第41話 葱塩ダレのサラダチキン温玉トロロそうめん
「魔宝石の購入に関しましては、騎士団長たちと相談して決めさせていただくつもりですので、付与可能な精霊魔法の一覧を、後日届けていただけますでしょうか?
必要な魔宝石と数を、その上で検討したいと存じます。」
「了解いたしました。」
ジョスラン侍従長の言葉に俺がうなずいたのを見て、エドモンドさんもうなずく。
「折りたたみ式コンテナについては、わたくしはぜひとも購入を検討したいと思っておりますが、こちらはセレス様の担当ではございませんので、管理の者と購入数を相談の後、ルピラス商会を通じてご連絡差し上げたいと思います。」
「かしこまりました。」
ジョスラン侍従長がエドモンドさんを見てそう言い、エドモンドさんがそれにうなずいた。
「では、本日は以上と……。」
「あら、まだあるんじゃなくて?」
切り上げようとしたエドモンドさんに、セレス様が笑顔で問いかける。
「まだ、と申しますと……?」
「お店で出す予定の食材があるのでしょう?コボルト特製の……ねえ?」
そう言って俺を見て微笑む。
「それもぜひいただいてみたいわ。
パトリシア様はいかがです?」
「お店に伺うのは難しいと思いますから、私もぜひいただいてみたいですわ。」
「そういうことでしたら……、加熱調理が必要ですので、料理長かロンメルを呼び戻していただいてもよろしいでしょうか?
料理に使わずとも、加熱するだけで召し上がることが可能ですので。」
「ジョスラン。」
「かしこまりました。ロンメルをこれへ。」
パトリシア様の言葉に、従者がロンメルを呼び戻しに行った。しばらくしてロンメルがやって来たので、
「これに火を通してくれないか、素材のままでも味があるから……。」
と、セッテ、ペシ、ラカンを手渡した。
ほどなくして、銀色の蓋が被せられた皿と小分け用の皿とカラトリーを乗せた台車を押して、ロンメルが戻って来た。
従者がパトリシア様、セレス様、ジョスラン侍従長の前に、皿とカトラリーをセットし、テーブルに置いた大皿から、ロンメルが各自に取り分けていく。
「いい匂い……!本当に焼いただけなの?」
パトリシア王女がナイフとフォークを手にして目を輝かせる。
「ええ、加熱しただけです。素材そのままの味をお楽しみ下さい。店では料理に加えたものも出すつもりではおりますが、このままでもじゅうぶん美味しいのです。
俺はよく酒のツマミにしています。」
ほう?と俺の言葉にジョスラン侍従長が初めて目を光らせる。いけるクチかな?
「んっ……!美味しいわ……!」
セレス様は特にテッセがお気に召したらしい。女性に人気出そうだものな。
「ちなみに今回は火を通しましたが、ペシは生でも食べられますよ。
すべて肉を長期間保存可能にする為に、加工したものになります。」
「保存はどのように?」
「王宮は冷蔵庫がありますから、そちらに入れていただけますでしょうか。
塩を多くして燻煙時間を長くすれば、長期間常温保存可能なようにも加工出来ますが、保存を優先致しますので、かなりしょっぱくなってしまって、今のような風味は楽しめなくなりますので……。」
「コボルトの集落でも冷蔵庫で保管を?」
「洞窟に入れて氷魔法を使って冷やして保管しているとのことでした。天然の場所を使った巨大な冷蔵庫というわけですね。」
「なるほどね……。それでは一度に大量に仕入れることは難しいわね。冷蔵庫にも限界があるし、使い切れる量を都度仕入れるのが妥当だと思うわ。仕入れることは確定でよいと思うけれど。」
「私もまた食べたいですわ!」
「恥ずかしながら、わたくしめも、個人的に購入したく思っております。
店が開きました際には、必ず立ち寄らせていただきますので……。」
恥ずかしそうにしながらジョスラン侍従長が言う。ジョスラン侍従長のこんな態度は初めて見る。俺は嬉しくなって笑った。
「では、こちらも王室御用達確定ということで構わないかしら?」
「もちろんですわ!」
「異論はございません。」
俺たちが持ってきたコボルトの製品は、魔宝石を除いて、すべてが王室御用達に決まった。魔宝石はすべてを店に出せるわけではないので、王室御用達にはならなかった。
「折りたたみ式コンテナは、ある程度使用してみてから、判断させていただきたく存じます。自動食器洗浄機は、近く王室御用達の通達があることでしょう。」
ジョスラン侍従長が言った。
そういえば新しく入れたとロンメルが言っていたな。
「土地の購入の件に関しましては、私が保証人になるという、専用の書類の作成が必要ですので、準備が整い次第、ルピラス商会を通じてご連絡させていただきますね。」
パトリシア王女が微笑む。
「かしこまりました。お時間をいただき、本当にありがとうございました。」
俺とエドモンドさんは深く頭を下げた。
王宮をあとにしても、俺とエドモンドさんは興奮冷めやらぬまま馬車に揺られていた。
「……やったな。思った以上の成果だ!」
「はい、殆どを王室御用達にしていただけるとは、さすがに思っていませんでした。」
「早く看板を作らないとな。それと大工と内装業者の手配だ。忙しくなるぞ。」
「俺は明日、コボルトの集落に行ってそれを伝えたいと思います。店に出す分以外に、王宮におさめる分の準備も必要でしょうし、集落を守る為の柵の工事がどうなっているのかも気になりますし。」
「そうだな、特にオンバ茶が奪われるようじゃまずい。あれは本当に金になる。
ジョージが売ろうとしていた価格の10倍以上に設定したほうがいい。」
「ですが、それですと大勢の方の手に渡らないのでは……。」
広める目的からすると逆になってしまう。
「いや、安くすると買い占めて転売する奴らが現れる。そのほうがまずい。それにその価格でも貴族は購入するだろう。
店に出すよりも先に、セレス様に納入するんだ、店を出すころには、セレス様がいい広告塔になってくれるだろうさ。」
エドモンドさんがニヤリとする。
「エドモンドさんがおっしゃるのであればそうなんでしょうね。分かりました、オンバ茶の価格は引き上げます。」
「いや、待てよ……。10倍でも安いな。
50倍だ、ジョージ。」
「50倍!?さすがに異常過ぎる価格ではないですか?お茶ですよ?」
「──ジョージ、女性が最も欲しがるものはなんだと思う。」
「美……ですか?」
「……それと若ささ。これから店を出すまでの間に、セレス様は毎日10杯以上のお茶を飲んで、日々若返るだろうさ。何せ効果が保証されてるんだからな。」
まあ、確かにグレイスさんが保証してくれたし、セレス様が目に見えて若返ったら、みんな驚くだろうな。
「そうなったらみんな飛びつく。50倍でも安いくらいだ。保証する。100倍でも転売されるだろう。
──これでも譲歩したくらいだぜ?」
「王宮にもその値段で販売を?」
「もちろんだ。いくら出しても確実に若返るお茶が欲しいことだろう。
お茶は通年で取れるのか?」
「取れますけど……、あまり一気にお金が儲かり過ぎるのも、コボルトの目を曇らせそうで怖いですけどね。」
急に大金を持つと人は変わるからな。
「まあ、そこはコボルト自身でどうにかして貰うしかないな。とりあえず、王宮に渡す分のお茶と食器と食材を持ってきてくれ。多分あの様子なら、すぐにでも注文があるだろうからな。」
「分かりました。」
エドモンドさんはルピラス商会に戻ると、御者を部下の人に代わって貰って、そのまま俺を家に送り届けるように指示した。
自宅について、部下の人にお礼を言い、家に入ると、俺はマジックバックからカイアを出した。
「苦しくなかったか?」
カイアはこっくりとうなずく。マジックバックの中に入れると物が腐らないから、時間の流れ方が凄くゆっくりなのかも知れない。長時間入れていたのに、カイアは少しも寂しがっていなかった。
「さあ、ご飯にしようか。」
と言ってもキョトンとしている。
やはり外と比べると、中の時間の進み方が遅いのだろうか。朝食を食べてすぐにマジックバックの中に入れたから、カイアの中では朝食を食べたばかりのお腹なのかな?
でも俺は腹が減っちまったしなあ……。
消化がよくて簡単なものにでもするか。量を食べれば腹にたまるし、消化がいいからカイアが食べたくなったら、お腹いっぱいでも少しは食べられるしな。
俺は市販のサラダチキン、大根、長芋、長ネギ、小ねぎ、すだち、そうめん、温泉卵を出し、みりん、ごま油、塩、七味唐辛子、鶏ガラスープの素、昆布出汁の素、おろし金を出した。
長ネギを薄い斜め切りにして、鶏ガラスープの素こさじ3、みりん小さじ4、昆布出汁の素小さじ1、塩ひとつまみ、水を120ミリリットル加えて、鍋で加熱する。電子レンジでもいいが、火加減がよく分からないのでそうしている。
ほぐしたサラダチキンを加えて、さらにまぜる。浸透圧で少し味を染み込ませた後、粗熱をとったらボウルに移して、冷凍庫で瞬時に冷やす。冷蔵庫でもいいが、早く腹に何か入れた過ぎて今回はそうした。
大根をむいて大根おろしを作る。
その間に塩を入れた大きめの鍋でそうめんを茹でる。手早くざるにあけて水で冷やしたら、器にそうめんをいれて、冷やしておいたつゆをかけ、サラダチキンと長ネギをきれいに盛り付け、その上にトロロにすった長芋と温泉卵を乗せる。
更に大根おろし、刻んだ小ねぎ、半分に切ったすだちを盛り付け、七味唐辛子、少し塩を混ぜたごま油を振りかけて、葱塩ダレのサラダチキン温玉トロロそうめんの完成だ。
ちなみに今回は冷やしで作ったが、暖かくても美味しくいただけるし、そうめんのかわりにうどんでもいい。
「食べるか?」
俺の分を盛り付けたのを見て、カイアがちょっと興味を示したようだったので聞いてみる。こっくりとうなずいたので、七味唐辛子抜きのものを、小さなお椀に同じように盛って、カイアを抱き上げて俺の隣の椅子に座らせてやり、フォークを渡した。
「すだちは好き嫌いが分かれるから、食べてみて、ちょっとかけてみて嫌なら、かけなくていいぞ。
足りなかったらおかわりがあるからな。」
カイアが一口食べたところで、ちょっとすだちを絞ってやる。
「どうだ?」
すだちのかかった部分を食べて目をキラキラさせた。どうやら気に入ったようだ。
俺も一気にそうめんをかきこむ。うん、めんつゆでなくてもうまいなあ。
葱と塩とごま油の組み合わせって、どうしてこんなに最強なんだろう。酒のツマミにも料理にも合うんだから。
自分ですだちを絞れないカイアが、すだちを絞って欲しがったので、全体に散らすように絞ってかけてやる。
すだちのおかげか、食べたら食欲がわいたらしく、おかわりを欲しがったので、俺の分と一緒におかわりを作ってやり、2人でモリモリ美味しく食べた。
洗い物をしている俺を見て、カイアが真似をしたがったのでやらせてみる。
「このヘチマタワシで洗うんだぞ。」
最初はうまくヘチマタワシが掴めなくて、枝がヘチマタワシにささってしまった。
俺はヘチマタワシが抜けなくて焦っているカイアに、笑いながらヘチマタワシを取ってやると、
「優しく触るんだ。ほら。」
再びヘチマタワシを渡してやる。
日頃食器をテーブルに置いたまま食べているカイアには、重すぎて片手じゃ落っことしそうだったので、俺が一緒に支えてやりながらカイア専用の食器を洗う。
「洗えたらお水で流そうな。」
タンクから水を流して一緒にお椀を洗う。
きれいになったお椀を見て、上手に洗えたことに嬉しそうなカイアに、俺は笑顔が止まらなかった。
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