第8話 鶏わさ風のササミの胡麻和え刺し身と水晶鳥と砂肝のネギ塩レモンとパリパリ鳥皮ポン酢

「ああ、おはようございます。

 昨日はどうも。」

「ごちそう様でした。

 これ、お借りしてたどんぶりと、父から預かった食材です。」


 ティファさんが籠に入った食材とどんぶりを渡してくれたので、俺はそれを受け取った。

「──籠はどうすれば?」

「何かの機会に渡して下されば結構です。」

 ティファさんはそう言って、笑って帰って行った。


 何かの機会ねえ。

 またラズロさんに何か作る事があれば持って行くか。

 今日は俺は狩りをしようと思っているのだ。

 昨日の歓迎会でいい狩り場を、村の猟師に教えて貰っていた。


 ちなみに俺の趣味特技は、料理、アーチェリー、ボルダリング、水泳、釣り、狩猟、クレー射撃、オンライン麻雀である。

 全部1人でもやれるものばかりだが、たまには人ともやる。


 好きな役満は大四喜と緑一色だが、得意なのは字一色と清老頭だ。揃えたことのない役満は地和だけ。流し満貫は1度だけ揃えそこねた。

 またやりたいが、この世界にはそんなものないんだろうなあ。


 狩猟の方はライフルの免許も持っているが、この世界にはそもそも必要ないらしい。

 この世界の猟師も銃を使うというのが聞けたのは僥倖だった。

 俺が使うような銃を持っている人間は当然いないだろうが、銃声がしても気にされないということだ。


 だが俺は今回プリチャージ式の空気銃を出した。

 1発撃つ毎に空気を充填する必要がある他の空気銃と違って、威力や命中精度が抜群な上に、ボンベを使って空気を充填できる。


 空気銃は温度変化の影響を受けるのが難点だが、何より音が静かで獲物の肉を傷めない。

 飛んでいる鳥を狙うのにはあまり向かないと言われるものの、罠にかかった大型の獲物を仕留めるのにも使われるくらい、殺傷能力は高い。


 昨日ラグナス村長の家で出してもらった鳥料理が、俺はいたく気に入ったのである。

 このあたりで取れるノズエという鳥だ。素材を確認すると、キジバトに似ているというから解体も楽そうだ。


 ノズエは水辺のある森の中に生息しているらしい。

 俺はそっと教えて貰った森の中へと入ると、さっそくノズエを見つけてプローンでスコープの中に入るのを待つ。


 プローンは伏射という、腹ばいで寝転んだような態勢の構え方だ。

 構えた銃が地面から離れれば離れるほど、銃の揺れは大きくなり目標にあたりにくくなる。右から左に移動するような獲物を狙う場合は、銃を動かすよりも向こうがこちらの射程に入るのを待つ方が楽だ。


 距離が離れているとゆっくりと動いているように見えるので照準は合わせやすいが、実際には獲物が小さいので、スコープに入る瞬間を予測して打たないと間に合わない。

 だがキジバトや鴨くらいなら外さない。

 俺は無事にノズエを2羽仕留めて回収した。


 自宅に戻り、庭にバケツを出して、頭を落としたノズエを逆さに吊るして血抜きをした。

 現地で血抜きしようか悩んだのだが、血の匂いで何か集まって来ても困るなと思い家に帰ったのだが、血が固くなる前に戻ってこられて良かった。


 鶏は46℃のお湯につけながらでないと羽がむしりにくいが、キジバトは割と関係なくむしりやすい。ノズエも同じなようで、普通にバリバリむしれた。

 バーナーを出して細かい産毛を焼く。


 たわしを出して体を洗い、家の中に入ると、キッチンで手羽先部分にあたる羽と足を落とした。

 お尻の部分から肋骨の部分まで縦に包丁を入れて穴をあけ、指を突っ込んで内蔵を取り出す。

 最初に砂肝、腸がくっついてでてくる。


 再度指を入れて心臓や中身すべてを掻き出して1度水洗いする。

 砂肝のまわりの余計な内蔵を水で洗い落としたら、半分に割って、中にあった消化中と思われる何かも洗い流して、塩水をはったボウルにつけてよけておく。


 別に開いてから内蔵を取り出してもいいのだが、最初に教わったやり方がこうだから、こうしているというだけだ。

 開いてからの方が肺は取りやすい気がする。

 真ん中から骨に沿って包丁を入れ、胸の骨にそって開いてやる。


 肋骨を切り離して胸の骨を外す。

 胸の色の薄い所はササミだ。

 胸の骨の左右から包丁を入れると、自然とササミと胸肉に分離する。胸肉は適当な所で切り落として皮をむいた。


 湯を沸かし、塩をひとつまみ入れて、ササミをさっとくぐらせる。

 表面が白くなったら氷水をはったボウルに入れてよく冷やしてやり、水気を切ってスジを取り除いたら、そぎ切りにして煎った白胡麻とからめてやる。

 鶏わさ風のササミの胡麻和え刺し身の完成だ。

 わさび醤油でいただく。


 食べやすい大きさに切った胸肉を、塩と酒を少々振って揉み込んだら、キッチンペーパーで水気を拭き取り、全体に薄く片栗粉がまぶし、沸騰したお湯に入れて、浮かんで来るまで中まで火を通す。

 茹で上がったら氷水に入れて冷やしてやって、水晶鳥の完成だ。


 つけダレは梅干し2つをほぐしたものに、青じそを3枚刻んだものと、タコを叩くのに使った大根を、大根おろしにして水気を切ったものを少し混ぜて、1分加熱したみりん大さじにと、4倍濃縮の麺つゆ大さじ1とまぜたものを用意した。


 砂肝には非常に硬い皮が付いているのだが、俺はこの部分もコリコリしていて好きなので剥がさないが、普通は切り落として使う。

 砂肝をさっと熱湯で茹でる。


 サラダ油で中火で熱したフライパンで砂肝を炒め、色が変わったら酒大さじ1を振って蓋をして弱火で5分蒸したら、1度砂肝を取り出してフライパンを洗い流して、中火でみじん切りにした白ネギを炒める。


 白ネギがしんなりしたら、鶏ガラスープの素少々、ごま油とレモン汁をそれぞれ大さじ1、にんにくチューブを少々、塩コショウをお好みで振って、白ネギと砂肝と混ぜ合わせて、砂肝のネギ塩レモンの完成だ。


 お次に皮に塩コショウした後で、網の上に乗せて両面をカリカリに焼いて油を抜き、適当に細切りにする。オーブントースターでもいける。

 大根おろしに乗っけて刻んだネギの青い部分を散らして、ポン酢をかけてパリパリ鳥皮ポン酢の出来上がりだ。


 残った手羽先なんかはどうしようかなあ、と思いながら、俺は2階の空いた部屋にガンロッカーを出して、空気銃にエアーを充填して、ガンロッカーに除湿剤を入れて空気銃をしまった。

 空気銃、つまりエアライフルは、水分が一番の敵だ。


 エアライフルが濡れている場合は、必ず水分を拭き取って保管する必要がある。銃砲身内に水分が入った時は、軽くシリコンスプレーを吹きかけた、クリーニング用のフェルト製ペレットを発射しておくとよい。


 空気銃で鉛弾を撃った後、最後にこのクリーニング用のフェルト製ペレットを発射させることで、手間なく簡単に銃口内のクリーニングが出来るのだが、シリコンスプレーを吹きかけてあることで、中をコーティングしてくれる。


「──いただきます。」

 俺は1階に降りて食事にすることにした。

 今日はノズエを使った、鶏わさ風のササミの胡麻和え刺し身、水晶鳥、砂肝のネギ塩レモン、パリパリ鳥皮ポン酢だ。鶏用のレシピだけど実に合う。


 新鮮な刺し身はさっぱりしているし、水晶鳥のぷるぷるの食感がたまらない。砂肝がやっぱり身よりも好きだな、俺は。鳥皮の食感が嫌いで焼いたが、正解だったな。こっちの方がうまい。


 地元のノズエづくしを堪能し、大満足した俺は、そういえば、オーク肉も美味かったあ、と思い出した。

 オークは冒険者ギルドに登録してないと、狩ることが出来ないらしく、狩る以外で手に入れるとなると、買うか譲って貰うかするしかない。


 冒険者ギルドか……。

 異世界の食材ももっと堪能してみたいし、登録してみるか?銃があれば別に狩りは出来るわけだしな。

 許可があるかないかだけの違いだ。


 俺はノズエの余った部位を適当に料理して、ラグナス村長への手土産にし、冒険者ギルドに登録したい旨を告げに行った。

 なんの身分の保証もない俺としては、村長に保証人になって欲しかったのだ。


 だがラグナス村長の家を訪ねて俺は拍子抜けした。冒険者ギルドに登録するのに、別に何の保証人も身分証明書もいらないのだという。

 緩いな、異世界。

 なんでそれで、登録しないと魔物が狩れないんだ?


 まあ、せっかく手土産も貰ったことだし、と、ラグナス村長は冒険者ギルドまで案内をかってでてくれた。

 冒険者ギルドで登録を済ませたものの、いきなり魔物狩りは出来ないらしい。


 まずはランクを上げる為に、薬草だのを採取しないとならないらしい。

 面倒だが段階を踏めと言うなら仕方ない。

 たかが薬草取りと言っても、魔物が出るところにはえているから、一応冒険者への依頼となるのだそうだ。


 薬草の形を知らないので、ちょうど納品のあったものを見せて貰った。

〈ナナカイ〉

 薬草。体力回復薬などの原料になる。

 山奥に自生している。


 こいつを10回受けて、ようやく1つランクが上がるらしい。

 山奥に10回だと?いちいち山を登って降りるのか?

 まとめて受けられないのかと聞いたが、そんなに見つかるものでもないらしい。


 他にも同時に受けられるものがないか聞いたら、毒消しの元になる草を集めるクエストもあるらしい。

 村長の口利きで、同時に2つ受けさせて貰うことになったので助かった。


 毒消しの元になる草を見せて貰う。

〈セペック〉

 薬草。毒消しの薬の原料になる。

 とても苦くて食べられない。

 とあった。


 魔物が出るとなると、空気銃じゃ心もとないので、俺はライフルを持って行くことにした。

 石ころが転がっていて、とても草なんて生えていなそうな山道を登る。


 ようやく森のあるところにたどり着き、3本ナナカイを見つけたが、なるほど、これじゃあ確かに、まとめて納品が難しいわけだ。 

 ふと、俺は、これも出せばいいんじゃないのか?と、いうことに思い当たった。


 試しにナナカイとセペックを10回納品分出してみる。ドサドサドサッと空中から大量の草が落ちてくる。

 しまった、山になんて登らずに、冒険者ギルドの近くで出せば良かった。

 こんな大量の草を、どうやって運べと言うんだ。


 この世界には魔法があるという。何か魔法で収納出来たり、収納出来る魔法のかかったアイテムが出せないだろうか。

 俺は無限に収納出来る鞄をイメージして出してみた。すると出て来た鞄はいくらでも物が入るではないか。


「──こいつはいいな。」

 俺は大量のナナカイとセペックを鞄にしまった。

 突如、森の中から逃げるように鳥たちが飛び立った。俺はライフルを構えてスコープを覗いた。


 木の間からやたらとでかいイノシシが突進してくる。

 ──眉間にヘッドショット一発。

 勢いのままよろけてカーブしながら多少走ると、イノシシはその場にバタリと倒れた。

 イノシシはまっすぐ来るから、落ち着いていればどうということはない。


「こいつも持って帰りたいな。」

 なんとか鞄に押し込めないかと試行錯誤していたら、ニュニュニュッと空間が歪んだようにイノシシが変形したかと思うと、スポッと鞄の中におさまった。


「こいつはいいや。」

 俺はゆうゆうと山を降りて冒険者ギルドのカウンターに向かった。

「納品したいんだがどうすればいい?」

「では、あちらの納品カウンターにお願いします。」


 俺は言われてカウンターでナナカイとセペックを出そうとして、間違えてイノシシを出してしまった。

「こ、これは……、ランクDクエストのワイルドボアじゃないか!」

 イノシシじゃなかったのか。


 今日登録したばかりの新人が、ワイルドボアを討伐して来たと、冒険者ギルドの中は大騒ぎになり、早く帰りたかった俺は、ナナカイとセペックをまとめて出したら、更に大騒ぎになってしまった。

 なあ……。早くそれ、持って帰って食いたいんだがな、俺は。

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