け合って生きてきたんだろうな。だからこんなにも仲間意識が強くて、仲間と思った相手に優しいのだ、コボルトという種族は。
俺はみんなに手を振って別れたあと、乗合馬車を待つ間に、しばらく時間があったので、マジックバッグにカイアを入れずに、抱っこしたまま馬車を待っていた。
俺はふと、カイアに尋ねた。
「カイア、コボルトのみんなが好きか?」
「ピョル!ピョルピョル!」
カイアは嬉しそうに両方の枝の手を振って笑顔で俺を見る。
「そうか、好きか。俺も大好きだ。」
俺もカイアに微笑みかえす。
コボルトを守護しているわけじゃない、別の精霊のカイアにも好かれている。やはりコボルトはそういう存在なのだと思った。
そういえば、コボルトを守護している精霊は、カイアと同じドライアドの子株だと言ってたな。いわばカイアの兄弟だ。
どこにいるんだろうな?集落の中にはそれらしき木は見当たらなかったが。今度来る時、会わせて貰えるか聞いてみよう。
そう思いながら、乗合馬車が遠くに見えたので、俺はカイアにマジックバッグに入るように言って、コボルトの集落をあとにした。
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