望みの世界

月影いる

伝説の…?


 田んぼに水をはるこの時期だけ、行ける場所がある。

 限られた条件下で限られた者しか行くことが出来ないその世界は、村の皆から伝説として語り継がれてきた。

 

 ——202X年  現在

 

夏織かおりー。一緒に帰ろ。」

 放課後。友人から声がかかる。

「ちょっと待ってー!すぐ行くから!」

 慌てて帰り支度をする私は、篠宮しのみや夏織。中学二年生だ。そしてこの友人は川喜田冬子かわきたとうこ。同じクラスメイトで小学生の頃から一緒に登下校したり、休み時間は共に過ごしている。まあ、ずっと一緒にいるって感じかな。

 今日も一日適当に授業を受けて、やっとむかえた放課後。私はさっきまで開いていた社会の教科書を机の中に放り込むと重量から開放されたカバンを軽々持ち上げて廊下で待っていた冬子の元へ駆け寄った。

「ごめん!待たせた!帰ろう!」

「もー。遅いよ夏織。ほら、帰るよー。」

 呆れながらも笑って歩き出す冬子。私は置いていかれないようにと慌てて着いていく。

「今日も一日だるかったね〜。この蒸し暑い中体育とかしんどかったよ。」

「わかる。そもそも冬子は運動苦手だもんね。体育自体嫌なんじゃない?」

「ああー。そうだね。運動するって言うだけでもう顔面蒼白。夏織は運動、好きなんだっけ?」

「そうだね。体を動かすのは好きだなー。楽しいし!でも、ずっと席に座っていなくちゃいけない授業は本当にキツいよ。眠いし。」

 欠伸あくびをしながら答える。

「夏織らしいねー!今日だってずっと寝てなかった?社会の時とかも机に突っ伏して堂々と寝てたよ。」

 笑いながら冬子が言う。階段をゆっくりと降りながら私はこう言った。

「まじ?先生怒ってなかった?起きようと頑張ったんだけどなー。」

「それいっつも言ってるよねー。結果寝てるから。先生も日常茶飯事だって呆れていたよ。」

「うわっ!先生に見られてたんか!そろそろ成績ヤバいかもな……。」

 危機感なく笑いながら言う私。おいおいと言うかのように溜息をつきながら呆れた表情の冬子。そうこうしているうちに二人は下駄箱前まできていた。各々外履きに履き替えている時、急に冬子が不思議なことを聞いてきた。

「そういえばさ、夏織はって知ってる?」

 私はキョトンとした表情を浮かべた。一瞬冬子が何を言っているのかわからなかったからだ。でもすぐにのことだと理解した。

のこと?聞いたことはあるけど……よく分からないや。」

 靴のかかと部分に手を入れながら半ば強引に履くと私は冬子と共に校舎を出る。

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