サボテンは話しかけるとよく育つと言うので

寺音

私の話(愚痴)を聞けー!

 十二月の末、私、不衣幸子ふい ゆきこはサボテンを買った。

 冬にサボテンなんて大丈夫かなと思ったけど、聞けば部屋の中で育てる分には問題ないそう。前から気になってたし、勢いって大事よね。

 

 迎えたサボテンは真っ白くて細いトゲと丸いフォルムが特徴的な品種だ。うまく育てていけば黄色い花が咲くらしい。


 さて何故私はサボテンを買ったのか。


 それはサボテンが『話しかけるとよく育つ』と言われているからだ。



「調べると本当に効果あるみたいだし。たくさんお話ししようね! と言うか」

 サボテンを寝室のローテーブルに置く。カーペットの上に正座して、息を大きく吸い込んだ。


「お願いだから私の愚痴を聞いて!! 『どうせネタでしょ』とか、『ちょっとは盛ったでしょ』とか、『酒の肴としては良いよね』とか、一切要らないから‼︎」


 何を隠そうこの私、幼い頃からまるでトラブルに遭遇しまくっている。名前の一部をとると『不幸』になるとか、そんな使い古されたネタはいらない。

 時々大学の友人に愚痴を聞いてもらっていたけど、あまり真面目に受け取ってもらえない。場が盛り上がるならばと我慢していたが、限界だった。

 そんな時、駅前の花屋に売られたサボテンが目に入ったのである。


 私は考えた。

 サボテンは話しかけられるとよく育つ。

 サボテンに愚痴を聞かせれば、私はスッキリする。

 つまり、相互利益、ウィンウィンと言うやつでは?


 女子大生の不幸話がサボテンに良い影響を与えるかは別として。

 

 私もただ壁に向かって独り言を言うよりは、『サボテンを育てている』と言う大義名分ができて良いかも、と思ったのだ。



 私はコンビニで仕入れてきた缶チューハイをお伴に、早速サボテンに愚痴り始める。

 

 

 入学式の日。高い木に登って降りられなくなっている子猫を見つけ、木に登って助けようとしたら何故か襲われ逆さ吊りになった話。

 ちなみに子猫は私を踏んで華麗に着地。どこかへ駆けて行った。

 

 履歴書用の写真を撮影しに行った日。なんとか撮影を終えて帰る途中、喉が渇いて自動販売機で缶コーラを買った。ところが取り出し口から缶が上手く取れず、必死に引っ張った結果、手からすっぽ抜け空を舞うコーラ。 

 歩道で跳ねて車道に転がりトラックのタイヤにぶつかり、私の方に跳ね返ってからの、降り注ぐコーラのシャワー。

 結果、証明写真が台無しになった話。

 

 講義中、シャーペンの芯が折れに折れて全滅し、神(同級生)が降臨して鉛筆を貸してくれるも、それすら折ってとにかく気まずかった話。


 などなどなど。

 ネタは山ほどあった。一晩では語り尽くせぬほどあった。

 私はそれを、お酒の力も借りてとにかく語りに語った。


 まさか、あんなことになるとは思いもせずに。

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